第3話 屋敷の数々の謎

 勇の屋敷に来て四日目、まだあの引きずるような音が耳に残っているが、その次の日は奇妙なことは起こらなかった。


 屋敷にも少しつづ慣れ、奈菜は今日も充実に仕事をこなしていた。今日は屋敷に来てからの初めてのお客さんが来るため、ゴミ一つも残さないようにした。


 1階の部屋を隅々まで掃除し、2階を掃除しようと思ったが勇実に「掃除はしなくていいよ。使うのは1階だけだから」と言った。


 外に行き、倉庫からちりと箒を持って花畑に行った。


 いつも通り散らばった落ち葉を箒で掻きめると、突然遠くから大量の烏の鳴き声が響いた。思わず驚き、身を縮めてしまった。


「きゃっ。びっくりした。何かあったのかな」


 奈菜は突然の鳴き声に空を見上げ、再び仕事に戻った。


 掃除をしていると、烏が徐々に周りに集まってきた。


(あれ、なんで烏が)


 奈菜は集まってくる烏に疑問を持っていると、鉄の扉がゆっくりと開いた。


 突然開いた扉に奈菜は顔をあげると、そこにはつばが広い帽子を被り、黒いコートにブーツを着た男の人が入ってきた。


(まさかあのひと、お客様⁉)


 奈菜は突然のことに混乱していると、その男がいつの間にか目の前に立っていた。帽子の下の顔には無表情の仮面を付けていた。思わず尻餅を付いてしまいそうだったが、なんとか耐えてすぐに挨拶をした。


「あっあの。旦那様のお客様でしょうか?」


 奈菜はそう言うと、男性は優しく話しかけた。


「あぁ、そうだよ。彼には事前に言ったから勝手に入って大丈夫なんだ。それより、君見ない子だけど、新しい子?」

「あっ。はい、2週間だけですけど家政婦の奈菜と申します」


 菜奈は笑顔で答えると男は奈菜の頬に手を添えた。とても冷たく、急な行動に戸惑っていると。


「やめろ!」


 怒鳴り声に体を震わせて振り返ると、そこには勇が見たことないほどの恐ろしい顔をして立っていた。


(やばい。どうしよう)


 勘違いされそうな場面を見られたと思っていると、勇は駆け足で近寄り、奈菜とその男を引き離すと勇は自分の背後に立たせた。


「何この子に手を出しているんだ! 不謹慎にもほどがあるぞ!」


 勇は真っ先に目の前の男に怒鳴り付けると、男は仮面の下でせせら笑いながら言った。


「ハハハ、すいません。つい可愛かったものですから」

「だからって初めてあった人の頬を撫でるな! 奈菜さん、大丈夫かい?」

「あっ、はい。大丈夫です」


 奈菜は見たことないほどの怒りに怯えていると、勇は察して小さい声で「ごめんね」と言うと、再び男の方に顔を向けた。


「案内をする。奈菜さんは仕事してて。お茶は執事が出してくれるから」


 勇はそう言うと、男を連れて屋敷の中に入って行った。


 奈菜は初の男性からのボディタッチにされ、ドキッとしてしまったが勇のあの怒った顔がの脳裏に焼きつき、再び掃除を再開した。


 掃除を終え、倉庫に道具を片し、屋敷の中に入って行った。


 冷たい手を擦りながら長い廊下を歩いていると、執事が勇の部屋から銀のお盆の上にティーカップを乗せていた。


 そのままキッチンに行き、再び部屋から出てはまた書斎の中に入って行った。


(あれ? 執事さん出ないのかしら?)


 普通ならティーカップを部屋に置いて即座に出るはずだが、執事はすぐには部屋を出なかった。


 奈菜は徐々に部屋に近づくと。


「ふざけるな! そんなことは絶対に許さない!」


 勇の声と机を叩くのような音が聞こえ、奈菜はビクッと体を震わせた。


 どうしたのだろうと奈菜は少し気になり、ドアに耳を近づけた、扉からは勇と男の話し声が聞こえてくる。


「へぇ、貴方、前とは違って随分変わったね」

「うるさい、ともかく。あの子はあげない。いや、触れることも許されない」

 

 あの子、奈菜は自分のことかと思ったがまさかそんなことはないと思い、足音が聞かれないようにしながら二階に行った。


 勇には朝、仕事を終えたら呼び出しが鳴るまで自分の部屋にこもって欲しいと頼まれたため、すぐに自分の部屋に向かった。


 部屋に戻り、何をしようかと悩んでいるとふと執事がおすすめしてくれた本のことを思い出した。


(そうだ。ちょっとあの本読んでみようかしら)


 奈菜は段ボールから黒い本を取り出し、椅子に座って本を読み始めた。

 気になった奈菜は「よし」と言うと、丸いテーブルに置いて一ページめくった。


 19××年 9月8

日 初めての日記。妻からの提案でこれをすれば心が落ち着くらしい。今日はとても綺麗なお天気で平和な日だが、召使たちは今日もやる気のない顔をしている。全くみっともないし気に食わない。もっと気を引き締めて頑張らんかね。使えない奴らで今日はとてもイライラし、一人の男を殴りつけた。とても気分がスカっとした。


 執事の言う通り、年の十九の隣の数字はなぜか黒いペンか何かで塗り潰されていた。二ページ目を見始めた。


 19××年 9月9

日 今回、生意気な召使一人を殴りつけた。すぐにそいつは泣きわめいた。そんなことでギャーと喚くとうるさすぎる。妻はそんな召使を優しくする。気に食わない。


(酷い)


 奈菜はそう思いながら三ページ目を開いた。


 十九××年 四月十日。今夜、会社内で面白い話を聞いた。闇売買で悪魔の本が売られているらしいと噂を聞いた。それもとても効くらしいと言われた。これは試さなくては。


(悪魔の本? なんかアニメとかにありそうな展開だな)


 奈菜はそう思うとまたページをめくった。


 19××年 5月7日 会社内の人物に悪魔の本をどのように買えるのかを教えてもらい数日がたったが、悪魔の本を買えた。妻と召使にバレるところだったが、なんとかバレずに済んでよかった。材料などが必要なためすぐに読もうと思ったがお得意様のお客様が来るため、これは明日読もうとしよう


 19××年 5月8日 早速読んでみたが。まぁすべて読んだが、材料を集めるのには少し時間が掛かりそうだ。


 19××年 5月12日 材料を全て集め終えた。あとはやり方さえ覚えれば大丈夫だ。けれど今日の召使の態度は悪い。そろそろクビにしたほうが良さそうな奴が何人かいる。本当にイラつく。


 日にちが空いているのはきっと、自分なりの気分で日記に書いていたんだなと奈菜は思い、もう1ページめくろうとすると持っていた呼び出しからけたましく音が鳴り響いた。


 奈菜は良そうで段ボールの中に本を入れると駆け足で書斎に向かった。


 扉を三回叩き、声をかけながら入った。


「失礼します」


 中に入ると、勇が息を荒らしながらソファに座り込んでいたが、奈菜は周りの風景に愕然とした。壁には紅茶の飲み物が滴っていり、その下には割れたカップの惨状があった。


「えっ、勇さん! 何があったんですか? それとお客様は」


 あまりの事に奈菜は驚くと、勇は「ごめんね」と弱く微笑んだ。


「ちょっとね。あの男は今、執事が見送っているから雑巾を持ってきてくれるかい? あとちりも」

「はっ、はい」


 奈菜は書斎を出ると、雑巾とちりを手に取り、駆け足で向かった。


 奈菜は破片を片付けながらも、息を整えている勇に事の真相を聞いた。


「あの、何があったんですか」


 奈菜は破片をまとめ終え、壁に付いている紅茶を拭きながら言うと、勇は息を整えていった。


「いや、あの人、何が何だか分からないが君のことを欲しいと言ったんだ。あまりにも意味不明なことを言ったものだからついカッとなって投げつけてしまったんだ。ごめんね」

「いえ、でも私の為に怒ってくださりありがとうございます」


 奈菜は思った通りだと思った。けど、なぜあの男は奈菜のことを欲しがったのだろう。疑問を浮かべながらも、破片を捨てようと場所を問いただそうとすると。


「そうだ奈菜さん」

「はい?」

「このあと、ここから少し離れた所に行かないか? 少しは気分転換したいだろうし、私のお気に入りの紅茶店に行ってみないか?」

「わぁ。それは嬉しいです。あっ、破片を片し終えたら準備します。あと、車は」

「あぁ、それは先に執事に言っておいたから安心して。破片はキッチンの所に燃えない用のゴミ箱があるからそこに捨てといて」

「わかりました。それでは準備が整えたらまた書斎に来ます」


 奈菜は破片を持ったまま書斎を出ていき、キッチンの部屋に入り、ゴミ箱を探してみると流しの横に燃えないゴミと燃えるゴミとシールで貼られている箱があった。そこに破片を入れ、雑巾を水で濡らしてから絞り、そのまま掃除置き場の部屋に行き、道具を置くと自分の部屋に向かった。


