第18話 お散歩

「あそこがクルツさん家の畑で、あれがいまは誰も使ってない土地です」


 リーファは、村内の畑を指差しながら案内して回った。


「あそこのおじいちゃんは趣味で木彫りやってるんですよ。家の中が工房みたいになってるんです」


 楽しそうに紹介するリーファだったが、メラリーの方は退屈だった。リーファの後ろをつまらなそうについていく。


 畑、荒地、民家、ボロ家……。


 メラリーにとって、この村の景色のなかに目を惹かれるものはひとつもなかった。


 村のなかはゆったりとした時間が流れていた。ひととすれ違うことはなく、たまに風が頬を撫でて、数羽の鳥が木から飛び立つ。


 この村は、メラリーには刺激がなさすぎて、次第に彼女は眠たくなってきていた。


 退屈を紛らわせるため、メラリーは興味もないのに質問をする。


「先ほどからよく見かける木がチーピですか?」


「ええっそうですよー」


 リーファが案内する村の畑の多くには、女の子の背の丈ほどの果樹が植えられていた。


 木一本あたりに、まんまるの果物が5個ほど実っている。


「ちょうど収穫の季節ですからね〜あとでご馳走しますよ、いただきものですけど」


「あら、ではいただこうかしら」


 リーファは、メラリーの機嫌が少しだけ良くなったのを感じた。メラリーは、さきほど食べたクッキーのジャムが気に入っていたのだ。


 散歩後のご褒美が設定されたので、足取りが軽くなるメラリー。そのまま質問を続ける。


「リーファさんはこの村のお生まれなのですよね、これからもここで暮らしていくつもりですか?」


「えっ?ええまぁ……村の外に嫁ぐ予定もいまのところないので。ははは、行き遅れだなんて近所のおばさんにこの間言われちゃいました」


 リーファは、照れて頬をかく。


「付き合いで村長代理を引き受けちゃったから、この責任ある仕事を放り出すことなんてできないし、結婚は当分先ですね……」


「……………」


 メラリーは足をはやめて、リーファの隣に並び立つ。


「実は私も、お父様からお見合いをセッティングされそうになるたびに逃げていますの」


「えっ……」


「結婚なんて、ごめんですわ。男の人って臭いんですもの。

さきほどは村のために子作りをすればよいなんて言ってしまいましたが、個人的には女の子の人生はもっと自由であるべきと思いますの」


 メラリーは、リーファと目を合わせた。メラリーの瞳は宝石のようで、吸い込まれそうな輝きだった。


「もし婚期が遅れて貰い手がいなくなってしまわれたら、私と結婚いたしましょうか?」


「えっ!め、めめめメラリー様!?なにをおっしゃって……」


「……ふふっ冗談ですわよ。でもいつでも頼ってくださいまし」


 小さな村は、いつのまにか一周していた。リーファの自宅が見えたメラリーは、ついついスキップで向かっていった。


「……ふふっチーピ、すぐ切り分けてあげますよ待ってくださーい」


 歳下にからかわれてしまい、リーファは呆けていた。しかし、なんだか悪い気はせず、口角をあげながら、メラリーの後を追いかけた。

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