回遊する古代魚

第2話 湖面からは視えない

　一年ほどフリーライターをやっていた。

　新聞記者の傍らでというレベルではあるのだが…。

　ある日、自宅PCに依頼が入った。

『とある女性の1ヵ月間の行動を監視・報告してほしい』

　探偵じゃないんだから…そう思ったのだが、前金で30万(諸経費込み)/報告後30万とのことだったので返信して詳細を確認することにした。

　対象は風俗嬢、在籍する店、源氏名が送られてきた。

　時間も出勤時間以外の時間を監視すればいいとのことである。

　引き受けると、翌日に金は振り込まれていた。

　対象は店でも問題児なようで素行が悪い。

　金は持っているから高級な店で暴れるような嬢であった。

　個人的な興味から素性を探ると、地元でも有数の進学校に入学したが、1年足らずで自主退学していた。卒アルの写真から今の顔は整形だと解った。

　その後、服飾の専門学校へ入学はしたが、そこも中途で辞めていた。

　風俗経験は3年ほどになる。

　現在、付き合っているのは店のドライバー。

　店長も了承しているようだ。

　1か月、彼女をマークしたわけだが、ほとほと疲れた。

　報告をまとめ、メールで依頼主をへ送ると、報酬は振り込まれた。

　2週間ほどして、また同じ依頼が入ってきた。

　僕は依頼を受けた。

　アドレスは変わっていたが、おそらく同じ依頼主である。

　その後…半年ほどが過ぎ。

　その風俗店の店長とドライバーが麻薬の密輸で逮捕された。

　事務所から大量の麻薬を押収したとニュースで知った。

　逮捕者は2名であり、彼女では無かった。

　警察は数年間、泳がせていたらしい。

　で思ったのだ。

　僕への依頼は、彼女の身辺調査ではなかったのではないか？

　むしろ、店長とドライバーの調査が本命であり、彼女はオマケのようなもの。

　とすれば…依頼主は？

　警察だったのかもしれないと…。

　警察が必要なのは麻薬常習者の逮捕ではない。

　密輸ルートの方であり、彼女は密輸には関与していないと判断する材料が欲しかったのでは？

　水に潜らなければ視えない魚がいて、その魚ですら視えない生き物がいるという話だ。