タイムアゲイン。

あきとん

第1話 ああ、戻れるなら戻りたい。あの頃に

時よもう一度。


もし、あの頃に戻れるなら

もう一度チャンスを下さい。


僕の名前は、鈴木稔。

社会人3年目の25歳。独身男。



通い慣れた道を通り、駅の改札をくぐり満員電車に揺られる。

降りても災難は続く、押し寄せる人混み揉まれながら、その中を掻き分けて進む。

会社に出社する頃にはもう既に疲れ切っている。


最悪のスタート。


これが僕の繰り返される日常。


上司にどやされながら

淡々とPCに向かい事務的に仕事をする。

決められた時間に休憩をとり

会社から近い雑居ビルの間にある、裏通り。

人が少ないという理由で老夫婦が営む、この寂れた食堂でいつも昼食をとる。

安いだけが取り柄の味の薄いラーメンを食べる。

腹が満たされたら、すぐ会社に戻り午後から仕事を始め、夜遅くまで残業をして帰る。

同僚や先輩は、僕に仕事を押し付けて呑みに出かける。

そのおかげで僕はやりたくもないサービス残業をするはめになる。


断れない僕が悪いのだ。 


何とか仕事を片付け、退勤する。

気がつけば終電間近の時間。

僕以外は誰も残っていない。

職場の電気を消し、警備員に挨拶をして会社を出る。


駅について、自販機でコーヒーを買う。

ホームのベンチに腰を降ろし、缶コーヒーを飲み干す。快速電車が通過したあとの後に各駅電車がやってくる。

少し長い退屈な時間。

僕は、静かにため息をこぼして近くのゴミ箱に缶を投げ捨てる。


この時間は人はまばらだ。


目の前には一組のカップル。

黄色い線の外側ギリギリで仲良さげに手を握り合って談笑している。


疲れた目に突き刺さる眩しい電車のライトに僕は目を細める。


だんだんと近づく電車。


トンッと何かがぶつかる音。


目の前にいた彼女が体勢を崩し前へ倒れ込む。必死に手を伸ばす彼氏。


急ブレーキで止まろうとする電車。

勢いは止まらず、グシャリと鈍い音を立てて電車は僕の目の前を通過して止まる。


目の前で立ち尽くす彼氏。


人身事故だ。周りが騒がしくなる。

 

先程まで幸せそうに笑っていた彼女。

その面影に見覚えがあった。

忘れていた―――。何故?


僕は思い出した。


そう、彼女は僕の初恋相手だ。


彼女はどうあっても僕の目の前で死ぬ運命なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムアゲイン。 あきとん @akiton_4444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