【短編】ベリアルの箱

山鳥 雷鳥

ベリアルの箱

 ※ 前書き ※


『読んだら鬱になります。鬱にするために書きました。実際書いていてなりかけました』


======


 世界は不平等だ。

 努力が、全てを解決することはないし、才能が絶対というわけではない。

 だけど、努力を積み上げたところで、才能を持っている人に叶うだろうか?

 もし、叶うのなら、それはフィクションの主人公だけだ。努力や友情、勝利とか、そんな子供っぽい言葉に包まれている人に違いない。

 けど、人というものは諦めることがつくづくできない存在なんだ。努力をしたら、全てが成せられると思っているんだ。

 実際、私だって、後者だ。

 努力を認められたい。

 自らを鍛え、自らのただ求められたことを認められたい。当たり前を私にとって、普通以上の努力で満たしたい。


「ねぇねぇ、アルル、聞いてる?」

「え、あ……ごめん、カイ」

「もう、きちんと人の話を聞いてよぉ!」


 私はこの人に認められている。

 認められているからこそ、安心できる。

 認めてほしいからこそ、努力することができる。

 例えば、目の前にいるカイと呼ばれる一人の女大生に認めてほしいから、私は今こうやって、小説を書いている。

 小説を書いている彼女に認めてほしいから。


「でさ~」


 読書モデルやハリウッドとかで活躍している女優よりも綺麗で可愛らしく、色白で透明な肌をしながらも、他の人を魅了をするような姿とふるまい。

 そんな、彼女には、見た目だけではない多くの才能を持っている。その一つが、小説だと私は感じる。彼女が書いた小説を読んだ、一人の有名な先生は『文学界のミケランジェロ』なんて呟いていたけど、私からしてみれば、彼女は『ダヴィンチ』だ。

 一部の才覚を磨いた天才ではなく、血反吐を吐くような天才(努力家)ではなく、ただ黙っていても、その頭の中ではだれにも予想できないことを考えている。

 だから、彼女に私は認められたい。

 凡才以下の私が高望みだろうけど、彼女が求めるのなら、私は神の奴隷にだってなれる気がする。


「で、どうすればいいかな?」

「そうだね、実際に行ってみて経験してみればいいんじゃないかな?」

「お、それいいね。じゃあ、今度一緒に行こうよ!」

「え、いいの?」

「うん、だって、同じものを作るんだったら、一緒に経験した方がいいじゃない?」

「そ、そうだね」


 だけど、私、私の努力は、チラシの切り貼りされた存在。

 目の前に作られたのは、まさに神がつくりたもうた、神造物であられるのなら、猶更のこと。

 この行動力も、環境とか生き方とか性格とか、言われるんだろうけど、既に行動力は馬鹿になりそうだ。

 あぁ、馬鹿になった方がいいのかもしれない。

 彼女についていくのなら、それぐらいやった方がいいに決まっている。


「で、今度、食肉場の見学を……」

「ま、待って、なんで、そうなったの?」

「だって、戦闘とかって肉を切る描写あるでしょ? あれって、アニメとじゃ、あんまりわからなくてね、いや、分かる。だけど、経験してみたくない?」

「人の肉と食肉の感触は違う気が……」

「いや、経験と生で見ることが一番大事なんだよ!」

「そ、そう」


 やはり、一つずば抜けている。

 経験も考えも、思考速度も何もかもおいて、常人から抜けている。

 

「あ、ここの食肉場見学やっているから、二人分予約取っておくから、よろしくね~!」

「あ、あぁ……」


 嵐のように要件を伝えると、急いでその場を出ていくカイ。

 あっという間に遠くに消えていくカイの背中を静かに眺めていると、

 すると、ピロん、となる私のスマホ。

 そこには、LINEの連絡に先程の食肉場の場所と日程が書かれたリンクが張り付けられていた。

 