 エプロンを脱ぎ、上着を着た。カバンの中にお財布とスマホを入れて背負った。


 書斎に行くと、上着を着た勇が書斎の前に立っていた。


「あっ、勇さん」

「あぁ、奈菜さん。準備するの早いね」

「はい。いつでも素早くしたほうが勇さんに迷惑を掛けないので」


 奈菜は微笑みながら言うと、勇は「じゃあ、行こう。歩きだけどごめんね」と言った。


 屋敷の鍵を掛け、2人は話しながらあの駐車場の場所まで向かった。駐車場まで行くと執事が車の横で待っていた。


「あの男は他ので帰ったな?」


 勇は険しい顔で執事に言うと、「はい、勿論でございます」と言うと黙ってドアを開けた。


「奈菜さんは私の後に入って」

「はい、わかりました」


 勇が車に入り、その次に奈菜が車の中に入り込むと執事が静かに扉を閉め、運転席に座った。


 奈菜と勇はシートベルトを付ける音がすると、執事は振り返って「それでは出発いたします」と言い、車を走らせた。


 砂利の道を下り、とうとう森の入り口を通り抜けてそのまま勇がおすすめしているカフェに向かった。


 何か奈菜は喋ろうと思ったが、さっきの事があってたことなのか空気が重く、口が開かなかった。


「奈菜さん。起きてください」


 勇の言葉にハッと起き上がった。いつの間にか車の揺れで寝てしまったのだろう。なんて失礼なことをしたんだと奈菜は頬を赤らめて謝った。


「すいません。勇さん‼ 私」


「いや良いんだよ。誰だって車の揺れだと眠ってしまう人だっているからね。さぁ、着いたよ」


 奈菜は申し訳なく思いながら窓の外を見ると、そこには暗い青の色をした建物の手前に細い道があり、その道の下には綺麗な川が流れていた。


「ここが勇さんが気に入っているお店ですか?」

「あぁ、ここのお店とっても良いんだ。心が安らぐんだ」


 勇はそう言うと、早々と建物内に入って行った。


 奈菜も後を追って建物内に入ると甘い香りが匂ってきた。周りには木材の壁、いくつかの椅子と机が並んでいた。扉の横には植物が二つ並んでいた。


 勇と奈菜は窓際の椅子に座り、横にあるメニューを一緒に見た。


「奈菜さんはどういったものが好きかな? なんでもいいよ」

「えっ、いいんですか?」


 奈菜は思わずそう言うと、勇はにこやかに話した。


「もちろんだ。ここに来たことはしっかりとした気分転換のために連れてきたんだから、さぁ、遠慮はいらずに注文をしたまえ」


 勇は笑顔でメニューを差し出した。奈菜はお礼を言いながらメニューを見た。


「じゃあ私は、カフェオレとこのコーンスープだけで十分です」

「そう。じゃあ私も奈菜さんと同じ食べ物にしよう。マスター」


 勇はキッチンにいるマスターに声を掛け、先ほど選んだメニューを言った。


 ほっと息を奈菜は吐くと、勇は窓の外を見ながら話しかけた。


「ねぇ、奈菜さん」

「はい」

「奈菜さんはお父さんが亡くなって悲しかったでしょ」


 いきなりのことに奈菜は困惑したが、すぐに気持ちを返した。


「はい。勿論とても悲しかったです。まだまだ話しとか遊びとか色々したかったですよ。でも、亡くなってしまったからには時は元には戻れませんけど」


 奈菜は思わず少し下に向けてしまったが、すぐに顔をあげて髪を耳に掛けた。


「でも、母がいてくれたお陰で今の私がいるんです。そのためにも結構な努力をしてきました」


 奈菜は優しく微笑みむと、勇は嚙みしめるようにゆっくりと頷いた。


「そうかい。そうかい。いやぁ、私もまだ若い頃に早くにして母親が亡くなってしまってね。とても落ち込んでいる時があったが父に、『男がいつまでもメソメソするな。強くなれ』って散々言われたよ。でも、今の奈菜さんを見ていると結構ここまで努力をして来たんだなって感じられるよ」


 そう言うと、丁度店員が注文したのを目の前に置いてくれた。


「でも奈菜さん。最初に君がここに来るとき履歴書見たけど、まだ十九歳なんでしょ? 大学は行きたかった?」

「いえ、あまり夢なんて無かったんですよ。でも、ちょこちょこ勉強はしていますよ。辞書とか色々」

「ほぉ、君は本当に努力家だね」

「ありがとうございます」


 勇はカフェオレを一口飲むと、奈菜に「好きなだけ飲んで良いからね」と声を掛けた。


 奈菜もカフェオレを一口飲み、勇と同じく外を見た。空は灰色に染まり、今でも雨が降っていきそうな雰囲気だった。


「雨、降りそうですね」

「あぁ。まぁ車だから良いけどね」


 勇はスープをスプーンで掻きまわぜながら言った。


 奈菜はカップを持って、先ほど読んだ日記のことを思い出した。


 悪魔というのが未だに頭の中に残っている。あの本が本当だったら一体全体何を願いをしたのだろうか。悪魔なのだからきっと代償だって支払っているはずだ。


「しかし最近は去年より寒い。奈菜さんはどうかね」

「あぁ、確かに起きる時とても寒くて、少し困難しますね。布団の中とても暖かいから」

「ハハハ、そうだね。でも起きる時軽く運動すたら少し温まると思うよ」


 勇はそう言うと、スープを飲んだ。


 2人はしばらくカフェで雑談をしていると、パラパラと雨が降り付く音が聞こえ、外を見てみると窓には雨の雫が付いていた。


「あっ。雨降ってきた」

「そうだね。今日の夜はポストを見るだけで良いよ。あと前みたいに変なものがあったらちゃんと持ってきてね」

「はい」


 それぞれ空になったカップとお皿を見て、勇は「おかわりするか?」と言ってきたので、奈菜は「いいえ」と言うと、勇は帰ろうと言って立ち上がった。2人でお会計を済ませ、外に出るととても冷たい空気が肌を触った。体を震わせながらも執事が待っている車に向かった。


 車の中に入ると、暖房を付けてくれたのか暖かい空気が包み込んでくれた。


 中に入り、再びシートベルトをしてから執事は車を走らせた。


 パラパラと雨が窓を叩く音が聞こえてくる。奈菜は窓から空を眺めた。


「どうしたんだい? 空なんか眺めて」

「えっ。あぁ、少し考え事をしていたんですよ」

「何をだい?」

「実はですね、母のことなんですけど。勇さんの屋敷に行く前日に久々に病院で会ったんです。それでその時、大学行きたかったよねって、勇さんと同じことを言われたんですよ。私は別に気にしていないし、特に行く大学なんてなかったし、何よりも私人見知りで。あまり友達なんて居ないので」

「ほぉ。それほど気にしているんだね。お母さまは」

「はい。だから出来るだけ心配は掛けないようにはしているのですが、まぁ私の話しは老いといて、勇さんは何か部屋にいる時何かしていますか?」



 暗い話しばかりだと気分が落ち込んでしまうと思い、奈菜は勇に質問をした。


「私か? 私が住んでいる所は田舎だから、夏の時は窓を網戸にして虫の鳴き声を聞いているんだよ」

「へぇ、良いですねぇ」

「うん、田舎は何もなくてもその代わりに自然を感じ取られるから良いんだよね」


 それから勇は笑顔で田舎のことを語り出した。良い空気、虫の鳴き声、美味しい野菜などを色々話してくれた。まるで子供が好きな何かに付いてのことを語り掛けているような感じだった。


「夏の夜にはよく虫が泣いたね。寝る前までは窓を開けてよく聞いていたよ」

「へぇ、勇さんって自然が大好きなんですね」

「まぁね」


 勇はその後も田舎にまつわることを喋り続けた。


 駐車場に着き、執事が先に出て車の後ろから三つの傘を取り出し、そのうち一つを傘をさして扉を開けた。


 勇は傘を受け取り、車を出た。奈菜も同じく執事から受け取り外を出た。鍵を掛け、そのまま屋敷に向かった。


 屋敷の中に入ると、お互いに着いた水滴をはらって家の中に入った。


「それじゃあ少し休憩しよう。奈菜さんも部屋に戻っていいからね。

「はい、では失礼します」


 奈菜は執事と勇に頭を下げ、そのまま部屋に戻った。


 カバンを置き、すぐに仕事が出来るような状態にした。背伸びをすると、再びあの黒い本が気になった。奈菜は再び段ボールからあの黒い本を取り出し、続きから読み始めた。


 19××年 5月17日 早速皆が寝静まったときにやったら本当に悪魔が出た。その悪魔はニヤリと笑って「何を願いたい」と言った。私はすぐに願いのことを話した。そしてニヤリと再び笑い、それでは大切なものと、その後は忘れた。でもこれで俺は幸福の道だ。誰もが羨ましく思うほどの人生が向かえる。妻には事前にこのことを伝えたが、止めてください。悪魔に魂を売っているものですと言い切らした。妻は全く分かっていない。世の中は不幸の時だってあるのに、本当にわからずやの女だ。


