第3話 早期退職案に、非難轟轟
このテーブルにいる4人はそれぞれ、紅茶に砂糖を継ぎ足してかき混ぜ、まずは一服する。
なぜか今回は4人とも、ダージリンティー。
インド亜大陸北部の土の香り漂う、上品な味と香り。
紅茶の王様、ここにあり。
・・・ ・・・ ・・・・・・
「それはよかったです。山上先生としては、園長の大槻君に仕事を奪われたような形になったように思われましたから、どうされているのかと心配でしたが、お元気なうえに新たな生きがいを持っておられるとお聞きして、安心しました」
安堵の気持ちを伝える大宮氏に、山上元保母は答えた。
確かに私は、大槻園長の思われるところからはずれた立ち位置にいました。
特に、東先生が園長を退任される2年ほど前から、それは強く感じていました。
大槻君は、津島町から丘の上に移転するにあたって、私に早期退職を提示しようとしていたようですが、まだ園長をされていた東先生や他の理事から強く止められて、それは私には大槻君経由で話は来ていなかったのですが、後に、東先生からその話を聞かされました。
正直、私自身もあの当時のよつ葉園においてはもはやお荷物になっていやしないかと、そんな思いもありましてね、もし提案されたら、そのときはそのとき、割増の退職金を戴いて、自ら身を引いてもよかったかなと、今は思っていますし、当時その話を聞いたときは、どうせなら言って来ればいいのにとさえ思いました。
しかしね、大槻君の提案は、理事会で直ちに否決されたそうです。
というより、理事会に正式に提案される前に、止められたようですね。
それが証拠に、この案件は理事会の議事録にも残されていません。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
何も、山上先生を無理に辞めさせることはないだろうに。
よつ葉園最大の功労者を、そんな形で追い出すのはいかがなものか。
大槻君は年齢差からくる子どもや若い職員らとのギャップを云々してそのような案を立てておるようだが、年代差からくるギャップを体験することも、子どもらや若い職員らの糧となるのではないか。何より、彼女を無理に辞めさせるなら、将来にわたって禍根を残しやしないか。
そのような早期退職を認めてしまえば、施設長や幹部職員の意に沿わない職員を追い出した「実績」と「前例」を作ってしまうことになる。
これが今の国鉄のような余剰人員が云々という大きな職場ならまだしも、よつ葉園は職員だけでもせいぜい20人かそこらの所帯で、言うなら中小企業並の規模の職場であるから、もっと助け合ってやっていける余地はあるはずだ。
山上先生を活かせる場所は、この地にはまだあるのではないか。それをうまく見つけて彼女を活かすことが、次期園長の大槻君の仕事ではないのか。
いろいろ、あったそうです。
こんな調子で、理事会で提案する前に、大槻君のところには各理事から反対の意見が続々寄せられたとお聞きしております。
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老保母は、1杯目のストレートティーをさらに身体へと流し込んだ。
娘夫婦と大宮氏も、それに続く。
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