親父と旅立ち。

音佐りんご。

旅立ち。

 ☆★☆


  村の出入り口ゲートに仁王立ちする父と向かい合う子。

  それを遠巻きに眺める母。


子:親父、頼むからそこをどいてくれ!

父:息子よ!どうしても旅に出ると言うのか!?

子:二度は言わない。俺には勇者としてやらなくちゃいけないことがあるんだ。

父:……そうか、ならば私を倒していくがよい!

子:力尽くで行くしかないのか……。

父:愛する息子よ! ここは通さん! 父さんだけに!


  間。


父:父さんだけに!

子:いや、聞こえてるよ! 二回言うな。

父:お前が二度は言わないとか言ってたから、敢えてな。

子:……嫌がらせかよ。

父:ふっふっふ。お父さんという生き物は仮に子供にパパイヤ! と呼ばれても子を守るために言うべきことは言わねばならんのだ!

子:ほんとこの親父やだわ。

父:ふっふっふ、お前に何といわれようと――お父さんはちょっと胸が痛いだけだ!

子:効いてんのかよ。

父:子供の言うことは無視できないからな。

子:聞いてんならなら、聞き入れろや。現実受け入れろや。

父:残念だったな、息子よ! お父さんの器はそんなに大きくない!

子:うるせぇ開き直るな!

父:さぁ、この一家を支える大黒柱、息子が倒すにはだいぶ酷な話だろうが、古今東西、子は親を超えて父上の上に行って初めて一人の大人になれるというもの。けれどお前はまだその範疇にあらず。齢十三のか弱い子供が親元を離れるなんてそんなの……!

子:親父……。

父:寂しいじゃ無いか!

子:あんたの都合かよ! そっちが大人になれ!

父:愛する息子が居ないなんてそんな日々はさびしくてきびしい。

子:愛する愛する連呼してんじゃねぇよこちとら思春期なんだよ。

父:うるせぇこちとら壮年期なんだよ。出て行きます! はい、そうねぇとは行かねぇ難しいお年頃なんだよ!

子:難しいっつうか、単にめんどくせぇよあんた!

父:ふふ、そんな父を超えられぬなら、お前はまだ一人前にあらず。

子:子離れできない親父の何が一人前なんだよ。

父:子を守るためなら、お父さんは半人前だって良い! 実際最近チャーハンとか食べるとき半人前でも苦しいから!

子:知らねぇよ! あんたの食事事情とか!

父:痛い目見ない内にお家に帰るがよい! 我が息子!

子:っは。こんな痛い親父ずっと見たくねぇよ。

父:家に居たくないってか? 言うようになったな。

子:…………。

父:なんだ息子よ、息子だけにムスっとして!

子:そういうとこだぞ、マジで。

父:尊敬しちゃう?

子:幻滅するわ。邪魔だクソ親父! あんたの出る幕じゃねぇんだよ!

父:クソ親父? おいおい実の親父に野次飛ばしやがって。

子:ほら、母さんも引っ込めって言ってるし。

父:な! なんだい母さんまで! そんなところで見てないでこの子引き留めるの手伝ってよ!

子:いや、母さんは最初から俺の味方だし。

父:何だと!? 手は貸さん。母さんだけに! ってか!?


  間。


子:そういうとこだぞ、親父。

父:その家族の白い目! かー! ぞくっとするね!

子:変態か!

父:息子のためなら変態にもなろう!

子:やめろ恥ずかしい!

父:息子よ、親父ってのは恥や外聞脱ぎ捨てて、自分の身じゃ無く家族守るもんなんだぜ?

子:まさしくそれが家族の恥なんだよ!

父:まぁ、父さんはそれでも良いさ。

子:良くねぇわ!

父:しかし息子よ、吠えるだけか?

子:あ?

父:お前くらい、親父だけにパパっと片付けてやる!

子:っち! 結局は実力行使かよ! DV野郎が!

父:それ刺さるぅ!


  父の大振りのパンチに子のボディブロウが脇腹にカウンターでめり込む。


父:ぐはぁ!

子:……。

父:くぅ……まさか、一撃で!?

子:え、よっわ……。

父:強くなったな息子よ。オトンだけにお見事んなボディ・ブロウ。

子:そしてつまんねぇ……。え、これどうしたら良いの? 何、全然嬉しくないんだけど。

父:さぁ、何をしてる?

子:あんたが何してんだよ。マジで、何しに来た。帰れよ。

父:約束通り旅に出るが良い、息子よ。

子:約束とか一つもしてなくね?