(奥さん。きっと必死に止めたんだろうな)


 奈菜は奥さんが必死に止めるのが脳裏に浮かんだ。そしてもう一ページをめくった。


 19××年 5月18日 なんと素晴らしい日なんだろうか。今日は五社との契約が出来たし、沢山の金が会社に振り込んできた。これでこっそりとキャバクラに行く予定だ。妻は少し不安がっていた。執事共は今日もはきはきとはたらいてくれなかったから二十四時間の作業命令を出した。でもいい、これでドンドン幸福が舞い降りてくると上機嫌が高鳴って行く。


 奈菜はあまりのことに目を疑った。主人公は自分だけが幸せになればそれで良いような感じだった。そんなことを思いながらもう一ページめくろうとした。


「面白いでしょ?」


 誰か分からない声、奈菜にしかいないはずの部屋に聞こえた声に驚いて振り向いたが、ただ時計の音が聞こえていただけだった。最初は普通の家だと感じていたが、今は段々とこの家が怖くなってきた。


 わからない声、誰かに触られた感触に不気味な音。そのことがたて続けに起こるなんて段々と怖くなってきた。


 けれど、他のお手伝いさんたちはその後どうなったのだろうか。ただ止めていったのか、それともと考えていくと奈菜は徐々にこの屋敷の謎が深まるばかりだった。


(そうだ。3階に何かあるかもしれない。あそこに、ファイルとか何かあったからそこに何かあるかもしれない)


 奈菜はそう思うと、呼び出しの音が鳴り響いた。


 本を再び段ボールの中に戻し、勇の書斎に向かった。


 書斎の扉を3回叩き、中に入っていた。


「あの、何でしょうか?」

「あぁ、奈菜さん。ごめんね。仕事内容なんだけど、良いかな?」

「はい、なんなりと」

「えーとね、掃除機で1階2階を掃除をしてくれ。それから窓ふきをからぶきで。雨で少し曇りが浮かんでいると思うからそれを拭きとって欲しい」

「わかりました。あとは」

「あとはか、いや、これを終えたら今日のお仕事終わり。それやった丁度にコックが作ってくれた晩飯が出ているはずだから。それを食べてね」

「はい、それでは」


 奈菜は書斎を出ると、そのまま掃除置き場の部屋に行き、掃除機を取り出して一階の右奥の部屋から始めた。キッチンと掃除部屋以外の掃除を終え、そのまま乾いた雑巾で窓を一枚一枚丁寧に拭いた。


 廊下は相変わらず冷たく、まるで冷凍庫の中にでも掃除しているのかにも思えてきた。


 手に息を吹きかけると、濃くて白い息が出てきた。窓を拭き続けるとすぐに雑巾は濡れて汚れた。


 暗くなった外は相変わらず強い雨が降り続けている。外の地面と葉は濡れ、水たまりがが溜まってきている。


(凄いなぁ雨。なんだか雷が鳴りそう)


 奈菜はそう思いながら窓を拭き続け、一階全ての窓を吹き終えた。


 掃除機を抱え、2階に行くと1階と同じく右から掃除をし始めた。図書室を掃除していると、この前のことが浮かび思わず身震いをしてしまった。窓も拭き終え、そのまま一つ一つの個室の部屋を掃除終えていった。


 掃除機を自分の部屋の前に置き、雑巾を持って窓を拭き始めた。パラパラと雨の音が外から聞こえてくる。時計を見てみると2時近くになっていた。


(3時ぐらいになったらまた執事がお菓子を運んでくるかしら?)


 奈菜はそう思いながら窓を拭き続けた。


 言われた仕事を終えてもう一度時計を見てみると、3時近くになっていた。掃除機と洗った雑巾を元に戻し、部屋に戻って手を洗い終えると扉を叩く音が聞こえた。開けると、ティーカートに乗せられたお菓子を持った執事がいた。


「お菓子の時間でございます」

「ありがとうございます。あっ、後で3階見に行きますね。前みたいに埃だらけに鳴るなんてごめんですから」

「はい、分かりました。私はそのときまた外に行くので、何かありましたら私が帰ったときに言ってください。わかりましたね」

「はい、そうします」

「では、失礼します」


 執事はお菓子を奈菜に渡すと、そそくさとその場から去って行った。


 テーブルの近くに置き、銀の蓋を開けた。中にはブドウの甘いソースがかかった。レアチーズケーキと紅茶があった。


 奈菜は手を合わせ「頂きます」と言い、食べ始めた。


 とても甘く、口の中がとても幸せになった。紅茶も飲み、ホッと一息を付くと重大なことを思い出した。


(そうだ‼ 3階に付いて調べるんだった)


 奈菜は昨日のことを思い出し、執事が帰ってくる前に早く食べようと、すぐに紅茶とお菓子を食べ続けた。


 食べ終え、銀の蓋を閉じてティーカートを廊下に置き、そっと3階に向かった。


 3階に付き、古びた家具がある部屋から調べた。昨日掃除したため椅子にはほんの少しだけホコリは少しだけだった。


 奈菜は周りのソファや椅子の周りを触りながら何か付いていないか一つずつ確認をしたが、何もいなかった。


 しかし、タンスの1番上を開けてみると紙が一枚入っていた。取り出して、裏返してみるとそこには鉛筆で恨みという言葉が紙一枚に細かく書かれていた。


(凄いな、あれ? よく見ると恨みの他に違う文字がある)


 奈菜は目を凝らして見てみると、右下に小さく死ねと書かれた文字があった。


「勇さんに恨みでもあるのかな? あんなに優しい人なのに」


 奈菜は前の執事のことを思いながら、紙をタンスの中に元通りに置いて二段目のタンスの蓋を開けた。中には一冊の薄い黒いノートだった。


 中身を見てみたが、薄く古びた何も描かれていない紙だけだった。ノートを閉じ、中に戻してから最後の3つ目の蓋を開けた。


(ん? なにこれ)


 タンスの中には紙が2枚あった。1枚目は黒く、所々に目が描かれているイラスト。2名目は先ほどのイラストと間に矢印が隣にある棒人間を刺しているイラストだった。


「えーと、まさか乗り移るって意味かな? この絵の意味は」


 よくわからないでいながらも、一応のために絵を元に戻して部屋を出た。


 アルバムがある部屋に入ると、奈菜はどれが1番前の執事達の写真が乗ってあるかを見てみると、アルバムにはそれぞれ題名が書かれていた。


 幼少期、小学生時代に中学生時代、どれも厚みが違った。きっとその時代だけの写真をアルバムに収められているのだろうと思うと思いながらさがしていると、執事と書かれたの一冊があった。


 これだと奈菜は思い、開いてみた。


 1ページの写真の1枚には、真ん中に勇とその左右に両親、周りには執事が数人いた。皆は優しく微笑んでいた。


「これが、勇さんの両親か。とても優しい顔をしているし、母親に似ているのかな?」


 奈菜はそう思いながらもう2ページ目を開いた。


 2ページ目は執事たちの個人写真が乗せられていた。下にはそれぞれの名前が乗せられていて、皆は真顔で映っていた。それは三ページまで乗せられていたが。


(あれ? なんで最後の方の写真がないんだ?)


