第1話

 早速ダンジョンに行くための準備を進める。

 なんと言っても春には自分1人ではダンジョンをまともに探索することもできない。


 いつも同行させてもらってお世話になっている人達が、それぞれ何曜日にダンジョンに潜っているのかある程度は把握している。そこで今日ダンジョンに潜るであろう天馬に先んじて電話をかけた。


『やぁ、春くんどうしたんだい』

『いつものようにダンジョンに同行させていただけないかと思いまして』


 天馬というのは、僕がよくお世話になっている29歳のおじさんだ。ダンディで異様にスーツが似合いそうなことから若い女性からも密かに人気があるらしい。


『あぁ、もちろんだとも。準備が整ったらこちらから誘おうと思っていたところだ。春くんがいると荷物の負担がグッと減って探索が楽になるからね。是非来てほしいね』

 電話から楽しげな声が返ってくる。


『ありがとうございます!いつもの時間からですか?』

『そうだよ。正義くんも来るが大丈夫かい?』


『正義だったら大丈夫ですよ。では、またいつもの時間にギルドに顔出しますね』


 天馬さんが言っていた正義とは安倍正義と言って、安倍晴明の血を引いている小学校からの親友だ。しかも、安倍晴明の血筋の中でも本家の跡取りなのだ。

 それに、今では安倍財閥という大きな財閥があり、美容やゲーム開発など新しい分野にも積極的に進出しているため、世間からも注目を集めているらしい。


 そして、なんといっても正義は、親の権力を振りかざしていた東阪に対して、反抗してはいけないという暗黙の了解を鋼のルールをぶち破って何度も助けてくれていたのだ。


 それから僕はどんどん正義と仲良くなっていった。ダンジョンパンデミックが起きてから正義もスキルに目覚め、家柄に関係したのかは分からないけど 『陰陽師』というスキルを使うことが出来ていた。

 他にも身近では僕の家族も能力保持者ってのは知ってるんだけど、どんな能力かは聞いたことがないんだ。


 ちなみにスキルの中には『身体強化(小)』と『身体強化(大)』、『陰陽術』と『陰陽師』というように同系統の中でも下位スキルと上位スキルがあったりする。


 おっと、天馬さんとの待ち合わせに間に合うようにそろそろ家を出ないと行けないかな。


「ライセンスカードよーし。財布よーし。ダンジョンへ行ってきます」


 家を出て地下鉄に乗りバスに乗り換える。

『まもなく~名古屋低級ダンジョン前~名古屋低級ダンジョン前』


 やっぱり見なれていても、大きいダンジョンだと再認識させられるなぁ。


 見上げなければならないほど大きな塔の周りにはゴツゴツの要塞のようなもので囲われている。これはダンジョンで何かあった際に対応できるための要塞兼、ギルドの役割を果たしている。


 ギルドに入るといつも通り多くの人達が利用していた。僕はいつも通りの混み具合にうんざりするが、さっさと天馬さんを探すことにした。

 少しの間キョロキョロしていると、ギルドに併設されている酒場で軽食を食べながら雑談している天馬さんと正義を見つけることができた。


「天馬さん、お待たせしました」

「いや。そんなに待ってないよ。春くんは朝ごはんはもう食べたかい?」


「いえ、まだですね。ここで食べようと思っていたので」

「朝の定食程度でよければ奢るよ」


 天馬さんは笑いながらいうが、流石に申し訳なさすぎる。


「そんな!大丈夫ですよ!自分で出しますよ」

「若い子がそんな遠慮するものでもないよ。 すいません。朝定食1つお願いします」


 天馬さんは近くのウエイトレスを捕まえて定食を注文してしまった。

 これはありがたく好意に甘えるしかないかな。


 天馬さんは世話焼きな一面があり、僕が奢られるのはこれが初めてというわけではなくて一緒に潜ると度々あることだった。


 そろそろ朝食が届くかなと思っていると、正義が隣から覗き込むように顔を出してきた。


「おはよう。今日はお邪魔するぜ。朝ご飯食べたら早速受付済ませてダンジョンに行こうな」


「おはよう、正義。これを食べ終わったら僕は受付に行っていくるよ」


 僕は朝食を食べ終わると早速受付に向かった。


 受け付けが混んでいるのには理由があって、基本的にはダンジョン探索するためには1度受付で探索することを伝え、帰ってきた時も伝えなければいけないという規則がある。


 これは万が一探索者がダンジョン内で行方不明になった時に分かるようにするためだそうだ。それとは別に受付は特定モンスターの討伐依頼なども張り出されていてそれらの受注もしている。


「ごめんね、春くん。少し時間貰えるかな」


 早速ダンジョンに行こうと考えてたら受付の人に捕まってしまった。

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