策士家令嬢ルミエラの誤算~頭脳派なのに“人選ミス”で最弱勇者にされたので、力こそパワーな幼女魔王を陰から“最強プロデュース”しつつ一儲けすることにしました。

鳴海なのか

プロローグ「父と娘が誓った“あの日”」


 少女は耳を疑った。


「――本日この時より、我が伯爵家の跡継ぎは……ルミエラ、だ」


 霧みたいな小雨が途切れることなく降りしきる夕方の墓地。

 長い長い沈黙をやぶって放たれた父の言葉が、あまりにも衝撃的すぎたからだ。



「お、おとうさま! それってまさか――」

「そうだ。彼奴あやつを勘当する。例えこの身が朽ち果てようとも、彼奴あやつに我が伯爵家の門をくぐらせるなど金輪際あってはならん……異存はあるまいな?」


 濡れることなど気にもせず、夕日でオレンジに染まる母の墓石だけを見つめる父。

 声色こそ落ち着いている。だが爪が食い込むほど強く握りしめたこぶしには薄っすら血がにじみ始めているし、まばたきなど忘れてしまったエメラルドの瞳には消えることなき怒りの炎がギラギラと燃え上がっていた。



 ――幼いながらも少女は悟る。

 父は既にしたのだと。



「……わたくしなどに つとまるでしょうか?」

「安心しろ。お前はまだ5歳だが、親の贔屓目ひいきめなしに“天賦てんぷの才”を持っておる。とても私の子とは思えんほどにな……今から道をたがえることなく精進すれば、お前の孫や曾孫ひまごの代まで語り継がれるほどの“すばらしい当主”となれるはずだ」

「おとうさまが そうおっしゃるなら……わたくし せいいっぱい どりょくしますわ」


 舌ったらずながらも、しっかりした答えを返す少女。

 父は目尻を下げて微笑んだ。


「であれば“善は急げ”だ、明日あすから後継者教育を始めるぞ」

「わたくしは なにを まなぶのですか?」

「数えきれないほどあるな。歴史、地理、文学、算術、ほかにも魔術、剣術、経営学に礼儀作法……ふむ、まずは国中から最高峰の教師と書物を集めるとしよう――」


「くしゅんっ」


 響き渡ったのは遠慮がちな可愛いくしゃみ。

 ここでようやく父が気付いた。娘の黒い喪服は既にぐっしょり濡れていることに。



「すっかり冷えてしまったな……帰ったらあったかいココアでも飲もうか」

「はい!」


 父が申し訳なさげに差し出した手を、少女は笑顔で掴んだのだった。




 ――ルミエラ・フォーンスターヌ。


 後に少女は、王国の歴史へ、その名を深く刻みつけることとなる。

 国の事業に「すばらしき革命」を巻き起こした「唯一無二の天才当主」として。

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