 3ページ目の右端には明らかに写真が乗っていたであろうな痕が残っていた。下には秋元雄二と言う名前だった。


(この名前からすると、きっと男ね)


 奈菜はそう思っていると、呼び出しの音が鳴り響き、思わず肩を震わせてしまった。


 すぐにアルバムを閉じ、駆け足で勇の所に向かった。


 書斎に着き、息を整えてからドアを三回叩いた。


「どうぞー」

「失礼します」


 奈菜は中に入り、「何かありましたか?」と言った。


「いや、ごめんね。午後の仕事なんだけど、最初はポストの中に入っているのを確認をするのと、その後はお風呂掃除だけだよ。丁度終わったら執事が食事を持ってきてくれると思うからね。じゃあ、頼んだよ」

「はい、かしこまりました」


 奈菜は頭を下げると書斎を出ていき、扉のそばにある傘をさしてポストに向かった。


 ポストの蓋を開けた。中にはただ新聞だけが入っているだっけだった。取り出しし、そのまままた駆け足で屋敷の内に入り、雨の小粒をはらい、スリッパに履き替えて書斎に向かった。 


 再び3回叩き、書斎の中に入ってポストの中に入っていたのを報告すると、勇はいつもどおり「机の上に置いといて」と言って、書斎の中に入り、机の上に置いた。


 そのままお風呂場に行き、洗い終えた奈菜はホッと息を整えながらエプロンを脱ぎ、自分の部屋に向かった。


 部屋に戻ると、勇の言った通りに丸いテーブルの横にはティーカートが置かれていた。近づくと、美味しそうな匂いがしてお腹が空いてきた。


 エプロンをベットの上に置き、椅子に座って「いただきます」と言い、銀の蓋を開けた。


 中には野菜とご飯と野菜炒め、デザートにバナナが入ったヨーグルトがあった。


 奈菜は食べると、思わずため息が付いてしまった。


 今日は色々ととても疲れた。客にはいきなり頬を触れたことにとてもビックリをしてしまった。けれど勇の怒りの顔が怖かった。あんな濃厚みたいな感じな人が怒るとああなんだなと奈菜は感じた。


 しかし、その後はとても楽しかった。初めて街の風景を見たがとても素晴らしく、都会とは違って空気が美味しかったし、何より周りの自然が素晴らしかった。


 奈菜は今日のことを嚙みしめながらご飯を食べ終え、お皿をティーカートに乗せ、銀の蓋をして扉の外に出そうと開けると、執事が目の前にいた。


「執事さん」

「お盆をおさげに来ました」

「分かりました」


 奈菜はティーカートを渡そうとしたが、疑問が少し浮かんでいた。


(偶然ならまだしも、なんで執事さんは私が丁度出そうとするといるんだろ?)


「あの、執事さん」

「はい?」


 奈菜は疑問のことを執事に言った。


「なんでいつも私が出そうとするとき丁度ここにいるんですか? 普通なら分からないはずなんですか?」


 そう言うと、執事は「そうですかね。私なりの感覚でこの場に来ているんですけど」と言った。


「いやいや、偶然にしてはずっとちょうど良いタイミングですよ。まさかとは思いますけど食べ終えるまでずっと廊下にって」

「いえ、そんなことなんてしませんよ。だって、夜になると寒いのですから」


 執事がそう言うと、体から冷たい空気を感じ身震いをした。


「それじゃあ」


 執事はティーカートを持ってそのん場を去った。


 奈菜は部屋に戻り、お風呂に入る準備をしました風呂場に行き、服を脱いでシャワーを浴びた。暖かいお湯が体を包み込んでくれる。


 シャワーを浴びていると、何かの気配がした。顔をすぐに拭いて周りを見わたしたが、何もなかった。


 しかし、壁の中に何かの挟まっているのが見えた。


 シャワーを止め、奈菜はタオルで濡れた手を拭き、壁の中に仕込まれている紙を切れない様にゆっくり取り外した。


 そこには手紙が入っていた。奈菜は開けて中身を見た。


 “奴らは直性の光がキライ。光を照らせ”


 奈菜は意味不明の手紙によくわからなかった。


(奴ら? 光? 何を言っているのかしら。そもそも奴らって誰のことなの?)


 奈菜はよくわからずにいたが、風呂の途中なため紙を濡れない場所に置いて、お風呂に入った。


 お風呂で体を洗い終え、寝間着に着替えて歯磨きをしてから、あの手紙を持ってベットに座り込んでまた、あの手紙を見た。何度見返しても奈菜にはサッパリ分からなかった。


 しばらく考え込むと、奈菜は黒い本のことを思い出した。


(そうだ。あの本を早く読み終えなきゃ。あれ、執事さんのだしそれ程面白いやつで気に入っている奴だったら直ぐ返してほしそうだし)


 奈菜はそう思うとすぐに箱の中に入れておいた黒い本を取り出し、ベットの上で読み始めた。


 19××年。5月25日。今日、殴り続けていた一人の召使が死んだ。冴えない奴だったが、勿論お香だけでお金などは一切払っていない。あんな男に一文もあげたくもない。簡単に死に追って、本当に馬鹿な男だ。まぁ、今度から別の奴に八つ当たりをしよう。


(酷すぎるなこの主人公。執事が死んだのに悲しいことなんて1ミリも感じられないなんて)


 奈菜はそう思いながら横を見た。


 19××年。5月29日。あいつの葬式が終えてから最近妻の様子がおかしい。オドオドしたり、何かと周りを確認している。聞いてみると、最近誰かに見られている気がすると言った。気のせいだろうと言ったが、妻はあの人が怒っているだわ。ねぇ、謝りに行きましょと言いやがった。私は思わず平手打ちしてしまった。初めて妻を殴った。そして、何か胸がざわざわした。これが罪悪感というものだろうか。よく

わからない。


「罪悪感を感じるの遅くないかしら?」


 奈菜はページをめくった。


 19××年。6月7日。妻に平手打ちして以来あまり話していない。顔を合わすだけでも気まずくなり、食事の時以外自分の書斎から出ていない。変わったことは他に、また召使が一人止めた。理由も何も言わずに止めていった。使えない召使の顔が仕事中でも蒼白くなっている。ただの体調が悪いだけなのかよくわからないが、まぁ良いだろう。


 隣のページを見ようとすると、ドアがノックされる音が聞こえた。


 奈菜は本を段ボールの中に入れ、扉を開けた。そこには明が微笑みながら湯気が立っているホッとミルクを銀のお盆に乗せていた。


「あっ。明さん」


「やぁ、奈菜さん。一応眠れなかった場合にホットミルクを作ったんで、良ければ飲んでください。あっ、あと。カップは廊下に出してくれるだけで結構です。九時過ぎ辺りに取りに行くんで」

「わかりました。ありがとうございます」


 奈菜はホッとミルクを受け取ると、コックは静かに扉を閉めた。


 奈菜は椅子に座り、降り続けている外を眺めた。雨は先ほどより強く、広い水たまりが出来ている。その上には枯葉が浮かんでいた。


 景色を眺めながらホットミルクを少しずつ飲んでいた。


 眺めながらも、先ほどのほんの内容がとても酷く、胸がむかむかしてきた。ため息を漏らし、母のことを思い浮かんだ。


(今頃お母さん。どうしているかな)


 ちゃんとご飯は食べているか、眠れているかなどを思い浮かんでいた。病気が悪化などしていないか心配になって来た。


 尚子には、何か悩みとかある場合は固定電話に電話をしても良いと言われた。


 奈菜はダイヤルを回し、耳に宛てた。


 しばらくして、尚子の声が聞こえてきた。


「もしもし」

「あっ、尚子さん。私です」

「あー。奈菜ちゃん。大丈夫? 順調に仕事をしてる?」

「はい。しています。あの、お母さん大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ。とても元気元気。まるで病人じゃないみたいな感じの元気なのよ。あのまま病気も治るんじゃないかしら?」

 

 尚子は笑いながら話した。


「出来ればそうなってほしいですよ。あっ、あとなんですけど今日、変なことが起こったんですよ」

「えぇ、どうしたの?」


 奈菜は物音などの話を尚子にした。


「まぁ、それは少し怖いわね。きっと上にいた大きめなネズミが動いた時に何か当たった音かもしれないけど、まぁ怖かったらいつでも気まぐれでも大丈夫だから連絡してね」

「はい、ありがとうございます。それでは」


 奈菜は電話を切ると、部屋に戻って一息を付いた。冷たくなった残りのミルクを飲み干し、廊下に置いて閉めた。


 腕をさすりながら一応口を濯ぎ、ベットの中に潜り込んだ。


 奈菜はある不思議な夢を見た。


 あるとても暗い部屋に一人で立っていた。寒く、体が凍りそうなぐらいだった。


 腕を手で擦りながら辺りを見わたした。すると、右端に誰かが後ろ姿で光に照らされながら立っている。


(誰だ)


 奈菜は警戒をしながらも少しづつ近づいていった。


 距離を縮め、奈菜は勇気を出してその人物に声を掛けた。


「あの!」


 声を掛けようとすると、いきなり沈む感覚に襲われた。下を見ると、足首は何かに浸かっていてとても動けなかった。むしろドンドン沈んでいく。


 必死に抵抗をし、目の前にいる人に助けを求めた。


「助けてください!」


 声をあげると、男は自分と同じくよくわからないものに溶け込んでいった。

 足下から黒くて細いのが伸び、奈菜の体を包み込んだ。


「やめて! 誰か! 助けて!」

 



