第19話 暗殺


23:06

日本語学校 校長室



ドラッグマンは校長の指示で、欲に目が眩んだ馬鹿な男を殺して捨てた… 警察は薬物中毒のイザコザなど本気で調べない…

ドラッグマンを指名手配するが見付からず、未解決のまま終る事件…

 校長はそう考えていた… ところが警察に現れた協力者によって、組織の一角を崩されそうになる。

追い込まれた校長は自ら動いて解決を試みる。



カルロ(ドラッグマン)

「どうするんだ…」


校長

「不測の事態だが、俺のミスだな」


カルロ

「俺のって、現役の頃の言葉遣いだな…まさか?」


校長

「あぁ、俺が動く」


カルロ

「フッ、無理するなオレがやるよ」


校長

「大丈夫だ、俺はまだまだ現役だからな」


カルロ

「…念のためだが、誰を殺るか教えといて貰えるかな」


校長

「俺の計算を狂わせた、城山リョウガだ」


カルロ

「珍しいな、感情的になるなんて…」


校長

「そうだな…だが警察が俺達にたどり着いたら組織もヤバい事になる、厄介な警視も現れたし悪いが城山には消えて貰う」


カルロ

「城山に同情するよ、まさか自分の才能が裏目に出るとはな…」



校長は、カルロを帰すとリョウガ殺害の準備を始めた。







0:51 校長室


ブリーフケースに揮発性の高い睡眠液をしまう校長はニット帽を被り伊達メガネとマスク、服は紺色のジャージを着ていて一見では誰も校長だと気付かない姿だ。


日本語学校が入ってる雑居ビルの裏口では谷口が車で待っている、変装した校長は無言で車に乗り込む。


谷口

「頼まれた物だ」


谷口はバックパックを渡して車を走らせた…


校長はリョウガのマンション近くで車を降りる、谷口は軽く手で挨拶すると車を走らせた…




校長はリョウガの住んでるマンションのオートロックドアを紐のような物を差し込んで開けると防犯カメラに顔が映らないように非常階段に向かう。


階段の扉を谷口に用意させた合カギで開けるとリョウガの住む最上階ではなく屋上に行く…


屋上から校長は、リョウガの部屋の位置の確認を始めた…




今から1時間前…


こずえのマンション近くに戻って張り込みを再開する梶山、車のエンジンを切ってこずえの部屋に目を向けると遮光カーテンから僅かに灯りが漏れた…


梶山の読み通り情報を与えた事でこずえが動くようだ、その為に何か用意してるのだろう…冷静な梶山も興奮を隠せないでいる…

30分ほどすると窓の灯りが消える〝こずえが動く〟と梶山の勘がざわめく…マンションの出入口に神経を集中させる梶山、こずえは何らかの変装をしてると考えられるので見逃さない為だ…


しばらくしてこずえが出てきた黒のパンツに白のジャンパーを着てバックパックを背負っている…特に変装はしてないようだ、梶山はタクシーに乗り込んだこずえを尾行する。



こずえを乗せたタクシーが止まったのは関内の駅前だ。


タクシーから出たこずえは黒のニット帽を被る、丁寧に茶色い髪を隠すとリバーシブルのジャンパーを脱いで白から黒にして着た、この行動に梶山は何かこずえが犯罪を犯すと確信する…

もし捜査された時にタクシーの運転手の証言をごまかすタメの行為だ。夜に溶け込む姿で駅には向かわず、深夜の繁華街に進むこずえ…梶山は細心の注意を払って尾行を続ける。


こずえが進む方向で目的地を予想するとその先には日本語学校がある警察が怪しいと考えた2つの内の1つだ。


案の定こずえは日本語学校のある雑居ビルに入った、梶山はビルに入るかこのまま車で待つか迷ったが車で待つことにした。



ビルに入ったこずえは非常階段から5階に向かう…


5階の日本語学校の扉は当然鍵が掛かっていた、こずえは赤外線カメラで辺りを観察するとピッキングで扉を開けた…中に入り静かに扉の鍵を掛ける。



繁華街の灯りを便りに教室を見渡すと、机が20個ほど黒板の前に並んでいる…

PCが5台置かれたスペースがパーテーションで区切られていて応接室らしき扉と校長室と書かれた扉がある…こずえはまた赤外線カメラを取り出し防犯装置のチェックをするが防犯らしい物はなかった。


