宇宙人、子供と会う

壊れはじめた私の元に妻が面会に来て、子供たちからの手紙を持ってきた。


子供達は私がどういう経緯で入院しているのかも知らない。

どんな理由であれ、体調を崩していることには変わりがないので心配をする内容だった。

こういうものに壊れかけた私が再生していく。

早く退院がしたい。でも、怖い。

そういった複雑な感情が波のように揺れていた。



私の子供は

長男

次男

長女

の3人だ。

下の長女は実子であるが、上の2人は妻の連れ子だ。

私は運が良く2人の息子にも恵まれているのだ。


通常連れ子との関係は複雑な家庭も多いと思うが、私たちの関係性はとても自然だ。


初めて出会った年の6月にまだ幼かった長男がケーキを用意してくれた。

迎えに行った先の駐車場でそれを渡されて私は困惑したが、長男はパパになってくれた記念にと言ってくれた。

私はとても嬉しかったのを覚えている。


実際に妻と結婚したのは後になるのだが、それ以前から私のことを父親として接してくれていた。


死のうと思って首を吊る支度をしている時に思い出したのは長男と初めて会った日のことだった。

もちろん家族全員の事を思わなかったわけではない。印象的だったのがそれだった。


私は何か問題が起きるとすぐに逃げ出してしまう。

何度も子供達の前から逃げたこともある。

今回もそうだ。

死んで逃げようとしていたところもある。


そんな父親になりきれてない私へ

しっかりとした手紙を書いてくれるなんて申し訳なくて仕方がなかった。


病院での生活も慣れてきて

私はようやく保護の対象から外れた。

ある程度の自由を許されたのだった。


しかし、薬の量が減ることがなく変わったり増えたりを繰り返した。


その結果、夜中は眠れず朝ご飯を食べた後、少し眠り、日中はぼんやりすることが多くなり、口が閉じなくなっていた。意識をすれば口をとじることはできたが、油断するとあいていた。



入院してすぐに見かけた患者のようになりつつあったのだ。

喉は乾き、人目も気にせず水道の水を飲み続けた。


精神的にバランスを崩した人間は想像以上に脆い。


私はそれを実感していた。

何人かの患者と話す機会も増え、いろいろな境遇を知ることもできた。


「お互いに大変ですね。」


と、口では言うものの心の中では、「お前たちと俺は違うんだよ」と見下し続けていた。


今思えば、

はたから見たら皆同じようなものだったのだろう。

なんとも滑稽な状態であったのは間違いない。


私は

入院する前から、いや

妻と出会う前から、いや

子供の頃から

常に何かに不満を持ち、理由がなくてもイライラしていた。


朝起きて呼吸をした時の音が気に入らなくてイライラしていたり、

妻の言動にイライラしていたり、

そして自分では気づかないうちにイライラしていた。


その都度

妻に指摘をされてキレていた。


今回この自殺未遂に繋がったのも私の逆ギレがキッカケだった。


入院生活の中で誰にも会いたくないと何度も担当医に話しをした。半分は本気で半分は逃げだった。


キレてしまう自分を大切な人たちに見られたり、失望させてしまうのが、怖かった。


結局逃げてきた人間なのだ。


子供達に会いたい。そう思いながら私は逃げ続けた。

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自殺する宇宙人 河童敬抱 @ke222ta22

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