「はっ!」


 奈菜はそこで目を覚ました。部屋の周りには目覚ましの呼び鈴が鳴り響いていた。


 荒い息を整え、ベットから起き上がって服に着替え終えた。


 すると、ドアを叩く音と執事の声が聞こえてきた。


「おはようございます。奈菜さん」

「はい、どうぞ」


 執事は扉を開け、いつも通りにティーカートを押しながら部屋に入ってきた。執事は奈菜の顔色を見ると心配しそうに声を掛けた。


「あの、奈菜さん。大丈夫ですか? 顔がとても青いですが」

「大丈夫です。ただ怖い夢を見ただけですから」

「そうですか……奈菜さん」

「はい」

「本、どうですか? とても面白いですよね」


 執事に本のことを言われ、奈菜は「はい。とても面白いです」と微笑んで短く感想を言った。


「でも、主人公がとっても酷いですね」

「えぇ、とても酷くて残虐ですよ。自分のことしか考えられない愚かな主人公です。それでは、食べられる分だけ食べてくださいね」


 執事は奈菜と同じく微笑んで、部屋を出ていった。


 奈菜は椅子に座り、いつものように朝食を食べて、廊下にティーカートを出そうとするとまたしても執事が来ていた。


「それでは、呼び出しが鳴り出したら書斎に」


 執事はそう言うと、ティーカートを押しながら去っていた。


 奈菜は顔をと歯磨きをし、呼び鈴がなるまで昨日取り出した紙をベットの上で考えた。


 何回も考えても、奴という示すことが浮かばない。そもそもどうして、前の家政婦かこの紙を壁の中に入れたのだろうか。


(でも、それだったらここに他の何かがあるはずだ。有名だって母の友人が言っていたし、きっと前の、その前の家政婦の誰かがあちこちに何かを入れているはずだ。この部屋は家政婦専用のお部屋だからきっと、他のもあるはず)


 奈菜は紙を折りたたんでしまい、あまり見ていないところを調べようと考えた。タンスにはただ服が入っているが、その下はあまり見ていなかったために扉を開けた。


 下を探ってみると、右端の壁に何かが浮かんでいるのが見えた。奈菜は取ってみると、壁の色と同化した小さな封筒だった。


 中を見てみると、顔だけ破られた古い写真が一枚だけ入っていた。


(写真の色見だと、きっと昨日見つけたアルバムの中に入ってたものね)

「でも、何でこんなところに」


 奈菜はそう思っていると呼び鈴が鳴り響いた。すぐに元に戻し、書斎に向かった。


 いつも通り扉を叩き、勇の声を聞いてから入った。


「失礼します。おはようございます勇さん」

「あぁ、おはよ。さっき執事から聞いたんだが、怖い夢を見たんだってね。大丈夫かい?」

「はい、でも大丈夫です。それで今日の仕事は?」

「あぁ、そうだった」


 勇は手を叩くと、今日の仕事内容を言った。


「今日は、最初に皿洗い、その後に洗濯物。大体、十一分で終えると思うからそのつもりで、その後は周りの掃除と窓ふき。今日は落ち葉は良いよ。周りは水たまりだらけだしね。それで、また後で私が何かあったら言うね」

「分かりました。それでは失礼します」


 奈菜はお辞儀をすると、書斎を出ていき、そのままキッチンの方に向かった。


 流しに行くと、あるのは今日の勇が食べたお皿と奈菜が食べたお皿だけがだった。一枚一枚丁寧に洗った。


 静かなキッチンに寒気を感じながらも、周りを見わたした。見わたすと、デカい冷蔵庫の横に派手な赤いドレスを着たキャバ嬢のような女の人が立っていた。


(えっ、いつの間にあそこにいたんだろ? それに、あんな姿でこの屋敷にいるなんておかしいわね。)


 奈菜は泡の付いた手を洗って顔をあげると、女がいつの間にかいなくなっていた。


「あっ、あれ?」


 驚きながら冷蔵庫に近づき、辺りを見わたした。思わず下を見ると、何かが光っているのが見え、拾ってみるとそれは真珠が付いているイヤリングだった。


「こんなもの、ここにあるはずなんてないのに」


 不思議に思いながらも、奈菜はポケットにしまって後で勇に届けようと思い、駆け足で洗濯機に向かった。


 洗濯機の横には服が籠の中に入っている。一枚ずつ中に入れ、洗剤入れの箱には色々あり、注意深く説明書などを良く見てから入れた。


 電源を入れ、その次には部屋の掃除をしようと掃除機を抱えて左の扉から始めた。


 一階の部屋と窓を掃除終え、二階に向かった。


(そう言えば、あの出来事があってから掃除する以外あまりいっていないわね。すべて終えたらあそこにある本でも探ってみよ)


 奈菜は図書室の部屋に入り、本棚の所はモップで綺麗にしてから掃除機で床にあるごみを吸い取った。


 掃除をしていると、扉が叩かれる音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 奈菜は大きく声で言うと、扉を叩いていた人物が入ってきた。


「あれ? 勇さん」

「やぁ奈菜さん。しっかりと仕事しているね。偉いよ」


 勇は微笑みかて言った。ふと手を見てみると、勇の手には一冊の本が抱えられていた。それに奈菜は察して言った。


「あっ。本を元の場所に戻しに来たんですか」


 奈菜の言葉に勇は「うん。そうだよ。読み終えたからね」と言って本棚に戻した。


「あっ。今日、お野菜とか届くから受け取りお願いね」

「はい、分かりました。あっ、あとなんですけど」


 奈菜はすぐにポケットの中に入っていたイヤリングを勇に見せた。


「実はこれなんですけど、いつの間にかキッチンの方に落ちていたんですよ。私、ここに来る前にイヤリング物とか買っていないので、前の誰かがここに来ましたか?」


 奈菜は一通り言ったが、勇はそのイヤリングを見て顔色が少しだけ悪くなったが、すぐに優しく微笑んでイヤリングを取った。


「きっとそうだね。これは私が預かっておく。きっとなんだか、奈菜ちゃんが来る前にきた人が落としていったのかもしれない。後で私が電話しとくよ。ありがとね」


 勇は笑顔でお礼を言うと、イヤリングをポケットに入れた。


「あとさ、奈菜さん」

「はい」

「三階には、行った?」


 勇の声に動揺をしてしまったがすぐに「行っていません」と即答をした。


 そう言うと、勇は奈菜の顔を見てからまた微笑んで「そうか。じゃあ、頑張ってね」と言うと、選んだ本を抱えてその場を去った。


 奈菜は思わず深呼吸をし、仕事を再開した。


 二階の部屋と窓を終え、そろそろ洗濯機も終えたころの為だと思いながら洗濯機に向かった。


 案の定洗濯機の動作が終わっていた。奈菜は洗濯ばさみは服に挟んで、洗濯をした服を籠の中に入れ、それを抱えて外にも向かった。


 服を感覚を開けながら干していると、烏が一羽鉄の扉の上に止まった。


(あっ、烏だ。まさかとは思うけど、あの人が来たとは、言わないわよね)


 奈菜は昨日来た男を思い出した。無断で頬を触ったことに怒った勇の顔を思い出した。


 けれどあの男は一体何の仕事をしているのだろうか。あの格好からすると普通の仕事をしてなさそうにも見えた。


(あの格好、なんか俳優か、探偵の仕事をしているのかな)


 奈菜は男が着ていた服を元に職業を考えながら最後の服をハンガーに掛けた。


 言われた仕事を終えた奈菜は、屋敷内に戻ろうとすると一羽の烏が扉を塞いだ。


「きゃ!」


 奈菜は下がると、烏は床に付いた。


「もぉ、何? お願い。そこを退いて」


 奈菜は烏に退くように命じるが、烏は一向に退かない。少し苛立ったが、烏は顔を横に向けた。向けた先には目を真っ赤にさせた一匹の黒いウサギがいた。


 烏はウサギを見るとまた奈菜を見た。そのことに、奈菜はきっと何か案内をしてくれるだろうと感じた。


「ねぇ、この格好だと無理だから着替えてからでいい? すぐに戻るから。だから、そこをどけてくれない?」


 奈菜はお願いをすると、烏は理解をしたのか体を退けた。


「ありがとね」


 奈菜はお礼を言い、屋敷の中に入って籠を洗濯機の横に置いた。


「さて、勇さんに外に行くこと言わなくちゃ」


 奈菜は書斎に向かい、扉を三回叩いて声を掛けた。


「はーい」


 勇の声がし、奈菜は扉越しで「少しお外に行っていきます」と言った。


「わかった。けど、気よ付けてね。この前のことが起こったら大変だからね」

「分かりました。それでは、失礼しました」


 奈菜は大きい声で言うと、そのまま自分の部屋に行き、エプロンをベットの上に置いて上着を着てからまた駆け足で扉に向かった。


 開けると、待っていたかのようにウサギが扉の所にいた。


 奈菜は気よ付けながら扉を開けた。狐は逃げることもせず、ただじっとしているだけだった。


「ねぇ、何処に連れていてくれるの?」


 奈菜は声を掛けると、ウサギは右の道に歩き出した。


 訳が分からずにいると、ウサギは着いてきてと言わんばかりか振り向いていた。警戒はしたが、一体何に案内をされるのか興味を感じ、そのままウサギの後を追った。


 ウサギは左の方に体を向けて止めた。奈菜は見てみると、一本の道があった。


「あれ? こんなところに道なんてあったけ?」


 奈菜は不思議ながらも、狐はその道を通って行った。


「あっ、待って!」


 奈菜は急いでウサギの後を追った。追い続けると、ウサギは突然早く走りだした。


 急なことに驚きながらも駆け足で後を追った。落ち葉を踏みながらも奈菜はどうしてウサギが案内をしてくれるのだろうかと思いながら付いて行った。


 しばらくついて行くと、ウサギは足を止めた。


 やっとかと思いながら見上げると、そこは勇の家とは違い小さめのお屋敷が一つだけ会った。


(ここってまさかとは思うけど、勇さんのもう一つの家?)