こずえは校長室の扉に手を掛け開けようとしたが動かない…


開かないではなく動かないと言うのが感想だ、その扉の異常な違和感にこずえは驚いた、普通カギが掛かっていても多少は動いてガチャガチャする…なのにこの扉は微動だにしない…カギ云々の前に扉が特殊だ、そこまで厳重にするのは秘密がある証だが今は中に入る手立てが無い…


校長室を諦めたこずえは応接室の扉に手を掛ける、カギが掛かって要るが校長室とは違い普通のシリンダー錠だ器用にピッキングで開けると中に入る。



こずえは室内を調べる…特に気になる物は無かったようだが部屋のPCを調べだすとリョウガの事件の閲覧履歴があった、暫く何かを考えるとこずえは潜入の痕跡を残さないように日本語学校を出る。


交差点まで歩くとタクシーに乗り込む、梶山はこずえが乗ったタクシーを尾行する…



タクシーはリョウガのマンション近くで止まり、タクシーを降りたこずえはリョウガの部屋辺りを物陰から眺めている…


梶山は、ドラッグマンが居そうな日本語学校を探ってからこずえがリョウガを張り込むのは何故か考えた…

ドラッグマンとリョウガに繋がりはない、リョウガを見張る事はドラッグマンと何か関係があるのか?それともこずえは何らかの理由でもともとリョウガを見張っていたのか?

梶山にはこずえがリョウガを見張る理由が分からない…なのに梶山の心の中には得たいの知れない不安が広がる…

嫌な予感しかしない梶山は矢野口に電話を掛けた。



: 良かった、出てくれましたね…


: 私は刑事ですからね…


刑事ですからね、と言う不可解な返しはスルーして梶山はこずえを張り込んでからの出来事を矢野口に説明して助言を求めた。


: ドラッグマンを追って日本語学校に潜入…そしてドラッグマンの情報を日本語学校で見付けた…


: 私は嫌な予感しかしないのですが、このままこずえを見張るだけで良いものか…




こずえはドラッグマンを探している…なのに、リョウガのマンションを見張るのはドラッグマンが現れると言う何かを日本語学校で見付けたのではと矢野口は考えた…

しかし、ドラッグマンがリョウガに会う目的は何か? リョウガに何故興味があるのか?

ドラッグマン捜索が急激に進展してるのでそれを阻止する為にリョウガに接触しようとしてるとは考えられるが、そうなると警察内部にスパイが居ることになる…なんにしても憶測に過ぎない、しかし間違いなく今すべきはリョウガの保護だと矢野口は考えた。


: 直ぐに、リョウガ君を保護して下さい!


: 了解!


梶山は返事と同時に車を出てマンションに走った。

矢野口は佐藤に連絡して現場に向かうように指示をした。


梶山は走りながらリョウガに電話をする…



: リョウガ君!良かった起きてたか、今マンションの下に居るロックを解除してくれ!


: はい、でもどうしたんですかこんな時間に?


: 君が狙われてる可能性が高い…


: あたしが!?


: 今、エレベーターに着いた…


: あれえ? 何か…めまいが…


: どうした…? おい!リョウガ君どうした!



エレベーターがリョウガの住む12階に着くドアをこじ開けるように飛び出しリョウガの部屋のドアを開けようとしたがカギが掛かっている…


インターホンを鳴らしても、ドア越しに怒鳴っても何の反応もない。



「くそっ! 何が起きてる…」



いら立つ梶山のスマホが鳴った着信は矢野口だ。


: 警視!襲われてる可能性が高いが部屋に入れない!


: 落ち着いて下さい! 今、佐藤が合カギを持って向かってます…


: 分かりました…



電話を切った梶山の心を不安が締め付ける…佐藤を待つ1秒がとてつもなく長く感じる。

リョウガが危険に巻き込まれる可能性は最初からあった筈だ彼に何かあれば責任は自分にあると自責の念にかられながら佐藤を待った。


「梶山さん!」


佐藤が合カギを持って走って来た! 梶山はカギを奪い取るとドアを開け中に飛び込んだ!





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