第6話

 朝焼けの日の温かさを感じて、マキは目を開けた。

 寝ぼけ眼を擦って、いまだ冷めない頭で現状を把握しようとする。

 周囲を見渡した先には、人気のないホームで見知らぬ男が銃の手入れをしていた。

「おはよう」

 ようやく脳が覚醒したマキは寝床代わりにしていた駅のベンチから立ち上がった。

「おはよう。……まだ生きてるのが不思議ね。まだ体が重いわ」

 その言葉に、五郎はまったくだと言って笑った。

 先日の戦いの後、体を引きずるようにして駅までたどり着いた2人は、数時間ごとに見張りを交代しながら仮眠をとって回復に努めていた。

 マキは銃を手入れしている五郎をしげしげと見つめる。

「銃って手間がかかるのね」

「撃った後は火薬と鉛のカスを掃除しないと事故に繋がるんだ。装弾にも時間がかかるし」

 油と布で汚れを取った後は、ローディングレバーで薬室に火薬と鉛玉を詰め込み、その上からグリスを塗ることで引火を防ぐ。

「最後に雷管をつけて……完成だ」

「これ、敵の前で銃弾が切れたらどうするの?」

「君に祈る」

「戦いぶりを見てると釈然としないけれど。さっきは、助かったわ」

 銃をホルスターに戻し、五郎はうつむいた。

「……さっきの女性とはどういう関係だったんだ。先生とか言ってたけど」

 マキは目を合わせずにおどけて見せた。

「別に、剣の先生ってだけ。命令されたら私を殺しに来るぐらいには薄情者よ。

 あんたこそ、あの三島ってやつとはどういう関係なの」

 マキを見習うように、肩をすくめて五郎もおどけて見せる。

「俺も別に親しかったわけじゃないよ。幼馴染で、虐めの元凶さ。

 最初は軽いからかいのつもりだったらしいけど、その内輪ノリが奴の手から離れるまでに時間はかからなかったよ。奴は見て見ぬ振りしたけどね」

 マキはベンチに背中を預け空を見上げた。

「じゃ、仕方ないわね」

「そう、仕方ない」

 五郎は危険な銅山の仕事で人の死に慣れていた、マキも数えられないほど人を殺してきた。だからと言って、胸を締め付ける重圧が晴れることはない。

  けたたましい音と共に蒸気機関車がやってくる。

「行きましょう。生き残ることが弔いよ」

「あぁ、このままじゃ気が済まない」

 二人は敵地へと向かう汽車に乗り込んだ。

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