丑の刻参りやってみた件

物部がたり

丑の刻参りやってみた件

 れいとはじめは動画のネタに困っていた。

 二人は大手動画投稿サイトに動画を投稿し、その広告料で生計を立てる、いわゆる動画職人だった。

 初めは遊び半分で動画投稿していたが、コツコツ続けるうちに、日増しに登録者を増やし、二人のチャンネルはそれなりに名前を知られるようになっていた。

 若年層をターゲットにしたやってみた動画や、ドッキリ、奇抜な発想の動画を投稿していたのだが、動画の投稿数が一○○~二○○と増えていくうちいつかはネタに詰まるのは必然。


 もっと受ける、もっと面白いネタを考えている内に、れいがあるネタを思いついた。

「なあ、呪いの検証とか面白そうじゃないか。ホラー系の動画、需要結構あるし」

「呪いの検証?」

「ああ、世の中には色々な呪いがあるだろ。その呪いを実際にやってみて、真相を検証してみるんだよ。絶対面白いって」

 だが、はじめは乗り気ではない様子だった。

「まさか、呪いなんて本気で信じてるんじゃないだろうな」

「信じてないけど気持ち悪いだろ……」


「信じてないなら気持ち悪いもないだろ。なあ、一度やってみて伸びなかったらやめりゃあいいだろ。一度やってみようぜ」

「だけど、そういう呪いは呪いを仕掛ける側と、仕掛けられる側が必要だろ。誰が呪いを受けるんだよ。関係ない奴に仕掛けるわけにもいかんだろ」

 れいは自分の胸を親指で示し「言い出しっぺのオレが呪いを受けてやるよ。だから、おまえが呪いの儀式をやってくれ」といった。

「わかった。それならいいぞ。で、何をするつもりなんだ?」

「もう考えてある。日本で呪いの儀式っていったら、うし刻参こくまいりだろ」


「あのわら人形に釘を打つやつか?」

「ああ、調べてみると丑の刻参りにもちゃんとしたルールがあるみたいだ。頭に五徳をかぶって、白装束を身にまとい、顔に白粉を塗り、五徳に三本のロウソクを立てる。そして、胸には鏡をつるして、下駄を履く。午前一時から三時の間に、神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を七日間毎夜、五寸釘で打ち込むらしい。地方によってわら人形に呪いたい相手の体の一部、髪の毛とかだな、を入れる場合もあるらしい」

「へ~、そんな細かいルールがあるのか。だけど小道具はどうするんだ?」


「丑の刻参りセットってやつをネットで見つけたから、もう買ってある」

「うへ~、そんなもん売ってんのかよ。用意周到なこって」

 呆れたようにはじめはいった。

「じゃあ、今日の夜から始めようぜ」

 れいは自分の髪の毛を一本抜いて、どこからともなく取り出したわら人形に入れた。

「これをオレだと思って五寸釘で打ち付けてくれ」

「いいけど、知られていいのか? 確か丑の刻参りって見られたら呪いが呪術者に跳ね返るってルールがあったんじゃねえの?」


「儀式を見られたら駄目なんだよ。おまえが儀式をしている間、オレは家で動画撮影してるから。だから、存分に打ち込んでくれ」

「そりゃあー、打ち込みがいがありそうだな。日頃の恨みを込めて打ち込んでやるよ」

 はじめはその晩から、近くの神社の御神木にわら人形を打ち込みに向かった。そして、丑の刻参りが三日目に差し掛かったころはじめは訊いた。

「調子はどうだ。大丈夫か?」

「大丈夫に決まってるだろ」

「そうか……」 

 丑の刻参り最後の日、れいは計画通り、儀式を撮影しに向かった。

 いわるゆ逆ドッキリ動画だったが、そのことをはじめは知っていなかった。


 真夜中に五寸釘を打ち付ける音が神社から響いていた。

 後ろから声をかけて驚かし、その驚く姿を撮影するつもりで、れいは動画を撮影しながら御神木の元に向かった。

 だが、はじめの鬼気迫る形相で五寸釘を打ち込む姿を見て、れいは無言で逃げ帰った。

「どういうことだ……どういうことだ……」

 はじめは本気でれいを殺すつもりで、五寸釘を打ち込んでいるように見えた。 

 その数日後、はじめは不慮の事故によって死んだことを知らせる動画が投稿された。はじめ死去報告動画の再生数は歴代再生回数1位を記録したらしい――。

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