第9話 ハッカー



こずえのマンションの下でリョウガを見張る刑事と梶山が合流した。


「あっ、梶山警部早かったですね。城山はまだマンションの中です」


「余計な事が起きなければいいが…すまなかったな、捜査本部に戻ってくれ」


梶山は捜査官を帰らすと不安な面持ちでこずえのマンションの窓を眺める。





マンションでは、こずえとリョウガが向かい合って話をしていた…当然坂下あきらの話だ。


「前に売人は儲かるってあきらに言ってたじゃない…」


こずえの眉間にシワがよる。


「私が? そんな事言ったかしら」


リョウガはこずえの反応を見極めようと凝視する。


「覚えて無いなら…別に良いのよ」


坂下あきらの思い出話からリョウガが核心の話を振ると、お互いに相手の反応を探り合い無言になる… 


坂下あきらはクスリの取り引きで殺された…こずえは坂下にクスリの売買を勧めていた…リョウガは遠回しに貴女が勧めなければ坂下は殺されなかったんじゃないかと言っている事になる。


「なに…私が悪いって言うの…」


「そんなこと言ってないでしょ…あんたがあきらに言った事を気に病んでるんじゃないかと心配してたの… まぁ、覚えて無いなら気にしないで」



 こずえはリョウガが、売人を勧めた自分を責める為に来たんだとと思ったが…そうではないと、こずえを気遣ったセリフを言うリョウガに何か裏があると思い警戒をする。


「ありがとう…でももうだいぶ落ち着いたわ」


「あたしに出来ることがあったら何でも言ってね」


悪女とオカマの探り合いは、たがいに牽制しあい初戦を終えた。




こずえのマンションを出て帰宅しようとするリョウガの前に警部が現れる。


「城山さん、森高こずえとの接触は控えて下さい… 少し歩きながら話しましょう」


梶山の登場が予想外過ぎたのか約束を破った罪悪感で慌てるリョウガ。


「ごめんなさい…気お付けます」


そんなリョウガに、警部が驚きの提案をする。


「捜査に協力しませんか…」


警部の予想外の誘いに戸惑うリョウガ…


「えっ、どう言う意味ですか?」




ドラッグマンは捜査本部に任せて、森高こずえを調べたい警部はほっとけば何をするか分からないリョウガの監視も含めて捜索の協力を求めた。もちろん公ではない個人的だ。


警部がリョウガのマンションで話したいと言うと、リョウガは部屋に警部を入れるのをかなり嫌がった…しかし、民間人と捜査の話を警察署でする訳にはいかない…

内密の捜査協力だと警部がリョウガを説得してリョウガの住むマンションへ向かった。


リョウガのマンションでまず驚くのはフィギュアとぬいぐるみの多さだ、こずえの女性が住んでいると思えない部屋にも驚いた警部だが、リョウガの部屋には更に驚いた。


「すごいですね……ちょっとした人形博物館だ」


思わず感想が漏れる警部に照れるリョウガ。


「だから見られたく無かったの…趣味で集めてたらこんなになっちゃって」


「いやいや、素敵な趣味じゃないですか」


「ありがとうございます」


軽い社交辞令の挨拶が終ると警部が事件の話を始める。


「ところで、リョウガ君はこずえが事件に関わってると確信してる見たいだけど…何か証拠の様なものは?」


「証拠は無いです…けど、クスリが儲かるってあきらに言ってた時、言い方はホストよりクスリ売ったほうが儲かるんじゃないのってふと思ただけ見たいな感じだったけど…それがあたしには誘導してる様に感じたんです」


「…こずえは坂下さんを売人にしたかったと」


「えぇ…でも理由が分からない…」


もしこずえが坂下あきらを売人にしたかったとすると、それによってこずえに何らかのメリットがあるはずだ。


「その理由を探るために会いに行ったのですか…」


「そうです」


「何か分かりましたか?」


「あきらに売人を勧めたでしょって言ったら…あきらかにイラついた反応をしたけど、それ以上の事は何も…」


「そうですか」


「警察はあきらが売人をやる事でこずえにどんな利益があるかとか調べて無いんですか?」


「警察は重要参考人のドラッグマンを追うのに必死で、こずえには注目してません…今の所は私だけが捜査してます」


「えっ…警部さんだけ」


「…そうなります。 とりあえず今あるこずえの情報を共有したいのですが…こずえが複数の男と交際してるのは貴女も坂下さんも知ってましたか」


「えっ、そうなんですか!最低の女ですね…あたしは社交的で交友関係の広い女だと思ってただけで複数の男と交際してるなんて知らなかった…まぁ正直こずえには興味がなかったから…」


「そうですか…坂下さんも知らなかったと思いますか?」


「そう思います、こずえは自分に惚れてると思ってたみたいですから」


ここでも、こずえは上手く立ち回っていた…会社の社長と奥さんにも信用され可愛がられている。


「こずえは、自分の働く会社の社長とデキてる…それだけならよくある話だか、驚いた事にこずえは社長の奥さんにも娘の様に可愛がられてる」


「信じられない…ろくなモンじゃ無いのは分かってたけど、そこまで酷いとは…」


「刑事の私でも驚きましたから」


「でも、娘のようにって… もしかしたら社長の奥さんって…会ってるかも…」


「社長の奥さんと?」


「違うかも知れないけど、あきらのホストクラブで私のお母さんって紹介された事があります…」


「…たぶんそうですね、こずえの本当の両親はすでに亡くなってますから」


「あきらは、母親を紹介されて結婚に追い込まれるかもって嫌そうな顔して喜んでましたよ…そんな事もあったからこずえは自分に惚れてるって自信があったんじゃないかな」


「なるほど…しかし上手く人を利用してるな… キャバクラで社長の愛人になって秘書になり社長の奥さんに可愛がられる事で社内でも堂々と働ける…あきら君には奥さんを母親と紹介してあきら君に信用される…」


「あきれた女…絶対に尻尾を掴んでやる!」


「…リョウガ君は、ホストクラブでこずえと知り合ったのですか?」


「いえ…てっ言うかあたしが前に友達のゲイバーのオープンの手伝いをしてた時、ホストクラブのアフターであきらとこずえがやって来て…それからです」


「そうですか… それとこずえの実の母親は自殺してます…詳しい事は所轄に調べてもらってますが不審な点があるみたいです」


「あきらの事と何か関係があるかしら?」


「今は、分からない事が多いので一つ一つ調べるしか無いですね…」


「父親は?」


「それも所轄に頼んでるので何か分かったら話しますが…リョウガ君も得意のネットで調べて見て下さい」


「分かりました」




こずえの母親の死因は急性薬物中毒だが自殺のための服用と言う事だった…


当時、娘のこずえは義理の父親に殺されたと主張していたが証拠はなく自殺で処理されている。




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