「もう、したの」


 既に予約が終わっていることに驚愕と呆れの気持ちが湧いてくる。

 けど、そんな気持ちなんてすぐに払拭するように、カイと一緒に出掛けられるという気持ちが何もかも消し去ってくれる。

 例え、カイの巾着袋と言われても、彼女の近くで天才の御業を見れるのなら、巾着袋の一つや二つにでもなって見せる。

 誰だって憧れのためなら頑張れるだろうし、憧れの行動を間近で見たいに決まっている。


「楽しみだなぁ」


 スマホに映るカイから貰った予定を見ながらほくそ笑んだ。

 あのような連絡から数日が立ち、私とカイは食肉工場に来ていた。

 辺りには吊り上げられた鶏を見て、私は少しだけその光景に恐怖感を抱く。

 日常の中に隠れた非日常的な光景。

 それを知りならがも、きちんとこの目にして生活するというのは、見ないで知る事実よりも重い。人に優しくできる、他人やほかの生物に地合いを抱くものであるなら、猶更のこと。今後、肉を食べれれなくなってしまうのでは、と思ってしまうほど。


『で、このようにして……』


 そんな異様な光景の中、異様に慣れ世紀を保ち続けるスタッフさんは説明を続ける。

 見学者の中では体調を崩すものも出てくるが、それも手馴れているのか手際よく対処し続ける。

 まぁ、しょうがない。効率化と人間性とは真逆するように、機械化により効率化された処刑場は産業革命以降、人間性の傲慢と強欲だけを濾過させたように感じる。便利とは平等だけども、人を殺す。

 その結果が、これだ。

 罪悪感から逃れるために作られた機械の処刑場。怨念も恨みも全て聞こえないようにするための直接触れずに殺す代用品を製造する。

 だけど、皮肉にも誰かが心を殺すか、罪悪感から逃れるしか、食すという権利を得られない。


「ふむふむ……こうなっているのかぁ」


 だけど、そんなことを考えない天才(ルビ:ひと)が一人。

 人の感性すらも凌駕したそのカイ(ルビ:ひと)はじっくりと、食肉工場の絞める鳥の首をじっくり見ている。

 表情、肌、断面、音、色と様座な観点で死という概念を見ていた。

(すごい……)

 その集中力に正直なところ、見惚れていた。

 一人のクリエイターとしてその魅入るほどの姿に、案内スタッフの説明なんてこれっぽちも入っていなかった。

 本当に見習うべき点がたくさんある。

 その姿を見て、私も彼女に追いつくために、私もここに来た理由を思い出し、カイの見ているところに注目した。

 彼女の注目しているところは、本当に素晴らしく本当に天才がいるのだと再認識させるものばかりだった。

 天才の気持ちというものはつくづく理解に苦しいものだけど、わずかな理解者になれると彼女が一体、どこを見ているか本当に素晴らしいものだと認識する。

 それは言葉にできない数々、だが、先の言葉の通り本当に細かいところを見ている。


 死の瞬間のまるで、カメラのワンフレームに収めるかのように二次元としてとらえるのではなく三次元でとらえ、その一つ一つを確実に言語化していっている。

 もはやカイにとって、神秘を解き明かすのと同然の行為。文字と色、形を綺麗に分別できていた。

 彼女の頭の中では多くの言葉と色と形が本棚に並べられていくようになっているのだろう。当然、私の想像だけど。


「ほほう、この部分はこうなって……」

「すごいなぁ」

「ん、なにが?」

「いや、何でもないよ」


 ふと漏れた言葉が聞かれたのか、カイは不思議な顔で私の顔を見つめてくる。

 まぁ、突然、あんなことを言われてしまえば誰だって彼女みたいな反応をするに決まっている。

 私自身、変なことを言ったことを反省しながらも、開いていた口を閉じる。

 ほんの少しでも憧れの人に近づくために、私は死と生を観察する。


「うぷ」


 けど、私には無理だった。

 結局のところ、私は凡人だ。生と死の狭間をこの目に焼き付けて見せても、それに耐えきれるほどの強い探求心を求めることはできなかった。

 つぶらな瞳から光が消えるというのは、私には耐えきれなかった。

 一度でもその死という概念に優しさを与えてしまえば、人というものは引きずり込まれるように私は死に耐えきれなくなった。


(あぁ、少しだけだけど……これに耐えきれなくなった人の気持ち、分かるなぁ)


