第10話 真実の1歩手前

「るばあ?」

「…僕寝てた…?あれ、とわにぃ…どうしたの?」

「どうしたもこうしたもあるか!!勝手に居なくなって心配してきてみたら気失って倒れてるし!心配するに決まってるだろうが!!」


 俺のいきなりの怒声に全員が硬直する。だがそれ程心配だったのだ。


「ごめん…なさい。」

「あぁ…俺も声荒げてごめんな。でも心配だったんだ。」

「うん…ちゃんと説明する。さっきの授業から能力の調子が悪くて、部屋に戻ったのは良いんだけど、考え事してたら急にすごい頭痛がして、気づいたら倒れてたみたい。」

「もう大丈夫なの?」

「りめあ…うん。心配かけてごめん。」


 とりあえずの事情は把握できた。るばあの復帰が早かったのはものすごく嬉しいのだが、それだけすぐに皆に過去を話さなければいけなくなった。覚悟どうこうじゃない。ありのままを話せば良い。だから、ちゃんと話…


「ぐっ…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「とわにぃ!!」

「永遠!!」


 痛いという言葉では足りないほどの頭痛に襲われ叫んだところで俺の記憶は途切れた。



***


「わからねぇ…」


 クチナシは今まで生きてきた中で一番、と言っても過言ではないほどに考えていた。


《問1.マイトトキシンの化学式を答えなさい》


聞いたこともない言葉。頑張ってこの問題以外を解き、そして戻ってきた。だがわからぬと思考放棄をすればみぃあのチョップだ。しかもみぃあは席から動かず、宙をチョップするだけで全員のうなじにヒットさせてくる。中々に嫌なことをするもんだ。


 この問題を用意した永遠は後で死刑だな…とか思っていたら。


『緊急事態。るばあは体調良くなったんだけど、とわにぃが倒れた。今すぐ全員とわにぃの部屋の前まで来て。』


 腕時計のグループチャットにりめあからとんでもない報告が。クチナシは一瞬で思考を切り替える。


「皆、落ち着いて聞いて。永遠が倒れたって。今から永遠の部屋に行く。」


 その言葉に全員が目を見開く。あの永遠が倒れた…だがクチナシは冷静に指示を出し、るばあの部屋に全員で向かい始めた。


***


「とわにぃ…こんな軽かったんだ…」


 りめあとりぃなで永遠を部屋のベッドまで運び、るばあはもう動けると言って永遠の部屋のドアを開けるなどの手伝いをしてくれた。

そして永遠がベッドに運ばれた直後、皆が到着した。


「りめあ!永遠は…」

「とりあえずベッドには運んだ。けど苦しそうにもしてなくて…眠ってるみたいな感じなの。気絶する直前はすごく苦しそうに叫んでたのに…」


 だが、誰にも永遠が倒れた原因に心当たりがない。りめあを除いては。


「皆に話さなきゃいけないことがあるの。とわにぃが話してくれるって言ってたけど、

私が知ってることだけ先に話すね。」


 そう言ってりめあは自身が聞いてしまった会話について話し始めた。


***


 ここは…?俺はさっきまでるばあの部屋に居たはず…。真っ暗だ…


「ようやく、皆に話すことにしたんだな。」

「なんで俺がいるんだよ。」


 暗闇の中から現れたのは…俺だった。だがこれくらいじゃもう驚かない。何故かって?それは…なんでだ?思い出せない…


「お前が疑問に思ってることを俺は全て知っている。お前は現実を受け入れる覚悟をしろ。辛い現実を。」


いきなり“俺”は俺に向かってそう言った。今は話を聞くべきだろう。俺の思い出せないことをこの”俺”は知っている気がする。直感的にそう思うのだ。


「覚悟はしてる。」

「ああ。じゃあ、すべての記憶をお前に戻す。お前の覚悟が足りなければきっと精神が壊れるだろう。」

「死ぬのだって覚悟してた人生だ。そんなもんじゃ壊れねぇよ。」

「それでこそ俺だ。…じゃあな。」


 その一言とともに俺の意識は暗転した。


***


 一方、現実ではりめあが皆に説明を終えたところだった。


「ってことは、私達の知らない、忘れた記憶を永遠は教えてくれるってこと?」

「うん。だけどなぜか永遠が倒れた。だから今は待とう。」


 クチナシは確認を取り、他の皆も状況を理解した。後は永遠が目覚めるのを待つだけだ。


その時。


「ここであってるかな?」


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