第二話:問題


「つまり、あなたはこの世界の住人でなく別の世界の住人だったと言うのですの?」


『そう言うことだな、俺も驚いている。まさか異世界転生…… とはちょっと違うけど、あんたお姫様なんだろ? これで俺も勝ち組か!!』


 

 雷天馬はそうお気楽に言う。

 しかし考えてみてもらいたい、転生でなく異世界の人間の中に魂だけが取り込まれているという状態を。

 せっかくの美女になったと言うのに、感覚はあっても自分でそれをどうこう好きには出来ない、常に傍観者となる。



「信じられませんが、こうしてあなたと会話しているのですからこれが真実なのですわね……」


 アザリスタはそう言って大きくため息を吐く。

 そして気分を取り直して言う。


「あなたの事はよくわかりませんが、私の邪魔だけはしない様に。 私はアザリスタ=ピネリス・ラザ・フォンフォード、栄えあるレベリオ王国の第一王女なのですわ!」


 そうその大きな胸を張って言う。

 彼女は何事も前向きに考える様だ。


『ま、そう言うことでよろしくな!』


「ふん、仕方ありませわね」


 言いながらベッドから起き上がり手を叩き使用人を呼ぶ。



「体を拭きたいですわ、用意を」



 呼ばれた使用人にそう言って服を脱がしてもらう。



『おおっ! いきなりイベント発生か!? 鏡、鏡は無いのか!? あんたそうとうの美人なんだろう!?』


「ちっ、うるさいですわね……」



 雷天馬のそれに小声で使用人には聞こえない様につぶやくアザリスタ。


 しかしその裸体は神々しいと言えるほど美しかった。

 もうこのままずっと見ていたいほどに、いや眼福眼福。


『くそうっ、せっかくの美人の裸なのに見れねぇっ!!』


 アザリスタが自分で自分の姿を見る事は姿鏡でもない限り出来ない。

 あとはその視線を自分の身体に向けない限りは。


「ほんと、うるさいですわね…… 女の裸なぞ見て何が楽しいのやらですわ……」

 

 そう言ってアザリスタは自分の豊満な胸を見る。


『おおっ! ありがたやありがたや~!!』


 多分きっと雷天馬はアザリスタの中で土下座して拝み倒しているだろう。

 プルンと震えるそれを目に焼き付けて。



「ふう、裸など見て興奮するとはさてはあなた、経験が無いのですわね?」


『ぎくっ! う、うるさいな、いいだろそんな事!!』



 図星をつかれたチェリーボーイは不機嫌になる。

 それに少し笑ってアザリスタは言う。



「私の裸を見たのですからあなたにはいろいろと協力してもらいますわよ? でないとずっと童貞呼ばわりしますわよ?」


『はうっ! それはやめて、生前の唯一の心残りなんだからっ!!』


 

 男心を遊びまくるアザリスタであった。



 * * * * *



「さて、そうすると先ずは今後についてですわね…… この私との婚約を破棄したロディマス様にはしっかりと後悔していただかないと気がすみませんわ」


『あんたの記憶を見たけど、好きでもない相手とよく結婚する気になったもんだな?』


「ふん、それが王族の務めなのですわ。我が国レベリオ王国とアルニヤ王国は隣国、近隣諸国で関係を強め外敵からの脅威に備えなければいけませんわ。それにあのロディマス様は女好き。世継ぎの子供の一人でも産めば後は他の女にうつつを抜かすでしょう、その間に我が子を王座に付ければアルニヤ王国の実権も握れると言うものですわ」


 アザリスタはそう言って人には見せない笑みをする。

 はっきり言って怖い。

 なまじ頭の切れる女なので自身の操でさえ武器にするその心意気は見上げたものだ。



『おっかねえぇな、でも良いのかよ、好きでも無い男の子供を身ごもるなんて』


「むしろそれで愛しい息子でも生まれればもう、舐め回すように可愛がりますわ!」



 ちょっとイケナイ性癖まで出てしまっているがアザリスタはそれでも言う。


「とにかく、ロディマス様には勝手に婚約破棄をされたと言うことで賠償を迫らなければいけませんわね、私の面子も潰されたのですから相応の報いをしてもらわないと」


『どうする気だよ?』


「そうですわねぇ……」


 アザリスタはあれやこれやと考える。


 西の隣国、カーム王国には既に腹違いの妹、フィアーナ=ラグネス・ラザ・フォンフォードが婚約を先日したばかりだった。


 レベリオ王国の北側にはアルニヤ王国、東側にはエンバル王国、そしてエンバル王国の北側にはベトラクス王国がある。

 南は大海となっており、青い海が広がっていた。


 レベリオ王国はその周辺国に自国の姫たちを嫁がせ自国の盾にしようとしていた。

 それが北側のアルニヤ王国との関係が取れないとなれば別の方法を早急に考えなければならない。


「となると、ベトラクス王国に我が国の者を嫁がせ、アルニヤ王国を南と東から囲めば我が国に対してどうこうする事が出来なくなりますわね? その時にロディマス王子にかかされた恥を倍返しで返してあげないといけませんわね、国王陛下にもそう進言いたしましょうかしら」


『ホントに怖えぇ女だな…… そうすると妹たちを犠牲にするのか?』


「犠牲とは何ですか、ちゃんと本人たちの了解を得ながら相手国の王子たちを堕とすのですわ。その為には私も色々と妹たちを教育をしなければなりませんわね」

 

 そう言いながらアザリスタは舌なめずりをする。

 なんかもうそれだけで雷天馬あたりは前かがみになってしまいそうだ。

 一体どんな教育になるかものすごく気になる。



「とにかくそうと決まればすぐにでも陛下に進言をしに参らないといけませんわ」


 アザリスタはそう言って立ち上がりすぐにでも父親であるロイフォックス=ピネリス・ラザ・フォンフォードの元へ急ぐのだった。



 * * * * *



「ふむ、大事無くて何よりだ。して、アザリスタよ今日は何用で来たのだ?」


「はい、お父様。本日は私と婚約破棄をしましたロディマス様につきまして……」



 国王である父の執務室へ来ていたアザリスタはそう話し始めた時だった。


 執務室の扉が叩かれる。

 それもかなり急いだ様子で。

 ロイフォックスは片手をあげアザリスタの話を一旦止める。

 そして扉に向かって「入れ」と言うと扉は勢いよく開かれ、大臣が転がり込んできた。


 肩で息を切らせながら大臣は挨拶もそこそこロイフォックスに言う。




「大変です! キアマート帝国がカーム王国に進行を始めました!!」


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