第3話 猫、えらい

 猫、えらい。人間の食べ物に手を出さない。


 魚を焼こうが刺身をしようが香ばしいお肉を焼こうが、入念な匂いチェックは欠かさないものの手を出さない。

 人間に尻を向け、「お前はまずこれでも嗅いでいろ」と言わんばかりに見せつけ、猫はしっかりとチェックする。でも手は出さない。とてもえらいのである。


 別に特に厳しくしつけたというわけではない。なんか知らないけれど、初めて家に来た時からそうだった。

 里親さんの所では保護猫のみ大集合一軒家だったので、人間とご飯を一緒にするということはなかったように思うが、いつの間にかそういう気遣いを覚えていた。

 人間観察が出来た猫である。


 だが、猫が唯一、目にした瞬間悪鬼羅刹になる食べ物がある。



 ――レタスだ。



 猫は何故かレタスに目が無い。

 人間は野菜がとても好きなのでよくサラダを作るが、レタスが出ようものなら飛びつき押しのけ皿から奪おうと果敢に攻め込んで来る。


 過剰摂取はよくないものの、猫がレタスを食べるのは悪くはないという調べがついたので、人間はレタス防衛戦を休戦。あらかじめ猫用のレタスを用意することで落ち着いた。


 だが、猫は自分用のレタスを食べ終わったあとも虎視眈々と狙ってくるので、ドレッシングがかかった物を食べさせるわけにはいかないと、人間はサラダだけ起立の姿勢で一気に食す。


 ――ところで、これはご存じだろうか。

 食事において、まず野菜を食べてから主食やおかずを食べると、血糖値の上昇が緩やかになったりコレステロールの吸収を抑えられて身体にとても良い効果があることを。


 猫のレタス急襲作戦のおかげで人間は必然的に野菜から食べるようになったので、それを鑑みると――。



 やはり猫、えらいのである。

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猫、えらい 佐藤 亘 @yukinozyou_satou

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