#2
所々、読めない文字はあったものの、誰かへの恨み言が書いてあるようだ。
『せんせいは大うそつき。いじめた人ばかりを守って、うそばかりをつかせる。なんでぼくがこんなに苦しまないといけないの。ぼくはなんのために生きてるの。●●なんか死んじゃえ。先生なんて大きらい―――』
「…いじめだよな」
「そうだな」
文面から推測するとこの家に住んでいた男の子は、学校でいじめられていたようだ。だが、屋根裏に隠しておいていく意味が分からない。
「これ、どうする?」
「篤が屋根裏から持ってきたんだから、元に戻しとけよ」
渋々、屋根裏に戻そうとした時に、家の呼び鈴が鳴り響く。
「うわっ!びっくりした…」
「出て来るから戻しておけよ」
篤を置いて玄関に向かう千春。
玄関に向かうと、すりガラスの向こうに人影が見える。
「どちら様ですか?」
「隣に住んでいる青山という者です」
千春は昼間に挨拶に行った時に、留守だった家の表札が『青山』だった事を思い出し、玄関のカギを開けて扉を開く。
そこには三十代後半の優しい雰囲気の男性が立っていた。
青山は留守にしていた詫びと、千春が玄関の扉に掛けていった土産の礼をしに来たのだそうだ。
「わざわざ来て頂いてありがとうございます」
「こちらこそこれから宜しくね。ところでさ…言い方悪いかもしれないけど、よくこんな家に住む気になったね」
青山は心配そうな顔をしながら声を潜めて話す。
「え?何かあったんですか?」
「知らないの!?ごめん…今のは忘れてくれるかな?」
「あ…」
千春が止める間もなく、青山は慌ただしく帰っていってしまった。
千春も段ボールの中身を見て、薄々は勘づいていた。
だが、先程の青山の様子を見て疑惑が確信に変わる。
『この家で何かがあったのだと――』
和室に戻ると千春も丁度、屋根裏の板を付け終わる所だった。
「こっちは完了しましたよっと。それで誰だったんだ?」
「昼に留守だった隣の青山さんだった。それでさ――」
千春は先程の来訪者の事を篤に話した。
◇
「屋根裏にあった段ボールの中身と隣人の怪しげな発言――まさか事故物件だったりして!」
篤はおちゃらけた様子で話す。
「そんなはずないだろ。事故物件だったら告知義務はあるし、仮に告知義務の期間が終わったとしても、聞かれれば教えないといけない決まりだぞ?」
口ではこう言うものの、千春は先程の青山の態度が妙に引っ掛かっていた。事故物件でないにしろ、何かがあるのではと――。
「でもさ、事故物件になってから一回でも入居すれば、告知義務が無くなるから告知する必要が無かったとかじゃない?」
「はあ?お前、そんな都市伝説みたいな事を真に受けてんのか?」
「そうなの!?知らんかった」
篤が言った事には誤りがある。
原則として、賃貸の場合は三年間。売買の場合は無期限で告知義務があるのだ。そして、期間が終わった後も聞かれたら答えなければいけないのだ。
「仮に事故物件だとしても、何も起こらなければ問題ないけど…隣人の態度が気になるな」
「それな。この物件を紹介してくれた人に、もう一回聞いてみるか?」
篤はそう言い、スマホから電話をかけはじめた。
「あ、どうも。篤ですけど、聞きたい事があるんです――」
これまでの経緯を話す。
◇
「ふう。聞いたけど、なんというか…」
「なんだよ」
篤が連絡したのは、この物件を管理している不動産屋で働いているスタッフ。その人の話によると、この貸家は絶対に事故物件ではないという。
だが、この貸家で前の住人が死んでいるという。ただ、『自然死』という事なので、告知義務はないとの事。
「前の住人?」
「個人情報だから詳しくは教えられないって言われたけど、なんとなくだけどあの写真の男の子じゃないかって思っちゃうよな。それと――」
この貸家で亡くなったのは、以前に住んでいた住人だけなのだが、それ以前にも入居してからすぐに退去する人や、夜逃げをして行方が分からなくなった人もいたという事だった。だが、いずれにしても事件性は無い為、告知義務がない事から告知してなかったという。
「聞かなきゃよかったわ…」
「あはは…まあ、事故物件じゃないのは本当なんだから良かったじゃん」
「良いわけあるか。すぐ退去するって事は何かしらの理由があるはずだろ?」
頭を抱えてしまう千春。
それもそうだろう。事故物件ではないとはいえ、思いっきりグレーゾーンの物件に住んでしまったのだから。
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