第17話




「雅也さん、ごめんなさい。無理させちゃいましたか?」


 瑞樹の家に到着すると、明らかに焦って来たことが瑞樹にも伝わってしまったようで、余計な心配をさせてしまった。



「いや、大丈夫だ。」


「来てもらってありがとうございます。すぐ済みますからね。」


 すぐ済むって、まさかとは思うが別れ話じゃないよな。自分の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。









「ふふふ。ジャジャーン!入賞おめでとうございます!」


「・・・え」


 大きな包みを持ってきて、嬉しそうに渡す瑞樹に俺はただただ戸惑うしかなかった。


「少し前に、県の野菜品評会で雅也さんのミニトマトが入賞したって悦子さんから聞きましたよ!なのでお祝いです!」



 瑞樹に促され、包みを開けると作業着が入っていた。以前、瑞樹に何となく話した気になっている作業着。少し高価だから、何となく手を出せないでいたものだ。


「次の手芸教室で渡せば良かったんですけどね。買っちゃったら早く渡したくなっちゃいました。これ絶対雅也さんに似合いますね!」



 照れたように笑う瑞樹を、気が付いたら抱き締めていた。瑞樹は俺の腕の中で赤くなっていたけれど、しばらく離すことができなかった。





◇◇◇




「そんな噂になっていたんですね。心配させてしまってごめんなさい。先に雅也さんへ話すべきでした。」


 瑞樹が会っていた若いイケメンは、前の職場の後輩らしい。今月は少し稼ぎたいからと、在宅で少し仕事を回してもらっており、その打ち合わせで何度か会っていたということだ。



「いや、俺こそ・・・これを買うために無理させたんじゃないのか?」



 瑞樹は前の職場時代の貯金はあるようだが、極力使わずに生活したい、と前に話していた。俺へのプレゼントというイレギュラーな出費の為に仕事を増やしているのなら、心配だった。



「勿論雅也さんのお祝いをしたいのもありました。だけど、他にも入り用で・・・今年は車検とアパートの更新があるんです。あ、無理しない範囲で仕事は受けてます!」



 仕事の受け始めはスケジュール管理が難しく手芸教室を休んでしまったが、今は感覚を取り戻しスケジュール管理も出来るようになった、来週からは手芸教室も行けますからね、と得意そうに話している。





「瑞樹・・・アパートの更新はいつ?」


「えっと、確か三ヶ月後だったような・・・。」


 不思議そうにしている瑞樹へ、俺は前々から考えていたことを伝える。






「瑞樹、俺は将来、瑞樹と結婚したいと思っている。だから、瑞樹が良ければ、アパートは更新しないで家に住まないか。」


「へ・・・?」


 このぽかんとした顔すらも可愛くて、誰にも見せたくないんだ。


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