 奈菜は一瞬だけそう思ったが家の雰囲気を見てそうではないと感じた。壁にはツ

タ、周りには雑草が生やしていた。そして少しだけ壁にはヒビが割れていた。ウサギは屋敷の近くに寄った。


「あっ、ちょっと」


 歩き出した狐に、奈菜は急いで後を追うと扉の前に止まった。


 奈菜は扉に近づき、まさかとは思った言葉を言った。


「中に入れってこと?」


 奈菜はそう言うと、狐はそうだとと言うように頷いた。


 奈菜は少し戸惑ったが、狐がこうゆう風に案内をしたっていうことは何かを伝えるか探してくれと頼んだんだろと思い、前の住んでいた方に謝り、ドアノブを回した。


 簡単に空き、奈菜はゆっくりと扉を開けた。


 玄関周りには古びた靴と壊れた下駄箱と傘が散乱をし、土とホコリが被っている。


「凄いなここ」


 奈菜はポケットからハンカチを取り出して周りを見た。すると、ウサギは半分の隙間からするりと入り、そのまま廊下を歩いた。


 奈菜は中に入り、周りを見わたした。天井にはシャンデリアにきっと白いはずだった床は酷く汚れていた。


 奈菜はウサギの後を追いながら周りを見わたしていると、ウサギはある扉の前に止まった。


「ここに入れってこと?」


 奈菜はウサギに言うと、その子は頷いた。思わず生唾を飲み、ゆっくりと扉を開けた。


 開けると、部屋は仕事場のような場所だった。大きめの机の横には計画の書類、その上にはペンが置かれていた。奈菜は一枚だけ見てみると建物の図形が書かれていた。


 きっと何かを計画していたのだろう。横を見てみると、タンスの中に入っている古びた本にはホコリや蜘蛛の巣がかかっていた。


 奈菜はなぜウサギがこの屋敷に案内をしてくれたのだろうと思いながら見てると、ウサギはある一冊の本を見た。


「ん? 何のタイトル見つけたの?」


 奈菜はウサギに近づき本のタイトルを見てみた。本の表紙には絶対叶えられる禁断の術と書かれていた。


「ゲッ。何、ここに前住んでいた人こんな本買ってたの? 結構な悪趣味ね」


 本を見つめ、上を見上げると一枚の紙切れが飛び出していた。奈菜はそれを取ってみると、写真だった。2人の男女が映し出されているが、なぜか男の人だけ顔が塗りつぶされていた。女の人はとても綺麗な赤い服を着て、綺麗な真珠のイヤリングをしていた。笑顔でピースをしていた。


「ん? あれ? このイヤリングと服装」


 奈菜はキッチンで見た女の人と落ちていたイヤリングにそっくりだった。紙を裏返してみると1996年10月7日と描かれていた。


(1996年、結構前の写真か。じゃあ、この女の人は結構歳をとっているはずなの。じゃあ、あそこにいた人って)


 そう思いながらもう一つだけ大事なことが頭に浮かんだ。


(あれ? でも、この本ってなんか。あることと同じだな、確かなんだっけ?)


 奈菜は思い出そうとすると、ウサギは奈菜の足を踏んだ。


「いたっ、何、どうしたの?」


 奈菜はどうしたのかと足下を見ると、ウサギは踏んだことも忘れたのか扉に顔を向けた。どうゆう意味何だろうと思いながらでいると、扉が開いた。


 前を見ると、それは昨日屋敷に来た仮面の男が立っていた。


 奈菜を見ると、仮面の男が扉の前に立っていた。


「あっ、あなた」

「いやぁ、奈菜さん。こんにちわ、あの時はごめんね突然に」


 仮面の男微笑みながら近づくと、ウサギは近づいて抱っこしてと言わんばかりに男の足を使って立った。


 男はウサギを抱き抱えると、奈菜に向かって微笑んだ。


「いやぁ、でも。まさか奈菜さんがここを知っているなんて思いもしなかったよ。勇に聞いたの?」

「いえ、ただこの子がなぜだか屋敷の方に来て、おまけに来てくれと言わんばかりに扉の前で立っていたものですから、先ほど」


 近づいて来る仮面男に奈菜は一歩下がった。そのことに気が付いたのか、仮面男はその場に立ち止まった。


「そうか。この屋敷にか、ん? その本」

「えっ、あぁ。ウサギが見つけたんです。けど、なんだかあることと似ていて、なんだか」


 奈菜は少し誤魔化すような感じで言うと、仮面男は「ほぉ」と言った。ウサギを自分の横に置くと再びもう一歩近づいてきた。


「それはそうか。それにしても、奈菜さんは綺麗だね」

「えっ!」


 あまりのことに驚くと、仮面男は片手で奈菜の腰に手を回して引き寄せた。


「ちょっ!」

「本当に、とても綺麗だ。すぐにでも欲しいよ。それなのにあの男は一切君のことをゆずってはくれないんだよ」


 仮面の男は奈菜の頬を触りながら言った。男性経験が奈菜は、普段の男はこうゆうことをしてくるのかと思ったがこんなことは絶対ない心の中で思いながらすぐに突き飛ばした。


「やめてください!」 


 突き飛ばした拍子に奈菜は駆け足で部屋を出た。屋敷を出ても奈菜は走り続けた。


 先ほどの獣道を駆け足で走り続け、森の出口に出ると足を止めて息を整えた。


 呼吸をゆっくり整いながら後ろを振り返った。


 男が追ってくる気配がないことがわかると一安心をしたが走ったせいか胸の心臓は鳴り止まない。おまけに体が熱い。冷たい手を頬に当てるととてもあったかい。


 これを旦那様に言おうか迷ったが、何をするかわからなかったため黙っておこうと考えた。


 とりあえず暖かくなった頬を冷たい手で冷ませ、屋敷に戻るため足を歩めた。


 屋敷に戻り、奈菜は思い鉄の扉を開けた。キィィと鉄のきしむような音が鳴り響いた。


 横から冷たい風がふき、奈菜は体を震わせた


 奈菜は屋敷の中に入り、書斎にいる勇に声を掛けた。



「あのー、只今戻りました」

「あぁ、お帰りなさい。寒かっただろうからコックに暖かい飲み物を用意するように頼んどいたよ。今、呼び鈴で鳴らして君の部屋に届けるように言っとくから」

「ありがとうございます。それでは、部屋に戻らせてもらいます」


 奈菜は最初は男のことを言おうとしたがしたが、よくわからない屋敷に無断で入ったことを言ったらお叱りを受けてしまうと思い黙った。


 奈菜は自分の部屋に戻り、上着をタンスの中に入れてベットの上に倒れ込んだ。先ほどの疲れがどっと体から出た。


 薄く汚れた天井を見つめていると、扉がノックされる音が聞こえた。


 奈菜は起き上がって扉を開けると、銀のお盆の上に湯気を立たせているティーカップを持っていた。


「はい、ホットミルクです。これを飲んでゆっくりしていてください」

「あぁ、ありがとうございます」


 奈菜はお盆を受け取り、扉を閉めた。


椅子に座り、息を吹きかけて一口飲んだ。ホッと安堵し、机に置いて空気を入れ替えとして窓を開けた。冷たい風が部屋の中に入り込んできた。


 奈菜は椅子に座り、景色を眺めながらホットミルクを飲んだ。青い景色と森の木だけが見えるだけだがとても美しい。


 おまけに空気も美味しい。けれど奈菜は一つだけ気になっていることがある。


(そういえば、なんであの人はあの屋敷にいたんだろう?)


