そして始まる、私たちの物語! 6話(完)


「レオンハルトさま」

「はい、なんでしょうか」

「――私たち、一歩ずつ夫婦になっていきましょう?」


 だってこれが――きっと、私たちの『初恋』だから。


 その恋心を、大切にしたい。そう思って言葉を紡ぐと、レオンハルトさまは目を見開いて、それから柔らかく微笑んだ。


「そうですね。一歩ずつ、一緒に歩いていきましょう」


 ――ああ、やっぱり私、好きなんだわ。レオンハルトさまのことが。


 教会から出て、再びフォルクヴァルツに向かうために馬車に乗り込む。


 レオンハルトさまと視線が合って、互いににこりと微笑んだ。

 きっと、大丈夫。レオンハルトさまと一緒なら、私は私の物語を歩んでいける気がするわ。


 ううん、私だけの物語じゃない。レオンハルトさまも一緒の物語。


 フォルクヴァルツについて――いいえ、きっとつく前から始まっているんだわ。


 私たちの物語が、きっともう、始まっている。


「――レオンハルトさま」

「はい、エリカ嬢」

「あなたと出逢えて、恋を知りました。――私を選んでくださって、ありがとうございます」


 胸元に手を置いて、レオンハルトさまに伝えたいことを口にすると、彼は一瞬目をまたたかせてから、言葉を発した。


「オレのほうこそ、ありがとうございます。人を好きになることが、こんなにも幸せを感じることが出来ると教えてくれたのは、エリカ嬢です」


 そう言ってはにかむ姿も可愛く見えて、恋は盲目とはこういうことなのかしら……? なんて考えた。


 これから先、どんなことがあってもレオンハルトさまを愛し続ける自信がある。


 新しい生活については、不安よりも期待のほうが勝っていた。だからこそ、胸の中に溢れる想いをレオンハルトさまに伝えておこう。


 隣に座っているレオンハルトさまの服をクイッと引っ張ると、彼が「どうしました?」と首を傾げる。


 私はそっと顔を近付けて、彼の唇に自分の唇を押し当てた。私からの、最初のキス。レオンハルトさまは驚いたように身体を硬直させたけれど、すぐに私のことを抱きしめてくれた。


 想い合って、触れ合って、好きという気持ちがどんどんと積み重なっていく。


「――愛しています、レオンハルトさま」

「あなたを愛しています、エリカ嬢」


 唇を離してレオンハルトさまを真っ直ぐに見つめて、溢れそうな想いを伝えると、レオンハルトさまも伝えてくれた。


 私、本当に幸せだわ。レオンハルトさまも同じくらい……ううん、それ以上幸せになってもらいたい。そう思いながら、もう一度唇を重ねた。触れた体温から溶けてしまいそうな感覚に、ぎゅっと彼の服を握った。


 すると、レオンハルトさまが角度を変えて何度もキスをした。息苦しさを感じて、掴んでいた服を離して、彼の背中を叩くと……ハッと我に返ったレオンハルトさまに「すみません」と謝罪された。


「レオンハルトさま、どうか謝らないでください」


 レオンハルトさまの頬を包み込むように手を添えると、レオンハルトさまは驚いたように目をみはった。そして、口を開こうとして、閉じる。また、『すみません』という言葉が出かかったのだろう。


「……ありがとうございます」


 少し悩んでから、レオンハルトさまが言葉を選ぶようにゆっくりとそう口にした。


「エリカ嬢はお優しいですね」

「わ、私が?」


 目をパチパチと数回瞬かせ、思わずレオンハルトさまを凝視してしまった。ふふ、と笑うレオンハルトさまに首を傾げると、抱きしめていた手を緩めて、私の頭に手を置く。


「ええ。とても優しいので、甘えたくなってしまいます。オレのほうが年上なのにね」


 なんて悪戯っぽく笑うレオンハルトさまに、きゅん! とした。可愛くて、格好良くて、これ以上好きにさせてどうするつもり!? と胸の高鳴りが止まらない。鼓動が早鐘を打つのを感じながら、レオンハルトさまをずっと見つめていた。


 愛しそうに私を見るレオンハルトさまに負けないくらいの愛を伝えるために、今度は私から抱きついた。


「嬉しいですわ、レオンハルトさまに甘えていただけるなんて。……私もレオンハルトさまに甘えて、よろしいでしょうか?」

「もちろんですよ、なんでも頼ってください」

「ふふっ、頼もしいですわね」


 そう遠くない未来に、私たちは肩を並べているだろう。そのときにはどんな気持ちになっているのかな?


「……フォルクヴァルツで、どんな風に暮らしたいという希望はありますか?」


 レオンハルトさまが急にそんなことを聞いてきたので、身体を離して「そうですね……」と考える。私たちが幸せで、フォルクヴァルツの領民たちが幸せに暮らすためには、なにが出来るだろうか。


「――みんなが幸せに暮らせるような、領地にしたいですね」

「……自分が、ではなくて?」

「あら、レオンハルトさまの傍にいられることが、私の幸せですわ。ですから、みなさんにもお裾分けをしないと」


 くすくすと笑いながらそう言うと、レオンハルトさまはキョトンとした表情を浮かべて、それから「ふはっ」と笑い出した。肩を震わせて笑っているので、なにか変なことを言ってしまったかしら? と小首を傾げる。


「いや、素敵な考えだな、と思いまして。……そうですね、オレたちの幸せと、領民たちの幸せのために、がんばりましょうか」

「はい。レオンハルトさまとなら、なんでも出来る気がしますわ」


 ダニエル殿下の婚約者になったあとに学んだことを、好きな人のために使うことになるとは思わなかったけれど、学んだことは活かしていかないとね!


 だってこれからも、レオンハルトさまと一緒にいたいもの。そのために、出来ることはがんばるわ。


 これから始まる私たちの物語は、絶対にこれ以上の幸せが待っていると感じているの。


 愛する人と一緒に、フォルクヴァルツを支えていくわ!


 そう心に決めて、もう一度、レオンハルトさまと唇を重ねた。





―Fin―

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婚約破棄×お見合い=一目惚れ!? 秋月一花 @akiduki1001

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