第10話

約束の日はとてもいい天気だった。



空には雲ひとつない日本晴れだ。



セイコはこの日精一杯のオシャレをしていた。



持っていた服の中で一番可愛いものを来てきた。



青いワンピースの上に白いカーディガンを羽織り、頭には麦わら帽子をかぶっている。



足元は白いサンダルで、ヒールがないから歩きやすいはずだった。



「セイコ!」



自分を呼ぶ声がして振り向くと、私服姿のユウキが走ってやってきた。



ジーンズとTシャツ、首元には小さな十字架のネックレスが揺れている。



その姿に心臓がどくんっと跳ねた。



私服姿のユウキは制服のときとは違ってとてもかっこよかった。



「ごめん、遅刻した」



そう言いながら走ってきても、まだ約束の5分前だ。



セイコが楽しみ過ぎて早く到着してしまったのだ。



「大丈夫だよ。今日はバスで移動するの?」



「あぁ。ここから遊園地まで直通バスが出ているんだ」



ユウキが指定してきた約束場所がバスのり場だから、そうだと思っていた。



「あと5分でバスも来るよ」



「うん」



2人は青いベンチに座り、バスの到着を待ったのだった。


☆☆☆


「お茶持ってきたよ」



バスに揺られながらセイコはペットボトルのお茶を2本取り出した。



移動中に飲み物くらいないと辛いと思って、前日にコンビニに行って買ってきておいたのだ。



「サンキュ。セイコってすごく気が利くよな」



走ってきたトオルはすぐにお茶を受け取ってキャップを外し、一口飲んだ。



「そんなことないよ」



謙遜して言いながらも、そうやって褒められることは嬉しかった。



「教室でも、歩いていてゴミを見つけたらすぐに拾って捨てに行くだろ? そういうの、なかなかできないって」



そう言われてセイコは驚いて目を見開いた。



確かに、セイコは床に転がっているゴミが気になって拾って捨てることがあった。



でも、それをユウキが見てくれているなんて思ってもいなかった。



「見てくれてたんだ」



「当たり前だろ? セイコのことはずっと見てたんだから」



「え? それってどういう意味?」



ビックリして聞き返す。



ずっとって言うのは、私が接着剤を使う前からという意味だろか?



「好きになったのは最近だけど、ずっと友達だったじゃん」



なんでもない様子で言うユウキに、セイコは唖然とした。



中学に入学してからはほとんど会話をしていなかったから、友達だと思われているなんて、思っていなかった。



「ずっと、友達だって思っていてくれたの?」



「当たり前だろ? 小学校の頃河川敷で応援してくれたときから、俺にとってセイコは特別な友達だった」



ユウキはまっすぐにセイコを見てそう言った。



嘘をついているようには見えなくて、セイコから視線をそらせてしまう。



てっきりユウキからは全く見向きもされなくなっていたと思っていた。



ずっと友達だと思ってくれていたのなら、もっと沢山話しかければよかった。



そうすれば、接着剤なんかに頼らなくても……そこまで考えて、左右に首を振って考えをかき消した。



そんなことない。



ユウキと付き合うなんて想像もできないことだった。



あの接着剤を使ったからこそ、今こうしていられるんだ。



「セイコ? 怖い顔してどうした?」



「ううん、なんでもないよ」



セイコは慌てて笑顔をつくったのだった。


☆☆☆


休日の遊園地は沢山の人でごった返していた。



家族やカップル、友人同士のグループが所狭しと歩きまわっている。



「さすがに人が多いな」



「そうだね」



「手、掴んでて」



迷子になってしまわないように、ユウキはトオコの手を握りしめた。



その温もりにどきどきしてしまう。



デートのたびにこうして手を繋がれたら、心臓がもたないかもしれない。



「セイコ、最初にどれ乗りたい?」



「えっと……コーヒーカップ、かな?」



「よし、じゃあ行こう」



地図でコーヒーカップの場所を探して、歩き出す。



手は繋がれたままで、時々振り向いてセイコのことを確認してくれる。



歩調もゆっくりで合わせてくれているのがわかった。



「トオコにも、こんなに優しかったの?」



不意にそんな質問をしてしまっていた。



ユウキが立ち止まり、「え、なに?」と聞き返してくる。



幸い、周囲の喧騒のおかげでセイコの声はかき消されてしまったようだ。



「楽しいねって言ったの」



セイコは今度は大きな声で伝えた。



ユウキが微笑み、頷く。



できればこの優しさが自分だけに与えられるものなら良かったのに。



心の中でセイコはそう思ったのだった。

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