第7話

 僕が目を覚まして体を起こすと不思議と致命傷だったはずに傷はなく、周りを見渡すと病室にいた。


「あれ?ここは......病院か。致命傷だったのに、どうやってあのアダマンタイトゴーレムから助かったんだろう。それにみんなが戦っているときに僕は...」


 戦闘のことを思い出すと二人が戦っている時に自分だけが何もできずいたことについて後悔が募る。もっと自分に力があれば、もっと早く弱点を見抜いていれば、もっと早くスキルを試していたら。思い返すほど自分が惨めに思えてしまった。


 ふと視線が下がった時に妹が布団の上に頭を乗せて気持ちよさそうな寝顔を浮かべて寝ていることに気づく。


「なんで瑠璃がここにいるんだろう」


 僕が体を起こした拍子に瑠璃を起こしてしまった。起こしてしまったのは申し訳なかったけど、ちょうどよかった。


「瑠璃、なんでここにいるんだい。父さんたちと海外に行っていたんじゃないの?」


 目覚めた瑠璃は僕の顔を見つめるとみるみる涙目になっていく。

 え!? あっ、泣かせちゃった!? ど、どうして!?


「お兄様!そんなことはいいんです! 私、すごく、心配、したんですからね...。」


 瑠璃は本当に心配したと言いながら僕に抱きついた。泣きじゃくる姿は昔を思い出させる。瑠璃の頭を撫でていると段々と落ち着いてきたのか瑠璃はピシッと背筋を伸ばし姿勢をただす。


「お兄様お兄様。お医者さまがしばらく安静にしていなさいと言っていらっしゃいました。それと今回の件でお父様とお母様がしばらくしてから1度帰ってくるそうです。」


 帰ってきたら怒られるのは目に見えているけれど、それでも帰ってきて顔が見れるのは嬉しい。


「あ、そうです!あとお母様から伝言です。『着いていく人は選んだ方がいいわ。』との事です。何やらスキルのことについてらしいのですがご存じですか?」

「着いて行く人は選んだ方がいい? それってどういう意味だろう。僕には心当たりが無いんだけど」


 言葉の通りだとして僕がついていくような人を想像してみるけど、天馬さんも正義も別についていくのに問題はないだろうし。むしろ僕の知り合いの中ではトップクラスに強いからついて行って守ってもらった方がいいんじゃ。

 それとも今回のことで母さんからは頼りなく見えちゃったのかな。


「お兄様の『フォロワー』っていうのは日本語だと従者なので、着いてく人は選べというのはバトラーやメイドのことじゃないでしょうか?」


「そうかな...?本当になんだろう。やっぱり全然わかんないや。」


 僕はもう無理だと投げ捨てるようなノリで呟いて、考えることを諦めた。


「瑠璃の従者にでもなったらいいってことなのかなぁ。」

「な、な、なにを、おっしゃるんですか!や、やめてください!お兄様が従者なんて........いやでも私が...」


(お兄様が従者なら、頭を撫でていただいたり膝枕なんかしていただけたりして!うふふ。だけどお兄様の従者になって命令していただくのも悪くないかもしれないです!いや、従者になりたい!)


 瑠璃は春の言葉に動揺しつつも妄想を広げブツブツと小声で呟いていた。しかし大好きな兄に何か体調の変化があってはいけないと春の一つ一つの動きに注視してあることに気づく。


「お兄様何か体調の変化はございませんか?」


 僕はギクッと肩が跳ねる。流石に家族に隠すことでもないので話すことにした。


「あぁ、よくわかったね。瑠璃がちょうど『私が...』って言った時から少し体が軽い気がするんだ」


 確かに体は軽くなったものの、勘違いだと思う。


「それに頭に『設定』という単語が頭に浮かんできたんだ。まるでは初めてスキルを授かった時みたいに。重くなるならまだしも軽くなるなんておかしいよね。だから多分、気のせいだよ」


 一般的に初めてモンスターを倒した時にのみスキル名が頭に浮かぶ。モンスターを倒してもスキルが得られない時があるけど、それはまだ解明されていない。

 なので大抵の人はスキル名からスキルを予測し使用する。そして今回僕が頭に浮かんだ『設定』は僕が初めてスキルを授かった時の状況に非常に酷使していたのだ。


「お兄様少し待ってください。『術式6番 結界』。お兄様これで大丈夫です。」


 僕は瑠璃の突然の行動に困惑する。見た目ではあまり変わった様子はないけれど何かしたんだろうか。


「大丈夫って?」

「お兄様、それは間違いなくスキルです。そのスキルはとても使い勝手がいいと思いますよ。世の中にはダブルスキルといって二つ目のスキルを授かる場合があるそうです。」


「そんな...僕なんかが?」

「僕なんかではありません!」


 珍しい瑠璃の怒声にびっくりしたが、僕は瑠璃の行動に納得した。おそらくスキルの名前を他者に伝わらないようにするためだろう。

 でも....。僕の頭には疑問が残った。


「なんで強いとわかるの?」

「だってそのスキルは私と『同じ物』ですから。」


 瑠璃はさも当然かのようにいい、お揃いになったことが嬉しいと言わんばかりに万遍の笑みを浮かべる。


「え。そ、そうなの?でもどうして。もしかして僕のスキルのせい...。別に瑠璃のスキルが使えなくなったわけじゃないよね?」

「はい。使えます。おそらくですがお兄様のスキルで間違いないと思います。さっきお兄様の様子が変わった時に逆にお兄様の従者になりたいと思もいましたし。」


「じゃあ、僕のスキルのお陰で瑠璃のスキルが手に入ったのかも知れない。もし僕のスキルが原因で瑠璃が従者になりたいって思ったことがきっかけなら、僕のスキルは異空間収納はオマケに過ぎなくて、僕に従属したいと思った人のスキルを手に入れるって事なのかな。」


「そういうことだと思います。」


 僕は冷静にスキルの内容を考えていたが、自分もみんなのようにモンスターを倒せるんだと思い。涙がこぼれそうになった。僕がスキルの全容を掴んだタイミングで頭の中に無機質の女性の声が響いた。


『個体名 春によるスキルの把握を確認。インデックスへ接続……条件を確認…完了。個体名 春の身体の構成を開始…完了。スキルの詳細を脳に転送。個体名 春は覚醒者となりました。以後、ステータスボードの使用が可能です。』


 僕は突然のことでぼーっとアナウンスを聞いていた。しかし瑠璃はこの状況に心当たりがあったようで春に教えてくれる。


「お兄様、怪我をしたのにこんなことをいうのは申し訳なく思いますが、今日は本当におめでたい日ですね。おそらくですが覚醒者となられたのです。ステータスと唱えればスキルの詳細や職業の詳細とレベルが見れるようになりますよ。」


「えっとありがとう?今日は色々あったし少し考えを整理したいから先に僕の家に帰ってもらってもいい?そ、そんな頬っぺ膨らませなくても....。はぁ..。」



瑠璃は露骨に嫌だという顔をしていた。ここから瑠璃が駄々をこねて結局、春が寝るまでにしばらく掛かったのだった。

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