第29話 生命(アニマ)の観測実験【ルミナ視点】

 ニコの言う『運』っていうのは、実力に寄っている。

 ニコが、できる全てを費やして、その上で、最後に祈るという『運』だ。運任せで何もしないってことじゃない。


「お主は……そうか。ベルニコに拾われた獣人族アニマレイスだな。インジェンにとってお主の存在が唯一の誤算だった訳だ。公国リヒトの法律と風俗的に、ベルニコが獣人族アニマレイスと出会う可能性を考えるなど現実的ではない」

「……わたしはルミナス・イストリア……だと思ってたけど、違うみたい」


 わたしは違う。そもそもできる行動の選択肢なんて殆ど無かった。運任せの割合が大きい。

 ニコは、行動の伴うプレイヤーで。

 わたしはただの運否天賦のギャンブラーだ。


「ああ。ルミナス・イストリアと名乗ったから興味を持ったベルニコに拾われたのか。そうだな。お主に名は無い。我々が把握しておらぬ『再構築』が貧民街に居たとは。現イストリアのわっぱらも抜けておるの。……どうやって『再構築』に気付いた? 何か事故があったのか。」

「!」


 そして。

 ずっと

 通行証の時も。ニコに見付けてもらったことも。

 今ここに立っているのも。

 ずっと、運がわたしの味方をしてくれている。


「……『泥濘でいねいのイストリア』に獣人族アニマレイス光泥リームス耐性が書かれてた。そこからは仮説と検証だよ。主に、ニコの発想で。……今、ニコが溶けなかったのは知らなかったけど」

「そうか。……『再構築体の光泥リームス耐性』は我々も、何度も実験したことだ。獣人族アニマレイスだから、耐性があるのではない。『泥男スワンプマン』なら何度も再構築した」

「スワンプマン?」

「体細胞全て、同一の。昔に付いた傷まで再現した『外見と成分だけ同一人物』だな。心臓は動いていたが、呼吸はしていなかった。再構築後数分で死んだ。恐らく呼吸は、やろうと思えばできた筈だが、。『生きる』というのだ。つまり主体の無い、『同一の別物』。肉体だけ人間でありながら、生物としての根幹生存本能が無い。旧文明の古典哲学にならい、『泥から出来た男スワンプマン』と名付けられた。実際のスワンプマンとは少し違うようだがな。……我々の生み出したスワンプマンは全て、泥――光泥リームスに沈めると再び溶けて同化した」

「…………じゃあニコは」

「完璧な『人間の再構築』には、条件がある。たったひとつ。が、光泥リームス耐性を得る条件でもある。つまりスワンプマンと人間の、たったひとつの

「…………それは?」

「『生命アニマ』だ。スワンプマンを再構築した際、その本人は死後時間が経っていて生命アニマがそこに無かったと思われる。また奴隷を使った死後すぐに行われた再構築実験では、奴隷が絶望しており『生き返りたくない』為に、生命アニマが流れていったと思われる」

「……!」

「安心しろ。そのベルニコは『本物』だ。お主達の間で信頼関係があったのだろう。きちんと、生命アニマがあるから、今そこに立っているのだ。……我々の仮説は合っていたということだな」


 知らなかった。いや、知り得なかった。インジェンがあんなに驚いてたんだ。きっと。

 ニコが初めての『成功例』、なんじゃないだろうか。


「……じゃあ、わたしやインジェンの生命アニマは……? ニコのお母様じゃないんでしょ」

「お主やインジェンの身体を造ったのは再構築ではない。別のやり方だ。ルミナスの生命アニマの確保か再現を目指したのだが……お主達も知っての通り、失敗したのだ。お主達の生命アニマはお主達がその姿になる前の『人間時代』の生命アニマだな。インジェンは一部ルミナスの記憶を継いでおり少し中途半端に特殊だが、お主は十中八九そうだろう」

「…………わたしの、人間、時代」


 やっぱり。獣人族アニマレイスは、元は人間なんだ。改造人間。で、失敗作だって言って、勝手に捨てるんだ。


「……で、何だ? 何か言いたかったのだろう」


 賭け事が好きな訳じゃない。それしか選択肢が無かったんだ。

 この人達に、捨てられたせいで。

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