第50話 まだ覚えている
中里 美香
クラス一…いや、学校一可愛いと評判のある女子生徒。どんな人にも優しく、コミュ力が高いため、生徒からも教師からも評価が高い。実家はかなりの金持ちらしく普段のたたずまいからはその片鱗が見えている…らしい…
スポーツ万能、成績優秀、まさに漫画に出てくるようなハイスペック美少女。まさに完璧な人間という奴だ。
「それなのに…」
今朝、俺はその完璧美少女からあからさまな避けられ方をされた。軽く挨拶をしようとしただけで向こうはいきなりどこかに行ってしまった。
「やっぱ…調子に乗ったのかな…はぁ…」
誰にも聞こえないくらいの音量で溜息をつく。俺が溜息をついたところで誰かが気にするわけでもないが。
「それでさ~」
「えぇ~何それ…」
「それな~」
誰が決めたわけでもないがクラスには一軍、二軍などのヒエラルキーが存在する。今クラスの真ん中の席で集まって騒いでいる人達は一軍と呼ばれる人たち。大して教室の片隅で静かに本を本で居る俺は三軍。
これはいつの間にか決まっていた。
「みんな、席に着けよ~」
担任の教師が教室に入ってきても彼らはしばらくしゃべったままだった。
「ん?」
この中学校では授業が終わった後で生徒が学校の掃除をすることになっている。毎月、掃除場所が変わる。今月は校舎の外の、普段は人が通らないため雑草や落ち葉などが溜まっている。
「何やってんの?」
「あ?何見てんだよ」
「いや…俺、ここ掃除なんだけど…」
同じクラスの一軍の方々だ。いつも一緒にいるサッカー部の三人組と…もう一人。誰かが地べたに正座している。
「うぅ…」
痛そうにあばらの部分を抑えている。その顔には見覚えがある。
「田中…」
小学校の時に何度も同じクラスになったことがある田中だった。中学校に上がってからは別のクラスになったこともあり話すことが無くなってしまった。
「お前、どっか行けよ」
「それ…イジメだよな」
一人が地べたに正座していて、その周りを三人が取り囲んでいる。明らかにまともな状況ではない。
「てめぇに関係ねぇだろ」
「関係なかったら…何?」
「は?」
言い返されると思っていなかったのか三人は面白いくらい同じようにポカーンという顔をしている。
「掃除するから後にしてくんない?」
「は…はぁ?」
「ちっ…行こうぜ」
「お前覚えてろよ」
各々捨て台詞のようなものを吐いてどっかに言ってしまった。あとには未だに正座している田中と俺だけが残された。
「え…と、じゃ…じゃあな」
「待ってくれ…」
正座していた田中は俺を引き留めようと立ち上がった。しかし正座していたせいで足がしびれていたせいか、つまずいて前のめりに倒れこんだ。
「大丈夫か?」
「あぁ…ありがとう」
田中はゆっくりと立ち上がった。顔を合わせることすら久しぶり過ぎて少し気まずい。
「本当にありがとう」
「いやいや…掃除の邪魔だっただけだよ」
「…はぁ」
小学校のころから変わらない坊主頭が少しばかり項垂れた。
「なんで…ボコられてたの?」
良い表現が思いつかず、適当に理由を聞き出す。
「いや~まぁ…機嫌を損ねちゃった…ていうか…なんていうか」
「大変だな」
「それはお前の方じゃないか?」
「え?なんで?」
田中はこちらを向いて俺に語り掛けて来た。俺は何が何だか分からないので田中に聞き返す。
「だって…あんなこと言ったら目付けられるぞ。お前もあいつらにイジメられるぞ」
「まぁ…その時はその時で考えるよ。最悪ボコられてもいいし」
別に暴力を振るわれても怪我をすることはない。些細な怪我なら適当に放置すれば良いだけなのだから。
「すげぇな…根性」
「いや、そういうのじゃないよ」
「はぁ…こんな気持ちなのか」
田中はため息をついて座り込んでしまった。それと同時に独り言のようなものを呟いた。
「何が?」
「覚えてるか?小学生の時さ…髪が長くて歯が出てた女の子いたじゃん」
「あ~あ、血原な」
「そう、その子」
確かに覚えている。教室で本をよく読んでいるような女の子だった。俺もその子の影響でよく本を読むようになった。急に引っ越してしまったため、それ以来会えていない。
「俺さ…あいつの事いじってたじゃん?」
「うん」
「あいつもこんな気持ちだったのかなって考えちゃうんだよな」
「まぁ…本人に聞かないと分からないけど…そうかもな」
本人がどう思っているかは俺には分からない。なので励ましの言葉などはかけられない。
「まぁ…もう一回会うことがあったらその時、謝ればいいじゃん」
「あぁ…そうするよ」
田中はもう一回立ち上がって制服に付いている土を払っていく。俺も近くに置いておいた鞄を取る。
「じゃあな…俺帰るから」
「あぁ…じゃあな」
本来、藤原真が掃除するべきだった場所は校舎と学校の塀の間にあるため周りからはほとんど見えない。しかし、何故か白髪の少女が見つめていた。
「……」
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