第33話

☆☆☆


こんなの違う!



私が見たい夢はこんなのじゃない!



ミハルは夢から逃げ出した。



現実から逃げて、夢からも逃げて、真っ暗な暗闇を走りつづける。



お願い、私を現実の世界に戻して!



もう二度と夢なんてみたいと思わないから!



だから誰か……!



その時、暗闇の中にぼうっと光るものが見えた。



ミハルはその光へ向けて走り続ける。



近づいていくと光の中に立っている老婆の姿があった。



ミハルに道を聞いてきて、お礼にキャンディーをくれた老婆だった。



「あなたは……!」



ミハルは老婆の前で立ち止まり、肩で深呼吸をした。



必死に走って逃げてきたから汗が玉のようになって流れていく。



「キャンディーは1日1個だけって言ったでしょう?」



相変わらずしわがれた声で老婆は言う。



ミハルは老婆にすがりついた。



キャンディーをくれたこの人なら、元の世界に戻してくれるかもしれない。



「お願い! 私、もう夢なんて見たくないの! 現実に戻して!」



「あらあら仕方ないわねぇ。そんなに泣かないの。ほら、現実のあなたはあそこよ」



老婆が指差した先に、ベッドに横になっている自分の姿が見えた。



「あれは、私!?」



「キャンディーのせいでずっと眠っていたのよ。でもそろそろ効果も切れる頃でしょう。お戻りなさい」



老婆がミハルの背中をとんっと叩く。



その瞬間ミハルの体は急速になにかに引き寄せられ、そしてぽんっと体の中に戻っていく感覚がした。



ピッピッと定期的な機械音が聞こえてくる。



それに、友達が私を呼ぶ声も。



意識が戻るにつれて体の重たさを感じつつ、ミハルは目を開いた。



窓から差し込む太陽光が眩しくて目を細める。



「ミハル!?」



隣からチアキの声が聞こえてきた。



マイコや、他のクラスメートたちも沢山いる。



「よかったミハル。もう目を覚まさないかと思った!」



マイコとチアキはボロボロと涙を流してミハルの手を握りしめる。



あぁ……。



私、現実世界に戻ってきたんだ。



両親が医師を呼ぶために慌てて病室から出ていくのが見えた。



私の現実はこんなにも温かい。



それなのに、今まで全然気が付かなかったんだ。



声をかけてくれる友人たいにほほえみ返すミハルは、病室からあの老婆が出ていく後ろ姿を見たような気がしたのだった。

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