第8話 初恋

【立川目 朝陽】。アタシの幼なじみ。生まれたのも朝陽の方が1ヶ月早い。


朝陽はスポーツは何でも大体こなせるし、何より頭がずば抜けて良い。テスト期間中などは朝陽からよく勉強を教えてもらっていた。そのお陰でアタシもそこそこ頭は良い方だ。

コレ、自慢。

それに朝陽が部屋に入って、小さなテーブルで向かい合って勉強するなんて、とてもドキドキした。

朝陽は小さい時も今も変わらずかっこいい。瞳は黒い部分が少し茶色がかってとてもキレイだ。見つめていると吸い込まれそうになる。鼻筋もスっと通っているし、唇も少しポテッとしていて、思わずキスしたくなる。


朝陽の家系は医者一家。

お父さんは総合病院の院長で、お母さんは婦人科。朝陽には年の離れたお兄さんが2人居て、2人共医科大学の6年生と4年生。

朝陽もおそらくその道を進むのだろう。


アタシも朝陽も、住む世界が変われば会えなくなるんだって思ったら、寂しくなった。

でも朝陽は

「ボクは田舎の県の大学だから、何も変わらないよ。何かあったらいつでも連絡していいからね。ボクたちは幼なじみなんだから…」

と、言ってくれた。

そう。いつまで経っても『幼なじみ』。朝陽はれっきとした男の子だから、アタシのことは恋愛対象外。それは分かっていたけど、朝陽に彼女が出来たって聞いた時は、とてもショックだった…。


ずっと一緒に育ってきた。朝陽の笑顔が大好きだった。

朝陽は優しいから、アタシの遊びに付き合ってくれた。ままごとだって、お医者さんごっこだって、嫌がらずに遊んでくれた。

春はお母さんに頼んでお弁当作ってもらって、一緒に桜の木の下でお弁当を食べたり、ジャンプしてどっちが枝に届くか、競争した。

夏はアタシの家でスイカを食べて、どっちが種を飛ばせるか、外に向かって2人でぷッぷッって飛ばしあったな。

花火もした。アタシは花火が怖かったけど、朝陽がアタシの手の上に乗せ、1つの花火を2人でした。

「ほら、大丈夫。怖くないでしょ?」

朝陽は優しい。

1番最後はアタシの好きな線香花火。2人でしゃがみ込んで、お互いの線香花火のどっちが長くパチパチしているか、競争した。

秋は紅葉。落ち葉がいっぱいの公園に行って、葉っぱの束を上からバサッと広げたり、落ち葉の上を手を繋いで歩いて、葉っぱのカシャカシャ鳴る音を楽しんだっけ…。

冬はソリ遊びにかまくら作り、雪だるまや雪合戦。まだ足跡のない雪の上に、手のひらの跡を沢山つけて、模様を作った。

冬は寒いけど、沢山遊びがあって楽しかったな。


アタシはずっと朝陽だけを見てきた。


みんな小学生の時までの、アタシの中の小さな思い出。

朝陽は覚えてくれてるかな…。


✤✤✤


中学まで同じで、そこからは朝陽は、県でナンバーワンの高校に進んだ。もちろん医者になる為のステップアップだ。

アタシには到底無理な学歴の高校だった。

それに朝陽は顔も性格も良いから、女の子からしょっちゅう告白されてた。アタシは告白出来る女の子たちがうらやましかった。


高校1の春休み、朝陽が女の子と手を繋いで電車に乗ってきた。

「朝陽、こんな可愛い子どこで見つけたの?」

「樹里、からかうのはよしてくれよ。この子は同じ高校で、バレンタインの時に告白されたんだ」

「こんにちは。はじめまして。【藤城カンナ】って言います。樹里さんのことは朝陽くんから聞いています。本当は男の子なんでしょ?でもとても可愛いですね」


【藤城 カンナ】は、アタシを上から下まで見て少し鼻で笑っていた。

そのことに朝陽は気付いていなかった。


(完全にこの子はアタシのことバカにしている)


すごく悔しかった。身長だってアタシよりずっと小さくて、姿形が堂々としている。私は女よ!って自慢しているように見えた。

アタシだってそこら辺の女の子には負けないくらい、ハートは女の子よ!って、言い返したかった。


でも朝陽が選んだのはアタシじゃない。朝陽にとってアタシはただの幼なじみ。女の子としては見てくれていない。これが現実なんだ…って悲しくなった。

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