閑話 とある研究者

 彼はダンジョンの出現と共にダンジョンの虜になった。3年間研究を続けてきた。研究は確かに実りセーフゾーンと特定魔力の研究をして論文を出し、自国のアメリカだけでなく海外にも名前を知らることになった。


 ところが、彼は強烈に欲しいものがあった。あくまでも第一発見者、後の世に名前が残るわけではない。


 そう、彼は名誉が欲しかった。それもとびきりの名誉が。しかし、皮肉にも彼が後の世に残すのは違うものになってしまうのだった。


 彼が発見したセーフゾーンとパワースポットに共通する特定魔力は神聖な場所の方が魔力が強かった。そこで、神聖な場で汲まれた水を結界として使えるが、彼の論文には欠点があった。パワースポットから離れると効果が薄くなってしまうのだ。


 彼はこれを解消しようと必死に研究し続けたが、解決することはできなかった。しかし、彼はやっと糸口を掴めたのだ。



AM19:06 アメリカ=ニューヨーク ゼウス神殿

 ゼウス神殿では異様な光景が流れていた。

 本来いるはずの観光客は誰もおらず、そこにいたのは博士と助手の二人だけだった。中央には魔法陣が書かれており助手が観測の準備を行なっていた。特に大掛かりな準備というわけではなかったが、博士は魔法士として熟練の域に達していると言っていいほどの猛者でもあった。


「よし、これで...。」


「博士!ほ、本当にやるんですか?」


「何を言っているのかね。ここまで準備してきて実験をしないというのか。」


 本日行われるのは、神聖な魔力を人体に取り込むことで劣化させずに人間の手で結界を張れるようにする実験だ。


「ですが、観測する限り神聖な魔力は不安定で人間が操れるものではありません!!」


「儂ができないわけないのだ。馬鹿にするアイツらを見返すためにも成功させねばならんのだッ!!」


 彼が怒鳴り散らかすと実験を開始しようとする。彼は自己愛が強かった。名誉のために、見返すために、お金のために。多くの感情が彼の中を蠢き突き動かせた。

 しかし、それが彼を破滅させる引き金だった。


「せ、先生?!何をするおつもりですか?!」


 本来であれば、神聖な魔力が不安定なためモノに魔力を移す実験。次にネズミに移す実験。このように順に神聖な魔力を移すものを変えていく予定だった。

 しかし、博士は動作テストもせずに魔法陣を起動させ、自身に神聖な魔力を移していった。不安定な神聖な魔力は博士の魔力とぶつかり合いした。


 パワースポットの魔力を動かして強欲にも自分に取り込もうとした結果、博士はブラックホールのようなものに巻き込まれ、突如ダンジョンが発生してしまった。


そしてこの日。


——アメリカでは再び地震が起こった。



 このアメリカのダンジョンからはA級探索者ですらもが苦戦するような魔物が多く出現した。5階層以上では普通の探索者では歯が立たないレベルだった。その上、不可解な点が発見された。

 このダンジョンではその地の神話や英雄にまつわる架空だと思われていた生物達が確認されたのだ。


 似たような特徴のダンジョンは実は既に世界的にあと三つ観測されていた。それはフランスのモン・サン・ミシェル、イギリスのグリストンベリー。


——そして、日本だ。


春たちに迫る危険は既に動き始めていた。

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