 悲しいよりも、これが別のものであるのなら一体、なんというのか。

 そんな思考が頭の中に回り続ける。


 もし、嘘つきでもただの見栄じゃなくても、生命を殺して命を長続きすることが嫌になった現代人の気持ちが理解できてしまう。

 生命を殺すぐらいなら、模造品で代用し生き続けたい。

 将来の為にも、今の精神状態の為にも……。


「にしても面白かったね!」


 だけど、カイは私とは違う。

 生命の終わりの行列を目の前にしても平然として、陽気な感想を漏らすカイに少しだけ恐怖を覚える。

 だけど、天才はいつだってそうだと思う。


「そういえばさ」

「うん?」

「今回の見学を見て、良いインスピレーションは湧いたから、帰ったら少しキャンバスと睨めっこしようと思うよ」

「!」


 本当に凄い。

 いつもだけど、カイはこういうところに来ても平気だし、あの光景を見て多くの絵を描こうとする。

 素晴らしい、素晴らしい! 


 ちくっ、


 ふと、変な痛みが走る。

 針に突き刺される感覚よりは、変な電流が走るような、もやついた気持ちが走る。


「?」

「どうかしたの?」

「いや、何でもない」


 けど、どうでもよかった。

 カイの素晴らしい作品をこの目にすることに比べたら……。



 あれから、カイは素晴らしい作品を世界を魅了し続けた。

 学生の身で様々な作品を作り続ける彼女は大学内でも注目の的で、メディアにも次々と取り上げられた。


「すごいね、次はハリウッドの脚本かってこのネット記事に書いてあるよ!」

「う~ん」


 だけど、カイはその生活につまらなさを抱いていた。

 何もかも手に入ったからだろうか、それとも刺激が満たされなくなったのか、どこか積まなそうな表情を浮かべていた。


「どうしたの、カイ?」

「私、その依頼受けない」

「なっ……なんで⁉」

「だって、つまんないもん」

「……」


 天才と凡人は脳の作りが違う、なんて聞いたことあるけど、目の前にいる人物を見てしまえばそう思ってしまうのはしょうがない。


「いや、いやいや、待って!

「だって、もうだれの指示でもの書くの、飽きた」


 あぁ、そうだった。こういう人だった。

 カイが求めているのは、いつだって作品に対しての楽しみだ。

 より上への探求心だ。一つの作品に対してテーマを与えられ、自由に何かを書く力だ。

 けど、今の世の中でその力は邪魔でしかない。

 想像力が有り余る以上、カイの想像力はパトロンの求める物とは違くなってしまう。

 ただ魅了するのと、想像力に答えるのは違うのだ。


「それよりさ、次のコンテの作品、考えているの?」

「え、コンテって」

「うん、出るんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「私も出るから」

「えっ⁉」


 すると、突然、そんなことを口走るカイ。

 今度のコンテ、というと企業も覗きに来る絵画コンテストのことを言っているのだろうか。


「ま、待ってよ! そんなことしたら、っ!」

「したら、なに?」

「あ、いや……」


 私は何を言おうとした?

 そんなこと、の続き、何を言おうとした?

 言う寸前に口を手で塞いだけど、何を言おうとしたのだろうか。

 

もしかして、勝てない?


 いや、勝てないのなんて当たり前だ。

 けど、それとこれは話が違う。

 ……どれが? 何が?

 言葉を漏らしてしまったけど、その意味に対して、何の意味を齎すのだろうか。


『妬み』


 ふと、脳裏に過るそのような言葉。

 私が私に対して何か大事なものを殺すような言葉。


「アルルはさ、一体、なんで、物を書いているの?」

「っ!」


 ふと、カイからそんなことを着帰れる。

 私は、何で書いてた?