父:最後に一緒に遊べて楽しかったぞ。

子:その為に来たのかよ。

父:楽しかったぞ、プロレスごっこ。

子:親父……。ワンパンだったけど。

父:……しかし、我ながら情けない。

子:それな。

父:一家を支える大黒柱なんて言っておきながら、クソザコじゃないか。

子:それな。

父:駄目な親父だぁ。

子:それな。

父:ふふ、そんなこと無いって?

子:いやその通りだと思うよ。

父:ふふ、お前は優しいな。

子:言ってないんだけど。

父:そんな、かっこいいだなんて、照れちゃうなぁ。親父の中の親父だって?

子:こわっ! 誰と話してんの、エア息子?! 当たり所悪かったか……!?

父:そうさ父さんはファミリーのためにタマ懸けてるゴッド・ファーザーさ。

子:それは絶対違うだろ。

父:でも……。

子:でも?

父:でもそこは「今度はオヤジギャグじゃなくておや、自虐かな?」って突っ込むところだぞ! 息子よ!

子:…………クソが。


  子、父を置き去りに歩き出す。


父:あ! 息子よ! 黙って行くんじゃない!

子:あんたのおふざけには付き合ってらんねぇよ。

父:別にふざけて無いぞ! 息子よ! 親権者だけに真剣じゃ!

子:だからそういうとこだよ!

父:それはすまなかった! アイム・ソーリー・ヒゲ・ソーリー!

子:それ! てか古い!

父:これは持病の洒落なんだ!

子:持病の癪じゃなくて?

父:癪に障ると腹立つが、洒落に障ると腹がよじれる。

子:勝手によじれて死ね。

父:それは洒落にならん!

子:あのさ親父、俺はあんたに苛立たせて欲しいんじゃ無くて、旅立たせて欲しいんだけど?

父:上手い! 流石俺の息子!

子:うるせぇ! 生まれの不幸呪うレベルだわ!

父:……でもそうだな、息子よ。悪かった。

子:ほんとにな。

父:だから、せめて見送りの挨拶だけでもちゃんとしたい。

子:……信じられるかよ。

父:父として、お前の門出を祝い、旅の安全を願おうじゃ無いか!

子:親父……。分かった。

父:ありがとう。息子よ!

子:……ふん。

父:我が息子よ  行ってらっしゃい!

子:あぁ、行ってくるよ親父。

父:オー・マイ・サン。俺おっさん、お前の道照らすシャイン! イェア!

子:……イェア! じゃねぇよ!

父:照れんなよイェア!

子:照れてねぇわ! 別れくらいちゃんと

父:上手い!

子:うるせぇ!


  2発目のボディブロウがめり込む。


父:Oh・痛ぇ!

子:あ、つい拳が。

父:熱い拳――心響くビート。

子:え?

父:Oh・痛ぇ! 腹痛ぇこのボディ・ブロウ、子育てぇこのダディ・苦労、別れ告げる息子何送ろう?

子:な、なんだよ!

父:二発分のボディ・ブロウ、久しぶりのボディ・タッチ、ハイハイから立ち上がりのハイタッチ。刻々迫る旅立ち、むかむか募る苛立ち、積もる話ある親子俺達。Ah……ほらよく言うじゃんアレ。子は親超えし物。ほらお前勇者、荒野越えし者。地震雷火事親父。自信過剰親父ぶっ飛ばし、ほらこの先恐え物なし。地道努力重ね輝く勇者。じっとしてる場合じゃねぇなそだろ? ユア、シャイン?! そうダディにかましたねボディ・ブロウ、世界にかましたれボディ・ブロウ。オッケー? 口ずさむギャグ、マジで寒い逆風、懲りず親父ぶろう、俺は北風をブロウ。ウェイも照らすシャイン。ここは通さん! って痛いよぅ父さん? No! ノース・ウィンド&サン・シャイン! つまり北風と太陽。Oh! 阻む親父三枚目。ゴーイン・マイ・ウェイ! お前弱くないねぇ! さぁ行けよ前へ! レッツ・ゴー・オー・イェー! 世界にヒアウィゴ! いざ披露! お前こそザ・ヒーロー!


  父、サムズアップ。


子:……親父。

父:息子よ。

子:……親父、頼むからそこはドゥ・イット・ライト!?

父:っふ。世界を救って来い、我が息子。

子:……ああ、言われなくても行ってくるよ。親父。

父:っふ。

子:はっ。


  間。終わると見せかけて、


父:父だけに「ちゃんちゃん」ってな!

子:……喧しいわ!


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親父と旅立ち。 音佐りんご。 @ringo_otosa

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