第一章キアマート帝国侵攻

第一話:目覚め

 彼女は目覚める。

 周りに心配する家臣や妹たちの見守る中。



「お姉さまっ!」


「おおぉ、気がつかれたようだ」



 まだはっきりとしない頭でぼぉ~っと知っている天上を眺めている。

 そして何が有ったか思い出す。




 彼女の名前はアザリスタ=ピネリス・ラザ・フォンフォード、十九歳でレベリオ王国の第一王女でサラリーマン……



 サラリーマン?



 何それ美味しいのとかまだはっきりしない頭で思っている。


 魔法学園は筆頭で卒業すると言う頭の持ち主であったが、流石に公衆の面前で婚約破棄されたことは堪えた。

 

 恥ずかしさと悔しさと憤りがこみ上げてくる。

 ついでにスカートの中身が短パンだった事も思い出し、更にムカついてくる。



 ……スカートの中身が短パン?



 なんかさっきからおかしい。

 そう思っても勝手にそんな言葉が頭に浮かんでくる。



「何なのですの?」


『いや、だからスカートの中に短パン穿いてるのってずるいと思わないか? JKのパンチらなんてそうそう拝めるもんじゃないのにさ』



 つぶやいた言葉に誰かが答えた。

 おかしいなと思い、もう一度周りを見る。


 そこには実妹や腹違いの妹たちが心配そうに覗き込んでいる。

 見慣れた顔の家臣もいる。


 しかし先程聞こえて来た声は知っている者の声では無かった。

 アザリスタはふかふかのベッドから起き上がろうとする。



「お姉さま! まだご無理をしてはいけません、落馬の折に頭を強く打たれたのですから!!」


「そうですお姉さま、今はお身体をお大事にしないといけませんんわ!」


「お姉さま、まだ横になられた方がいいですわ」


「お姉さまおいたわしや」


「姉さま大丈夫~?」   


 

 実妹であるロメスタやファリスアート、腹違いの妹フィアーナにアルバリナ、ベアトリアが一斉にアザリスタが起き上がるのをやめさせる。



 レベリオ王国には世継ぎがいない。

 

 その代わり見目麗しき可憐な姫君がたくさんいる。

 だから王国は政略結婚を企て、隣国との強固な関係を築こうとした。


 まったく、国王陛下は后を三人も抱えているのに弟の一人も未だ生れ出てこない。

 可愛らしい妹も良いけど可愛らしい弟と言うのも良いものだ、いやむしろ弟欲しい、撫でまくって頬ずりしてこの豊満な胸に抱きかかえ可愛がりたい!!


 アザリスタの知られざる性癖の妄想は誰にも聞かれる事は無かったはずだった。



『いやぁ、弟も良いがやはりここは妹だろう? こんなに可愛い妹に囲まれて俺は幸せだなぁ~』


「ちょと待つのですわ、さっきから誰ですの?」



 やはりはっきりと聞こえてくる男の声。

 まるで耳元で話しているかのように聞こえる。

 

 アザリスタのはきょろきょろと周りを見るもののそれらしき人物はいない。



「お姉さま? どうしたのですか??」


「ロメスタ、きっとアザリスタお姉さまはまだ興奮されているのですわ。アザリスタお姉さま、今はとにかくお休みになられてくださいまし……」



 実妹のロメスタはぎゅっとアザリスタの手を握る。

 腹違いで一番年齢の大きなフィアーナもそっと二人の手の上にその手を置く。


 はたから見れば美しい姉妹愛。



『いやぁ、美人の女の子に手を握られるだなんてうれしいねぇ~』



 しかしまたもや聞こえるあの声。


「落ち着くのですわ、私。私は大丈夫、電波など聞こえないのですわ」


『電波言うなよ! 失礼な!!』


 思わずそう自分に言い聞かすとあの声は不服そうにそう言う。

 流石にこれにはアザリスタも驚き声をあげる。



「一体誰ですの!? 無礼者、この私をアザリスタ=ピネリス・ラザ・フォンフォードと知っての狼藉ですの!?」



 いきなりそう叫ぶので周りの姉妹たちも家臣たちもびっくり。



「アザリスタお姉さま!?」


「お姉さま、お気を確かに!」


「お姉さま落ち着いて!」


「お姉さま!」


「姉さま怖いよぉ~」


 

 姉妹たちはいきなりのアザリスタのその行動にどうして良いのか分からずおどおどとする。

 するとアザリスタはハッとして大きく息を吐いて姉妹や家臣たちに言う。



「すみませんわ、まだ頭がはっきりしませんの。もう少し静かに休みたいので一人にしていただけますかしら?」



 そう言うアザリスタに姉妹たちは顔を見合わせて何か言いたげではあったものの、長女の命令を無視するわけにはいかない。

 なので何か有ったらすぐに呼んでほしいと伝えておずおずとこの部屋から出て行く。


 そして誰もいなくなってからアザリスタはベッドから起き上がり言う。



「さあ、これで誰もいなくなりましたわ。出て来るがいいですわ!」


『いや、出るも何も俺はずっとここに居るんだが、あんたの中にな』


  

  

「へっ?」





 アザリスタにあるまじき間の抜けた声が出てしまうのだった。  


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