信頼を経て

「いやぁ、ダムのマッサージを受けた後にシャブして女抱くのが一番だぜ」


「はは、人生を謳歌してますね旦那」


「ふはっ!そりゃそうよ!」


俺が北の里に受け入れられて三日目の昼。俺は暇さえあれば狩りで疲れたゴブリンたちの体を癒していた。本当はこのマッサージをしている隙に融合しようと思ったのだが…。


「おーいまだかよ!待ちくたびれたぜ」


後ろを見ると何人ものゴブリンは列をなして待ちわびていた。生まれてからこれまでマッサージというものに出会ったことのなかったゴブリンたちは、来る日もの狩りで蓄積された体の疲労と痛みを一日で直した俺を賢者の如く感謝してくれた。


そして俺のマッサージはあっという間に集落に伝わり、ついに昨日の昼にボスに呼び出され、ボスにマッサージをすることになった。


これを機に俺は村で唯一のマッサージ師としてボスに仕えることが決まり、今では一日中をマッサージに費やしている。流石にこれでは俺の指も持たないので、今では麻薬作りの時に使われる石の棒をマッサージ棒として使っている。


しかもこのマッサージ棒がよほど良かったのか、俺の元に通う”患者”は後を絶たない。今では俺は先生呼ばわりだ。


「うるせぇ!今は俺の時間だバカ!先に女でも抱いてろ!」


「けっ!へっぽこナスがよ!!ダム、そいつの首へし折って良いぜ?」


「はっはは…そりゃあ流石にできませんよ」


「黙れボケ!あとダム先生な!お前が気安く呼び捨てするな」


「はっはは…まぁあね、落ち着いて下せえ」


このしょうもないやり取りを俺は一日中しなくていけない。俺は感情を押し殺しながら愛想笑いを決めることにしていた。しかしやはりこの状況で融合はできない。


それでもこのゴブリンたちと世間話をしながら重要な情報は掴んでいる。

この集落の人数、武器庫や食糧庫の場所。女の収容所。そして各ゴブリンの名前とレベル、そして住居もだ。


寝ている時間帯もおおよそ把握している。今であれば満月が少し西に傾いたころにはみんな寝ている。


さて、後ろに並んでいたゴブリンのマッサージもしていたらもう夕方だ。

俺は飯を食うために焚火場に向かった。


「おっダム先生かい。今日のマッサージも気持ちよかったぜ」


「ああそれは良かったですわ。ありがとうございます」


俺は焚火場にいた配給係のゴブリンに食糧を貰っていく。俺は里唯一のマッサージ師としてすでにリーダー格の待遇を受けている。自前の木の器には拳二つ分の肉と近くで取れた木の実やイモが豊富に置かれた。周りの狩り組を見てみると、与えられた食糧はこの半分か三分の一にしか満たない。


「ポポンの旦那の分もお願いしますわ」


俺はもう一つ木の皿を配給係に手渡した。配給係のゴブリンはポポンの名前を聞いたトタンに露骨に態度を豹変する。


「ああ、あの使えない木偶の坊かい。あんな奴にはこれぐらいで十分さ」


俺に渡されたポポンの分の食事は、先程少ないと感じた狩り組のさらに半分ほどしかなかった。


「…まぁそうですね。ありがとうございます」


「はいよ。先生もあんな奴可愛がらなくていいのにな」


「ははは」


俺は二つの木の器を持ってポポンのいる門の方へ向かって行った。


「ポポンの旦那、食事を持ってきましたぜ」


「ん?おっ…おお!ダムか…ありがとな」


門の所で寄りかかっていたポポンに俺は食事の入った木の器を差し出した。


「おっ!今日は肉がたくさん入ってるな!拳サイズの肉なんていつぶりだ?」


「今日は大きなシカが獲れたらしいですよ」


「へっ、いつも偉そうにしてる狩り組もたまには役に立つもんだな」


ポポンは嫌味を吐きながら肉にかじりついた。ポポンの口から煮込んだ鹿肉の肉汁と、笑みが零れる。


「ああ、肉食ってる時が一番幸せ…」


「ですよね。俺もそうです」


適当に合図地をうちながら俺も肉を頬張っていく。人間の頃なら不味くて吐き出すレベルの食事だが、ゴブリンになってから何を食べても不味いと感じたことがない。なんならほぼ毎日、一日中空腹なので何を食べても美味しく感じる。


ほぼ毎日と言えば性欲も人間のころと比べて計り知れない。俺は女を使って発散できているが、女にありつけないポポンには気の毒だ。


「すいません…最初は交代で見張りしようって俺が言い出したのに…」


俺の謝罪にポポンは嫌そうな顔をしながら手を左右に振った。


「良いって言っただろ。昨日もそれ言ったてたぞ」


「はは、そうでしたっけ」


俺の返事にポポンは小さく頷くと、俺の方を見つめながら微笑んだ。


「俺なんかを気にかけてくれるのはお前ぐらいだしな。ほんと、お前が同郷で良かったぜ」


「俺もポポンの兄貴が門番してくれて良かったです」


俺の言葉にポポンは一瞬目を見開いて、すぐに胸を張った。


「そりゃそうだ!同郷の俺が門番してなかったら、お前みたいな怪しい奴は追い出されてたぜ!!」


「ははは!間違いないですね!本当に……ポポンの兄貴で良かったです」


「おうよ」


ご飯を食べ終えた俺はポポンに挨拶をしてまた集落の中に戻ることにした。与えられた小屋に戻った俺は、床に敷き詰めれた雑草のベットに寝転がると仮眠を取ることにした。


今日の深夜に作戦を決行する。


小屋の隙間からゴブリンたちの騒ぎ声が聞こえる。焚火に火をつけて、飯を食いながら歌って踊り、そして女を輪姦して遊ぶのがこの村の日常なようだ。


正直、生きやすさで言えばこの村の方が良い。

いつのまにかポポンとは仲良くなってしまったし。


だがそれでも俺はこの集落でマッサージしとして人生を終えるつもりはない。もちろん南の里の狩り組を率いるリーダーとして終えるつもりもない。


人間としての人生を失った俺からしてみれば、こんな森の中でひっそりと自給自足をしながら生きていくなんて耐えられない。


これで死んだら命がもったいなくて死んでも死に切れん。


ゴブリンの寿命は長くても40年ほどらしい。免疫が強いから病気になって死ぬことはほぼないが、人間や危険なモンスター狙われればもっと早くに死んでしまう。


どうせ長く生きられないのなら、好きなもん食って、好きなだけ女を抱いて、犯してチンギスハーンみたいに何千人もの子孫を残して死にてぇもんだ。


だが、その前に…少し眠ろう。

作戦が失敗しようと成功しようとこの里のボスとは戦うことになる。


万全を期して挑むつもりだ。



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