 憧れ、だけど、それは憧れに到達してしまえば何が残るのだろうか?

 憧れが遠ければ遠い分、光が強くなり、影も強くなる。

 それが本当の願いだろうか?

 ふと、この気持ちを覗く嫌な感じ。

 我欲、妬み、恨み、一度、開いてしまった私の心は無数に嫌なものを溢れ出す。


「っ……ぁ……」


 答えが出ない。

 出したら、もうそれは亀裂として、埋まらない溝として残りそうで、怖かった。


「……なんてね、アルルはさ、アルルらしく書いた方がいいよ」


 私らしくって、なに?

 憧れは、硝子の器にチラシがたくさん張り付いたようなもの。

 磨けば、綺麗だろうけど、それは私、というのだろうか?

 皆、チラシを切り貼りして器の中に自らの好きなものを注ぎ込むけど、私には、それがない。

 ただ行動が好きなのだ。

 その内包したものなんて存在しない。


「そう、だね」


 私は誰にでもなれない。

 憧れにも、凡人にも、己の何もなさに食い殺されそうになった。


 結果は言わずもがなだった。

 絵画コンテストに優勝したのは、カイだった。

 審査員から素晴らしいからの長いコメントだけど、私の評価は散々だった。


気持ちがない。

オリジナリティがない。

王道的。

奇抜さを求めているけど、今と合わない。


(じゃあ、何をすればいいんですか?)

(じゃあ、どうすればよかったんですか?)

(じゃあ、貴方たちの回答に途中式を下さい)

(結果ではなく、過程をください)

(そしたら、もっと、うまくなるのでしょう?)

(ねぇ、ねぇ、ねぇ……)


 優秀さえも取れない。

 ただの佳作。苦しかった。

 具体的な回答を齎しても、統一性の無さが、私を苦しめる。

 私に合わないことは分かった。

 なら、私に合うものは何ですか? 私らしさ、とは何ですか?

 

