プロローグ

 僕は今日もまたいつもの夢を見る。


−−−−−−−−−

「オラッ!オラッ!!死ね!!」


「男のくせに女みたいな見た目しやがってキモイんだよ!」


 僕の両脇を抑えられ、集団の中でも一際大きな体躯の人物が中心となって僕に殴りかかってくる。


「やべぇ!センコーが来た!!東坂!行こう!」


「あぁクソいい所だったのに!」


 しばらく殴られ続けたせいか顔も腫れ上がり毎日行われる暴力で身体の至る所にアザがある。春の心身はもうボロボロだった。

 やってきた先生も頼りにならない。東坂の親が権力者では注意程度で留まり、あまり僕の力にはなってくれないのは仕方のないことだった。

−−−−−−−−−


 春はガバッと布団から起きる。

「はぁ、はぁ、はぁ。」


 過呼吸で異常に心拍が強く早くなるのを感じる。

(水でも飲んで気持ちを落ち着かせないと。)

 春は近くにあったペットボトルを拾うと中の水を飲む。


 ゴクッゴクッはぁ。


 水を飲むと深呼吸するとだんだん呼吸が落ち着いてきた。

「またいつもの夢か……」


 春は顔を洗うために洗面台へと向かった。


 春はずっと小学校の頃からこの一人暮らしを続けている。

 部屋の中はひどく殺風景で日常に必要な必要最低限しか置かれていない。しかもここには1人しか住んでいないにも関わらず一軒家なのだ。それがまた寂しさを彷彿とさせる。


 春は家族から自分が大切にされていることを分かっているが、それでも人間だ。寂しいと感じないわけではないのだ。

 しかし、時折 親友が遊びに来たり、稀に家族がやってくることもあった。


 (ひどい顔だ。)

 春が鏡を見ると明らかにやつれている自分の顔が映った。


 春の身長は156センチと青年男子としては低身長。容姿は幼さを残した可愛らしい顔立ちで白銀の髪が首あたりまである。元はもっと短くしていたが似合わなさ過ぎて止めてしまった。

 その際に髪を短くするなら坊主から始めようと考えていたら妹を始めとした周囲に猛烈に止められたのだった。


 童顔であり女子みたいな顔立ち、低身長ということもあって小学校、中学校とイジメを続けられてきた。そのトラウマから僕は人と話すことが苦手になってしまっていた。

 それからというものイジメが怖くなり高校には通わないで探索者をするようになった。そして日常生活ではしっかりとした男として見られるように気をつけていた。


 親が家に居ないのも探索者が関係していて、両親は探索者関係の仕事をしていて世界中を飛び回っている。それに兄弟も付いていっているので家にはぼっち寂しく春1人。


 そもそも両親は春の心配はしてくれるものの、子育てに関しては完全放任主義でお金だけポンっと渡すタイプ。

 しかし、そんな親のスネをかじってばかりではいられないので危険を承知で探索者をしていた。探索者だったり能力保持者とも言われたりすることもあるが、ようはダンジョンに潜る仕事だ。


 3年前に地震のあと世界中にダンジョンが同時に乱立した。

 当時、謎の建造物に世界中が混乱と恐怖に包まれる中、世界中の国々はそれを管理しようと奮闘した。なぜなら後に『ダンジョンパンデミック』と呼ばれるようになった現象が起こり国がモンスターによって崩壊したからだ。


 ダンジョンパンデミックはモンスター達がダンジョンから溢れ出し、周囲を襲ってまわるという現象だ。


 ところが、そんな時に意外にも整備がいち早く整ったのが日本だった。

 地震による被害はあったものの、元々耐震をしっかりしていた日本は直ぐに立て直した。そして当たり前だが国民の関心は突如 乱立した塔に集まった。日本政府は塔が現れた直後に自衛隊による調査を行っていた。


 ダンジョン内部では現代兵器は低層程度のモンスターにしか効果がなかった。中層以上になると、とてもじゃないが軍の力でゴリ押し攻略とはいかなくなってしまったのだ。


 現代兵器の効かないモンスター達を危険だと判断した日本政府は付近を自衛隊で固め封鎖をすることに決定した。


 しかし、日本はファンタジー大国である。国民、特に若者達からのダンジョンへの民間人立ち入り禁止案の撤廃の要望が溢れかえったのだ。それへの回答として日本政府は体制を整えた後に民間人に解放すると宣言した。


 その背景には出現したダンジョンの数が多すぎるため自衛隊だけでは管理しきれなくなりそうだという点にあった。

 つまり渡りに船だったのだ。


 5ヶ月後、日本は新設したダンジョン庁とギルドという組織を設立し、比較的モンスターが凶悪ではないダンジョンを民間人に解放した。そして民間人によるダンジョン探索をしていく内に有用な資源が多く見つかった。


 そんな時にダンジョン探索をしていた者達多くから異能力を使うものが出現し始めた。それらの能力はスキルと呼ばれ、保持する者たちを能力保持者と名付けられた。その後、温度を少しあげるものから体を硬くする能力など世界では多種多様な能力保持者が現れるようになったのだった。


 能力保持者はギルドに属すことが義務付けられていて、今や能力保持者達がコツコツとダンジョン探索を進めるている状況なのだ。しかし、良いことばかりではない。能力を使った犯罪も起き、能力保持者を統制しきれない国は消え、そして新たな国が生まれるという事例がいくつか生まれてしまった。


 実のところ春も能力保持者の一人だが、内容は大それたものではなく。スキル名は『フォロワー』そこまで強いわけでもなく、サポート型のスキルのようで異空間収納を使うことが出来るスキルだった。


 当初は能力が得られてから春は落ち込んでいた。今世界で必要とされているのは攻撃系が主流で、春のような支援系のスキルはあまり価値のないスキルだと世間から思われていた。今はポーターとして知り合いの探索者の人に連れてもらって、落ち込んでも諦めずにダンジョンに潜りつつけた。


 ひとしきり準備を終えた春はジーパンを履くと白色のパーカーに袖を通すと家の鍵を持って部屋を出た。


「さて、今日もダンジョンに行こうかな。」


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