Chat fatale

 白木蓮が満開だった。

 真っ白な花は、死装束をまとった鳥たちのようだ。 


 病院に連れて行かれるキャリーの中でいつも見ていた街路樹の木蓮に、ある日、天から降ってきたように舞い降りた鳥たち。


 そのとき、わかった。

 ぼくがあなたの元から空に飛び立つ日が来たことを。



 ごめん。

 ぼくがいなくなったら、あなたはどれだけ悲しむだろう。

 昨夜だって真っ暗な寝室で、ぼくの横にぺたんと座り、あなたはずっとぼくを見ていた。

 涙が幾粒もこぼれ、ぼくの体の上に落ちた。

 ぼくはまだ息をしているのに。

 ぼくの体はまだ温かいのに。

 


 あなたは、いつもぼくのことを「わたしの可愛い運命の男オム・ファタル」と言っていた。


 でもね、それは間違っているよ。

 それをいうなら、運命の猫シャ・ファタルだ。

 ぼくは猫で、人間じゃないからさ。


 

 もう行かなきゃ。

 白い花の翼に乗って。

  

 さよなら、ぼく。

 白い猫だったぼく。

 次はどんな毛皮を着ようかな。


 

 今までありがとう。

 楽しかった。元気でいてね。

 もし毛皮を着替えたぼくが、またあなたに会えたらいっしょに遊ぼう。

 それじゃあね。

 ぼくはもう行くよ。



 了

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運命 水玉猫 @mizutamaneko

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