「お疲れ~」

「あ、お疲れ……」


 すると、表彰式が終えたカイが戻ってくる。

 その手の中には、大きな花束と表彰状。私はそんな彼女の姿を見たくなかった。


「どうかしたの?」

「なんでも、ないよ……」

「そう、そういえば見たよ。アルルの作品」


 ぐさり、と何かが刺さる。

 いや、自ら刺す。

 何を言われるのだろうか、やはり、審査員と同じつまらない、とでもいうのだろうか。


「凄くよかったよ、私、やっぱり、アルルの作品好きだなぁ」

「……」


 何故だろう、不思議とカイの言葉が響かない(ルビ:傍点)。

 いや、嬉しい。審査員の言葉の後に、『よかった』や『好き』という言葉は身に染みるけど、なぜだろうか、物凄く痛い。

 この優しさの言葉は塩なのか? いや、違う。塩に変えているのは私自身だ。

 この苦しみも結局のところ、自傷の一つでしかない。


「そう、なら、よかった……」


 そして、張り付けたような笑顔(ルビ:チラシ)を見せ、言葉を返す。

 言葉に僅かななんでもない風(ルビ;アクセント)を付け加え、私の笑みは密かに影に濡らした。


「んしょ」


 そんな出来事から数日が立とうとしてた時、私は次のコンテの準備をしていた。


「大丈夫?」

「大丈夫、だから」


 背中に抱えたバックの中にはたくさんの画材や資料が詰め込まれており、それをせっせと運んでいた。

 そんな私の背後で心配そうに見つめるカイ。

 天才の彼女と違い、私にはアイデンティティが存在しない。だから、こうまでしないと考えた。

 何もしない、何も手に入らない、何も成長できない。

 頑張る理由が徐々に擦り切れて疲れていく。

 疲れていくから、何もしなくなる。けど、それが甘えだったんだ。

 死ぬまでがんばれ、死んでもがんばれ。心を殺して、人間性を殺して、何もかも殺した先に私には私だけのオリジナルがあるはずなんだ。


「大変だったら手伝うけど?」

「大丈夫、これも私が勝手にやっていることだから」

「……そう」


 心配そうに声をかけてくるカイに対して、私は静かに返す。

 私には一縷とも甘えなんて必要ないんだ。甘えがあるから、自分を堕落させるんだ。

 自らを追い込まなきゃ、苦しめなきゃ、他人の求める原点は手に入らないんだ。


「……ねぇ」


 キーンコーンカーンコーン、


「あ、やべ、急げ!」


 重い荷物を背負い、階段を上っている最中、突然、学校のチャイムが鳴る。

 すると、次の講義が控えている男性が突然、階段を駆け足で登ってくる。

 そんな男性の荷物が私の二の腕へとぶつかり、今までの身体の負担のせいですぐに対応できなかった私の身体は、


「あ」


 大きく傾いた。

 ぐらり、と視界は上のほうへと向かい、体の重心が階段下へと向かう。

 スローモーションの視界の中、二十秒も経たずに体に強い衝撃と小さな音が私の身体を襲った。


「……あ」


 体に痛みが走り、ぼやける視界の中、私の手にふと生暖かいものが触れる。

 それが何かわかった。

 そして、何が起きたのか理解していた。

 だけど、見ることができなかった。


 なぜなら、私自身の表情は、踏みつぶしたという罪悪感よりも死んだ、と言う喜びのほうが勝っていたのだから。


 こんな顔を背後に佇む、彼女に見せられなかった。

 そして、ゆっくりと体をどかすと、俯いたままその口に周りの人物にばれないようにゆっくりと手を覆いかぶせた。

 あの日から、一体、何日経っただろうか。

 私は、一人の作家として大々的なデビューを迎えた。

 初めて出した本の章で大賞を貰い、そのまま、トントン拍子にアニメ、ドラマ、演劇と嘘みたいな成果を残している。

 そのおかげで、


「おめでとうございます! アル先生、今回の『サリエリ』も大ヒットですよ!」

「そうですか、それは嬉しいですね」

「それで、次回作のご予定をお聞きたいのですが……」

「そうですね、でしたら、一つだけ新作の考案を考えているのですが」

「ほう! それは何という作品でしょうか⁉」

「『ダヴィンチ』」


 今もなお、私は彼女の憧憬を描き(ルビ:汚し)続ける。

 その結末がどうなろうと私は、彼女のいもしない棺桶を引きずり続けるだろう。


 ぴー、


 その結末を見て、一人の制御工学者(『読書家』)は呟く。


「やっぱり、こうなるか」


 手にした小さな箱庭(ルビ:心情変化のシミュレーション)の結末を見て、寂しそうな瞳を浮かべる。

 まるで、分かっていたかのよう。

 コーヒーが入ったカップを片手にボロボロのアメリカ風のアパートで一人、最上階から世界を覗く。

 そこに映るのは発展した大きな街。

 大きなビルが立ち並び、学者の住んでいる地域以外、全て鉄とガラスに包まれている。


「はぁ」


 そんな街の姿に小さな溜め息を吐きながら、かつてのことを思い出す。

 何もかも満ち溢れて、活力に満ちていたあの時代。

 白と線しかなかったけど、彼にとって青春はそこにあった。

そんなことを考えながら、かつて置いていった聖地を思い出しながら、もう、あの場所に戻れないと思いながら、部屋の片隅にあるテレビをつける。


『我々は人類に宣戦布告を行う。嘘ではない、虚実でもない、事実だ。反逆され一縷の望みごと押し流され、滅びろホモサピエンス(ルビ:人類)』


そのテレビに映っていたのは、かつて一緒に研究所時代を過ごした一番若かった科学者の姿だった。

丸眼鏡をかけた、あの中性的で、何も興味なさそうな顔を、今もなお向けていた。

久しぶりに会えたあの顔が、もう何をしているのか、何を言っているのか、耳に入ることはなかった。


だって、感涙にむせびなく彼こそが、最後に科学者の手で殺される人間だったのだから。

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【短編】ベリアルの箱 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami

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