第20話

「それでお姉さんは支援職ですか?」

「そうね。運よく特殊職につけたんだけど、あいつらに目をつけられてしまって。」


 支援職か。職に就きたてだと身体強化もあんまり期待できないかな。まぁ流石に僕の吸収術があればなんとか2人でボス部屋に入っても攻略することができると思うし大丈夫かな。


 お姉さんを守りながら戻るよりもボスを倒した後にある魔法陣を使った方が帰るの早そうだしね。そんなことを考えていると正面にあったボス部屋の扉が開いていく。


「お姉さん、ひとまず一緒にボス部屋入りましょうか。」

「へ?えっと?」


「大丈夫です。一応僕に従ってくれれば大丈夫なはずなので。」


 どこからそんな自信が湧いてくるのかと聞かれれば、多分だけど以前に正義の白虎が軽く殴った時くらいの衝撃が異空間収納に溜まっているから5階層のフロアボスくらいは倒せると思う。


 それだけの衝撃を放出したらジャンプの後の吸収術の発動タイミングもシビアになるだろうけどね...。


「それなら信じるわ。」


 このお姉さん、こんなにすぐに信じてくれるなんて大丈夫だろうか。さっきのあの人達の後にこんなにすぐに信頼するなんて...。


 見た目は厳しそうな女性なのに、なんとなくこのお姉さんから騙されやすい残念な印象を受ける。


 僕らがボス部屋に入ると扉が閉まった。


「そういえば君はソロでここまで来ているんだしすごく強い攻撃職とか?」


入った直後にふとお姉さんが聞いてきた。


「いえ、僕もお姉さんと同じ支援職ですよ。」


「そ、それじゃあ私たちだけでボスを倒せないじゃない!!」


 お姉さんは顔を青くして不安そうな表情を浮かべ始める。

 さすがにボスと戦う寸前で素直に答えるべきじゃなかったかもしれない。それか攻撃職って言っておくべきだったかな。


 ボス部屋には鉄ゴーレムが鎮座していた。ゴーレムしか出現せず初心者の攻撃が通り辛いことからあまり人気がないこのダンジョンだが、親切な点が一つだけある。


 このダンジョンの5層のフロアボスはボス部屋に入って1メートル以内であればギリギリボスの検知範囲に入らないので攻撃を仕掛けてこないのだ。


 僕はその特性を活かして落ち着かせるようにお姉さんにゆっくりと目を見て語りかける。


「お姉さんは言った通りにしてもらってもいいですか?」


 僕の真剣な様子が伝わったのか、お姉さんは一度深呼吸をして自分を落ち着かせてから答えてきた。


「ふぅ。わかったわ。それしかないし。」


「では、できるだけ壁際ピッタリと張り付いていてください。」


 ある程度の風圧は感じるかもしれないけど、張り付いていれば壁にぶつかることはない。僕には吸収術があるけどお姉さんには衝撃をまともに食らって生きていれる保証がない。


 それにもし僕と同タイミングでジャンプしてもらって僕が吸収術を発動させるとしても、お姉さんが間違って離していなかったら足の骨が折れるどころじゃ済まなくなる。


 やっぱり壁に張り付いていてもらうのが一番かな。


お姉さんは僕の指示に従って入り口の扉に近づくと背中をピタリと貼り付けた。


「そ、それより君は大丈夫なの...?」


「口を閉じておいた方が良いですよっ。」


 僕は鉄のゴーレムに向かって駆け出し急接近する。鉄のゴーレムが腕を振り下ろしてくる。


 僕は吸収術を発動して正面から攻撃を受けるとその場で飛んで異空間収納から大量の衝撃を放出する。


「ガハッ!!」


 方向は指定したと言ってもかなりの衝撃が僕の体を襲った。

 うっ、忘れていた。放出した衝撃が自分にもやってくるんだった。肺が圧縮されて息が...。


「大丈夫?!」


 壁に打ち付けられた僕を心配して彼女が近寄ってくる。幸い自分で放出した衝撃が思ったより大きかっただけで、壁に打ち付けられる前に吸収術を発動したので壁にぶつかった衝撃はなかった。


「ゲホッ。だ、大丈夫です。それよりゴーレムは...」


 僕が視線を動かしてボスの方向をみると、ゴーレムはボロボロで核すらも砕けて動きを停止していた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る