 あのような屋敷があったら不気味で入るのを拒む。そして、なぜ奈菜が入っている部屋がわかったのだろう。ウサギもどうして男に自然と寄ったか。奈菜は頭を悩ませるばかりでいた。それにけれど何でだろう、なんだか胸がざわざわしてきた。


(本でも読も)


 奈菜は再び段ボールからあの黒い本を取り出し、机の上に置いてしおりに挟んでいたページを開いて、再び読み始めた。


 19××年 6月18日 ある一人の召使が次々やめる理由を話した。夜に嫌な音が聞こえるだからというのだ。変な音が聞こえるだからだ。人気のない場所と夜になると聞こえてくるのだという。そんなことあるはずがないと思ったが、久々に会った妻もそうだという。変なことだ。


(変な音か)


 奈菜はページをめくった。


 19××年 7月7日。妻が死んだ。まるで心の中に穴が空いたような感触だった。本来ならやっと妻から解放され、自由にキャバクラや乗馬などが出来るはずだが今はそんな気分にも慣れない。むしろしたくもない、妻とまた食事と話しをしたいそれだけだった。これも悪魔の代償なんだろうか。いや、そうかもしれない。妻は突然死、こんなことは絶対起こるはずもない。あぁ、これは天罰だ。私の今まで。の行ないの天罰に違いない。すまない、すまない。すまないすまないすまない。


 後悔の念がリアルに伝わってくる。


 ホットミルクを一口飲み、その隣を見た。


 19××年 7月15日。幸せは来るが、妻は帰ってこない。私は毎晩酒浸りだ。今日は珍しく悪魔が来た。相変わらずニタニタと笑っている。私は「なんだ。もぉわしの魂をもっていくのか?」と言うと、あいつはにやりと笑って「違う、私はある報告に来た。これで君の一番大切なものを奪った」悪魔の言葉にすぐに察した。こいつは一番大切な物、妻の命を奪ったことに察した。私は自分はどうなるのかだと質問をすると、悪魔は言った。「お前の死だ」その言葉に、私はその場で失神をした。


(あー、悪魔の代償がまさかの奥さんの命と自分の死だなんて、これはさぞかし絶望だろうな)


 奈菜は少しだけ主人公を可愛そうだと思ったが、自業自得と言うやつだろう。


 19××年 7月8日。次の日、目を覚ましたら死んだはずの執事が目の前にいた。驚いたが、あいつは「監視です」と言って、食事を置いて部屋を出た。あぁ、これからあいつは私の看守だ。逃げることが出来ない。この屋敷に居たくない。助けてくれ助けてくれ助けてくれ。


 悲痛の念が文字にも現れている。奈菜は残りのミルクを飲み干し、窓を閉めた。


 突然、タンスの中から服を落とす音が聞こえてきた。驚きながらも、奈菜は警戒をしながらタンスに近づき、扉を開けた。


 案の定服はハンガーから落ちていた。なぜ落ちたかは分からないが、上着をハンガーに掛けようと上着を持ち上げると、何かが地面に落ちた。


 見てみると、少し分厚い黒い紙に一枚のコインをセロハンテープに貼られたのが地面に落ちていた。


「なんだこれ?」


 奈菜は取ってみると、コインには小さい文字で「削れ」と書かれていた。


 何だろうと思いながら、奈菜は机の上に紙を置き、コインで削ってみた。宝くじのように徐々に削れていった。消しカスを退かし、紙に書かれている内容を見た。


 “早く逃げて。ここには、黒い奴らがいる”


(黒いやつら? どういうこと?)


 奈菜はよくわからずにいると、ドアが叩かれる音が聞こえた。


 扉を開けるとティーカートを横に置いた執事がいた。


「コップを回収に来ました」

「ありがとうございます。あの、執事さん。ちょっと良いですか?」

「はい、何でしょうか」

「この、なんかいつの間にかタンスの中に入っていたんですけど、ご存じありませんか?」


 奈菜はタンスの中から出てきた紙を執事に渡した。


 執事は紙をマジマジ見ると、紙をいきなり切り破いた。突然のことに奈菜は体をビクつかせてしまった。


 紙を破り終えると、にこやかに微笑みながら話した。


「単なる前の結構前の執事の悪戯でしょう。こんな変なことをするなんて、困った人達です」


 先ほどの行動の後の執事の微笑みに奈菜は背筋が凍りそうになった。


「では、昼食の時間が来ましたが一様パンと野菜とヨーグルトを持ってきまし

た」


 執事は横に置いてあったティーカートを見せた。


「えっ、ありがとうございます。じゃあ、美味しく頂きます」


 執事にお礼を言い、ティーカートと空のティーカップを交換して扉を閉めた。


 奈菜はテーブルの上にパンと野菜、ヨーグルトを置き、椅子に座って食べ始めた。


 食べていながらも、奈菜は執事の微笑みを思い出した。あのような微笑みに怖がるのは初めてだ。けれど、黒いやつとは何のことだろうか。


 奈菜は先ほどの紙のことを思い出しながら昼食を食べ続けた。


 食べ終えた奈菜はティーカートに皿を置き、扉の横に置いた。


 さて、これからどうしようかと奈菜は考えると、前の家政婦はどのような人だったかを思い出した。


「あっ、そうだ」


 奈菜は声をあげると、廊下にある黒電話に行き、ダイヤルを回して耳に当てた。


 耳に宛て、待つこと数分後に尚子が出た。


「はい、もしもし」

「尚子さん。こんにちわ」

「あら奈菜ちゃんどうしたの? また何か怖い目にあった?」

「いえ、それは大丈夫なんですが。あの、ちょっと調べてもらいたいことがあるんですが、良いですか?」

「うん、いいけど何?」


 奈菜は執事がいないことを確認をして、内容を言った。


「旦那様の前、その前の家政婦さんに付いて調べてほしいんですが良いですか?」

「えっ、まぁいいけど。なんで?」

「えーと」


 どうゆう風に言い訳を言えばいいか考えると、尚子は察したのは話しかけてきた。


「貴方が体験をしたことの何か関係があるからなのと、もしそうゆう体験をしていたら話を聞きたいから、調べたいの?」

「はい。そうです」

「なるほどね。わかったわ。なんか習得したら旦那様の自宅の黒電話にするわ。あとはー、他にあるかしら?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 奈菜は電話を切ると、3階のことが再び気になり三階に行くことにした。


 扉を開け、階段に向かう途中に勇がいないか左右を確認した。どこにもいないことを確認をし、ゆっくりと3階に向かった。


 3階に付き、アルバムが沢山ある部屋に入った。深呼吸をし、執事の続きのアルバムを開いたが、あるのは集合写真と個人写真だけだった。


 アルバムを横に置き、他のを探すと家族写真と書かれたアルバムに何かが挟まっているのが見えた。何だろうと思い、ゆっくりと引っ張った。


 見てみると、紙には逃げてと言う言葉が書かれていた。その言葉にますますどうゆう事なのかが分からなくなってきた。


(ここって変な噂とかないんじゃなかったの?)


 あまりのことに思わず苛立っていると、呼び出しの音が鳴り響いた。


 奈菜は紙をアルバムに挟み、扉を開けると窓には薄っすらと夜に近づいて行っていった。


 書斎に着き、いつも通りにしてから部屋に入って行った。中は前より書類の量が増えていた。少し足場がなくなってしまうほどだった。


「失礼します」

「あぁ、奈菜ちゃん。早速だけど仕事いいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「えーとね、いつも通りポストを見て、お風呂を洗って軽く1階と2階の廊下を掃除してくれるだけでいいから。あっ、勿論箒でね」

