第18話 “悲劇”の始まり
「今日は君にちょっとしたサプライズがある。ついてこい。」
ここ数日間、毎朝俺の元に小動物を連れてきた男。今日は手ぶらだった。サプライズ?何をするつもりなんだ…
「この入口で待機していてくれ。準備ができたら言うから入ってこい。」
「…わかった。」
この男が何を企んでいるかはわからないが、数日間ずっと出来ないフリをしていたのはバレていると思ったほうが良いかもしれない。
「入れ。」
体育館から男の声が聞こえたため、ドアを開ける。体育館には…
「おい…嘘だろ…」
数十人の子どもが無数の機械人間に囲まれていた。あの顔…そして小学生っぽい子が多く、数人中学生らしき人もいる…まさか…
「お前ら…カオス組のメンバー…か?」
「……永遠?」
俺を呼ぶその声は間違いなくクチナシの声だ。とある歌オプでふざけてカオス組を作った中学生の少女。ってことはここに集められたのはやはりメンバー…。
「私達くらいならパスワードのついたスマホから情報を抜き取るのも、個人情報を流出してない人間の住所特定も簡単なんだよ。毎日のように出来ないふりを続ける君への良いサプライズだろ?大人を舐めるとこうなるんだよ。君は出来ないふりが上手く通用していると思っただろう?バレバレだよ。これだからガキは嫌いなんだよ。なんでお前みたいな奴に能力が使えるようになったんだか…もうその能力を研究することさえ放棄して私は能力を手に入れようとしたのに…もうこの子たちを殺さないと君はその気にならないだろうね。」
男がもったいぶった言い方で話している間に、脳内会話で俺は仲間に状況を伝えた。
【数日前から俺はここに捕らえられている。俺が持つ超能力が原因だ。こうして脳内で話しているんだから証明する必要はないだろ?この能力を欲しがってるあいつに他人に渡す方法見つけろって言われて、出来ないふりをしてたらこうなった。すまんが、謝罪は後だ。今からお前ら全員に俺の能力を使わせる。いきなりで悪いが戦ってくれ。】
俺が脳内会話を始めた瞬間、皆が目を見開いたが俺の口が動いていないことに気づくと一瞬で目つきが変わった。この目は…覚悟をした目だ。俺より年下の子もいるのに…こんなに大人なんだな。こんな状況なら泣き叫ぶような年なのに…
「何を黙っている?こいつらを殺しても良いのか?嫌ならさっさと能力を…」
「渡したら用無しの俺らは殺される。それなら抗うに…決まってんだろ!お前ら、能力は頭にしたい事を思い浮かべろ!そうすれば使える!」
そう叫んで俺はメンバーを囲む機械人間を一瞬で氷漬けにする。男が言葉を発する前に全力で炎を飛ばす。
「科学を…舐めるな。」
「なっ…」
だがその炎は透明な壁に弾かれた。科学技術か…これはまずい。
【永遠、私はここから出口までの道覚えてる!でもこの人数は多すぎるから複数に別れて脱出を!】
【っクチナシ!こいつらは能力がなくても科学技術で対抗してくる!死んだら殺すからな!】
【わかってる!】
能力を与えた直後に脳内会話を使うなんて…。いや、今はそんな事を考える時間はない。こいつを…どうにかしなければ。
「仲間を逃がす選択肢を選んだか。だが私の仲間もあの子達を追っているし君の言う機械人間も何百といるんだよ?こんなところでグズグズしてて良いのかい?」
「さっさとお前を殺してあっちに行く。それだけだ。」
「かかってこい。捻り潰してやるよ、ガキ。」
男の口調が段々おかしくなってきている。どうせ元はこれなんだろう。あいつらを巻き込んで、挙句の果てには能力だけ渡して逃げろ。なんて身勝手なんだ俺は。いや…コイツのせいだ。この男のせいなんだ。早くコイツを殺す。殺して殺して殺して殺して殺す。
こうして彼らの言う”悲劇”は始まった。この事件に名前を付けたのは永遠である。彼は自分が攫われたことはどうでもいい、俺が巻き込んでしまった、そしてああなってしまったのが悲劇なんだ。この事件に名称なんて付けたくない。だから悲劇としか言わない。と後に語った。
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