真実は 中身の飛び出た ぬいぐるみ

長月瓦礫

真実は 中身の飛び出た ぬいぐるみ


短く刈られた髪、ギラギラとした目でサシャは棚を漁っている。サイズの合っていない黒いマントから伸びた細い腕で、食べ物に飢えている動物のようにお菓子を探している。


それでも、店員の頭から目を離さない。

店員の頭からコインがこぼれおちている。

誰かに物を盗まれるサインだ。


サシャはその日に起きる不幸を様々なかたちで見ることができる。

その能力を生かし、占い師として生計を立てていた。

わざわざサシャを探しだして占ってもらう人もいるくらいだ。

よく当たる占い師として名は知られ、人々からきょうを読む人と呼ばれていた。


未来予知の魔法はかなり貴重らしい。そう簡単に死なれては困るということで、彼女は魔界を統治している評議会から保護を受けていた。

日々の生活から教育まで支援の内容はかなりしっかりしている。


学校に通うようになってから、読み書きができるようになった。

魔法の制御はできないから、精度を上げるように言われた。

より未来のことを具体的に、今日だけじゃなく数日後のことまで分かるようにする。


魔法は技術だから覚えたら絶対に忘れないということで、先生はかなり力を入れて教えてくれる。この世界のために貢献してほしいと考えているようだ。


本来であれば、能力に見合っただけのぜいたくな暮らしができるのだろうが、魅力的だとは思わなかった。必要最低限の支援を受け、あとは自由にさせてもらっている。


上流階級の人間と仲良くしたいとは思わないし、政治の話も興味がない。

情勢がひっくり返ったところで、何も変わらないだろう。

自分のルーツが分かるわけでもない。


占いだってそうだ。サシャが見たものを勝手に教えていただけだ。

自分だけ特別に扱われても困る。


だから、彼女はいつも通りに暮らしていた。

授業が終わったらアオハル堂でお菓子を買って、適当に人に声をかける。


今日も通りで人を観察していたところ、この店の店員が目に止まった。

店員は顔を上げて客の姿を確認するだけで、何をしているかまでは把握できないらしい。


本棚の前に猫背で禿げ上がった男がいた。

きょろきょろとあたりを見回し、店員の姿を何度も確認している。

店員はカウンターで作業していて、男に気づきそうにない。


男の肩に中身の飛び出たぬいぐるみが引っ付いていた。

隠し事がバレるサインだ。

男は店員の姿を何度も確認したのち、本をよれよれのバッグに入れて、店を出ようとした。ちょうど死角になっていて、気づかれないと思ったのだろう。

サシャは男の手首を掴んだ。


「それ、商品じゃないですよ」


男はバッグを放り出して店からあわてて逃げだした。ぬいぐるみは消えていた。

本を勝手に持ち去るつもりだったらしいが、サシャに止められた。

店員の頭からこぼれていたコインも消えた。


「あの人、これを盗もうとしてました」


店員は目を見開いて、サシャと本を何度も交互に見る。

本当に気づいていなかったらしい。


「物が盗まれるサインが出ていたので、見張ってたんです」


「なんだ、そう言ってくれればよかったのに」


「あの人に気づかれたら意味がないじゃないですか」


「……ま、ありがとね。

今日のお礼ってことで、好きなお菓子を持って行っていいから」


「いいんですか?」


「いいよ。けど、次からはこっそり教えてね」


「分かりました」


棒付きのキャンディを持って店の外に出た。

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真実は 中身の飛び出た ぬいぐるみ 長月瓦礫 @debrisbottle00

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