「わかりました。それにしても」


 奈菜は周りの惨状を見渡した。


「なんか凄い量の書類と本ですね」


 勇の周りには難しそうな書類と本があちこちに重なって置かれていたりしていた。


「あぁ、ごめんね。最近仕事の量が増えちゃって」

「そうなんですか。体にはお気よ付けてくださいね」


 奈菜は微笑みかけて言った。勇は「ありがと」と微笑み返した。


 扉を閉め、そのままポストに行った。


 ポストの中に入っている新聞を持ち、書斎にいる勇に渡すとそのままお風呂場に行った。


 洗剤をお風呂にまき散らし、スポンジで汚れている所を擦った。


 スポンジに残っている洗剤を落とし、元の場所に置いてそのまま掃除部屋に向かった。


 掃除機を取り出し、廊下にあるコンセントに差し込んで始めた。掃除しながら奈菜は朝の出来事を思い返していた。


 不思議な赤い目の黒うさぎと仮面を被った男、もう一つの屋敷。あの屋敷はいつから出来ていたのだろう。周りの風景だと数十年前の屋敷だと思われる。


 何よりもなぜウサギがあの屋敷に案内をしたなのかが気になる。何かを伝えるため? 警告なのか分からずじまいだった。 


 1階の廊下の掃除を終え、2階も掃除し終えた。掃除機を掃除部屋に置き、奈菜は駆け足で書斎に行った。


「勇さん。あの、何かお話し中で御座いましょうか?」


 奈菜はドア越しで言うと、勇は「大丈夫だよ。入ってきて」という声がした。


 奈菜は「失礼します」と言い、書斎の中に入った。


「今日の仕事は全て終えました。あの、何か他に手伝えることはないでしょうか?」

「えっ、あぁ。そうだね」


 勇はこめかみに指を置いて考え込み。


「いや、これで今日の仕事もおしまい。あっ、でも、ちょっとだけお風呂上りでいいからお話いいかな?」

「はい。構いません」

「それは良かった。その前に晩ご飯を食べてからだね。それから寝間着で着ていいからね。それじゃああとで」

「はい、かしこまりました。失礼します」


 奈菜は頭を下げてから書斎を出た。


 2階に行き、部屋に入ってそのままベットの上に飛び乗った。


 執事が晩ご飯を持ってくる間まで本を続きの本を読みだした。


 19××年 9月15日 あの男はいつまでも偏見な目で私を見つめている。長年の恨みがこのような形にしたのだろう。早く、早く解放されたい。けれどこの生き地獄から解放はされるが悪魔との契約をしたためそのあとは魂を回収され、知らない恐ろしい奴に私を売るのだろう。そんなことを考えただけでも背筋が凍る。自分の部屋から出るのが怖くなった。けれど、仕事などがあるため書斎から出なければならない。あの男の目を、あの姿を見るのが日に日に恐ろしくなっていく。


 19××年 1月6日 新年が開け、私は会社を閉じた。何しろ、これからは生き

地獄を味わっていくのだからだ。最後の自分の情けに、それぞれの人に入社先を案内をした。これでなんとかなるだろうと思った。

 そして、そんな奴がいつまでもいたら周りの人達は気になってしょうがないだろう。止めたとしても、悪魔が次々と金をつぎ込んでくるから、飢え死になどは出来ない。屋敷の移動が出来たらお願いだと悪魔に頼み込むと、良いだろと言われ、誰も知らない、いつの間にか出来上がった住所、いつ建てられたかの屋敷が出来上がっていた。昔の物などは3階に置いてもらった。あまり必要ないものは屋敷に置いた。何かを頼んでいたんとしても、悪魔が偽りの住所をそのところに加えたてられる。これから、私の生き地獄が始まった。


 そこで本は終わった。まるで日記見たいだったが、このような感じの本があることをしっているため、きっとこうゆう本なんだろうと思いながら本を閉じた。


(執事さんが来たら本を返そ)


 奈菜は本を机の上に置き、自分の箱の中にある本を取り出して読んだ。


 腕時計を見ると、時刻は六時半となっていた。すると、扉をノックする音が聞こえた。


 本を持って扉を開けると、いつも通りティーカートを横に置いて立っていた執事がいた。


「晩ご飯をお届けに参りました」

「ありがとうございます。あと執事さん。本、ありがとうございました。とても面白かったです」


 奈菜は黒い本を出して言うと、受け取りながら執事は「それは良かった」と微笑んで行った。


「もう一つ、おすすめの本があるんですよ。宜しければいかがですか?」

「えっ‼ 良いんですか」

「はい、本が好きな人は出来れば読んで欲しいので」

「わかりました。あの、ティーカートを回収するときに持ってきて下さるのって可能でしょうか?」

「えぇ、構いません。それでは」


 執事は本を持ったままその場を去った。


 奈菜はテーブルの近くにティーカートを寄せ、銀の蓋を開けてお皿をテーブルの上に置いた。


 このあとは勇とのお話があるため、すぐに食べてからお風呂に入らないといけない。待たせてもいけないと思いながら晩ご飯を食べ始めた。


 いつもよりは早く食べ終え、ティーカートを廊下に出してからそのままお風呂場に向かった。


 顔と体を洗い終え、寝間着に着替え、廊下に出ると冷たいのが体を包み込んだ。奈菜は震わせながら書斎の方に向かった。


 ドアを3回叩くと、勇がドアを開けた。

「あぁ、奈菜さん。ごめんね、本当はゆっくりしたい時に」

「いえ、大丈夫です。一人部屋にいても、ただ本を読むだけなので」


 奈菜は笑顔で言うと、勇は書斎に招き入れた。中に入ると、ほのやかに暖かいのを感じた。


「さぁ、ソファに座って」


 勇に言われ、奈菜はソファに座った。


 目の前のソファに勇は座り、横にあるティーカップに暖かい紅茶を入れた。


 奈菜はありがとうございますと言い、自分の近くに寄せた。


「さて、奈菜さん。話しというのはね、ここんところ変音が聞こえないかい?」

「えっ。何故ですか?」

「いやね、私が寝ている時ギシギシと音が鳴るんだよ。それで聞いたんだ」

 勇も自分と同じことが起こっているのだなと思いながらも、ここで話そうと決心した。


「私も、そのような音は聞きました」

「えっ。いつ?」


 奈菜の言葉に勇は身を乗り出して聞いた。


「初めてここの屋敷の家政婦を初めてから、二日の時に出すかね。最初は天井からだったのですが、それが部屋にまで」

「ほぉ、部屋にか」


 奈菜は静かに頷くと、勇は真剣な顔になった。初めて見た真剣な顔にこんな顔をするんだなと心の中で思った。


「うーん、一応カメラでも設置しとく? 私一応そうゆうの持ってるんだよ」


 勇はそう言うと立ち上がり、デスクに近寄り、引き出しを開けて一台の録画カメラを奈菜に見せた。


「操作は簡単だから、教えるね」


 勇は録画方法を奈菜に丁寧に教えた。


「あとこれはバッテリーは24時間動き続けるから録画し放題だから安心して。このカメラを何処でもいいから落とさない場所に置いてね。どうせ音だけ取るんだから」

「そうですね。ありがとうございます」


 奈菜はカメラを受け取った。


「紅茶を飲んでからいいから、飲み終わったら部屋に行ってね」

「はい。ありがとうございます」


 奈菜はお礼を言うと、暖かい紅茶を飲んだ。


 紅茶を飲み終え、勇に「おやすみなさい」と言い、書斎の扉を閉めた。


 部屋に付き、扉を開けるとベットの上に一冊の本と置手紙が置かれていた。


 見てみるとそれは執事からだった。


 "二冊目の本です。休みの時に見てください”と手書きで書かれていた。


 奈菜はカメラを鏡の前に置き、本を読み始めた。一冊目と同じく日記のような本だった。


 早速読み始めた。


 20××年 5月7日 久々の日記だ。今日は初めて家政婦を雇った。とても優しく、温厚な女性だ。とても優しく、こんな私にも接してくれる。なんていい人なんだ。まるで妻に似ている。けれど、執事はなぜだかそんな家政婦に馴れ馴れしく引っ付いている。訳が分からずにいた。きっと昔の話しでもしていたんだろう。例えバレたとしても、反論などはせず、しっかりと正直に話せば良い。それがいい行いだ。

 

 奈菜はこの主人公は反省をしたんだなと思い、左の文字を見た。


 20××年 5月24日 雇っていた家政婦が亡くなった。なんでかと、その会社に言うと、心臓麻痺で死んだらしい。けれどその子は何も病気などは持っていないことを知るとすぐに執事に家政婦に何かしたかと言うと、そいつはあっさりと認めた。なぜかと問い詰めると、あの人の商売のためにやっているのだという。これが悪魔の行動課と心の中で思った。


(うわー、主人公とともに悪魔の悪い奴らだなぁ)


 奈菜はそう思っていると、鐘の鳴る音が響いた。時計を見ると八時を指していた。


(あっ、こんな時間か)


 すると、ベットの下からトンッと言う音が聞こえた。


 なんだろうとと思いながらも、警戒をし、タンスの中に入っているハンガーを掴んでゆっくりとベットの下に入れた。


 左右に揺らすと、固いものがハンガーに触れた。奈菜はベットのシーツをめくると、そこには小さな箱が一つあった。


(箱? こんなのベットの下にあったけ?)


 奈菜はそう思いながら箱を取り、ベットに座って何が入っているかを確認をした。


 中には一つだけ入っている鍵だった。箱の中には3階の五つ目の部屋の天井の鍵と書かれていた。


(えっ。まさか五つ目の部屋に隠し天井があるのかしら?)


 奈菜はそう思い、明日でもこっそり3階に行って五つ目の部屋の天井を確認をしようと考えた。鍵を箱の中に入れ、鏡の前に置いてから再びベットの上に乗った。


 奈菜は一瞬だけ自分の姿だけは移さないで音だけを取ろうかと思ったが、音の正体も知りたいと感じ、椅子を動かして全体を移せるように設置し、カメラを起動させた。


 少し早いが、明日もあるため歯磨きをし、ベットに潜り込むと電気を消し、目を閉じた。

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