第19話 どうしよう

「あれ…なんで…ここに」


「なんで…」


 赤い目をした女はそこに立ち尽くしている。俺を見て固まっているというより、俺の向かいにいる白い女性を見ている。


「えっと…座んないの?ルナ」


「う…うん、ごめん」


 ゆっくりと体を動かし、月はなぜか俺の隣にある席に座った。おそらく友人であろう女はその向かいに座る。


「どうしたの?」


「いや…その…何でもない…」


 漏れた声が思っていたよりも小さかったためか美香は特に何も気づいていない。


 月の方はともかく美香の方は、もし俺と月の関係性や今までしてきたことを知ったら発狂するかもしれない。美香はいろいろ言う前に他の女を排除するタイプなので一番危ない。


「それでさ~その子が…」


 隣では月が友達と思しき女子と楽しそうに会話している。俺は今メガネをかけているためワンチャンばれていないのかもしれない。


「失礼します」


「あっ、来た来た」


 先ほど美香が注文していたであろうスイーツが運ばれてきた。見たことないスイーツが3つほど運ばれてきた。なんだこれ?


「何これ?」


「えっ…と、これが韓国ワッフルで…これが…」


 美香の言葉を耳で聞きながらも頭は高速で回転している。何とか美香の方には気づかせずに店を出るために細心の注意を払って脳を回す。


「写真撮っていい?」


「うん、いいよ」


 写真を撮っている美香を視界に入れながら向こうに気づかれないように限界ギリギリの横目で隣を見る。


「……っ!?」


 月は明らかにこちらに視線を寄せている。がっつりこっちを見ている。完全に怪しまれているだろう。どうする?


「…真?、どれ食べたい?私はどれでもいいけど…」


 美香の呼びかけによって思考が途切れた。すでに写真を撮り終え、今にもスイーツを食べたそうに見つめている。


「う~ん…これかな…」


「じゃあ…私はこれとこれね」


 三つのスイーツのうち一番無難そうなチョコ?ココア?で出来たケーキのようなものを選んだ。


「はい、これも」


 スイーツと一緒に運ばれてきた飲み物のようなものも一緒に渡してくる。美香の手元にあるものと同じものだ。


「何これ?」


「マカチーノって言うフローズンドリンクで、スイーツ感覚で楽しめる飲み物なんだよ」


「へぇ~これが流行りなのか…」


 一口だけケーキのようなものを食べてみる。触感はなめらかで思っていたより苦みが強い。コーヒーの風味のケーキというよりティラミスに近い気がする。


「うまい…」


「ほうでしょ」


「ちゃんと飲み込んでから話せよ」


 美香は口をモグモグさせながら言葉を発するがほとんど聞き取れない。


「……美味しいでしょ」


「うん…結構美味い」


 声で気づかれないようにいつもより声が小さくなる。美香はもう一品目を半分ほど食べ終わっている。


「何?」


「何って…」


「こいつメッチャ食うなとか思ってない?」


「思ってないよ」


 思ってないと言えば嘘になるが、美香は出会ったときからよく食う奴なのであまり変わってない。


「言っとくけど、いつもはそんなに食べてないから。今日だけだから…」


「そうだね」


「むぅ~絶対、思ってないでしょ」


 そういうと美香は持っていたフォークで自分が食べていたスイーツを切り分け始めた。


「はい、あ~ん」


 切り分けたものをフォークで刺し、こちらに差し出してきた。周囲の人間は食事や会話に夢中とはいえいささか恥ずかしい。周りの人には見えないよう素早く美香のフォークに刺さっているスイーツを食べた。


「どう?」


「美味い…でも一口で十分かも」


 かなり甘い。一切れでここまで甘いとなると全部食べたらと思うと気絶しそうになる。


「うわっ、大丈夫?」


「…大丈夫」


 隣の席が何やら騒がしい。すぐさま店員がやってきて、小さなコップを回収していく。お冷のコップにひびが入っている。


 落としたわけでもぶつけたわけでもないのにひびが入るとはどういうことだろう。思い切り強く握ったとか?まさか…


「どうしたの?目つき怖いよ…」


「ごめん、ちょっと目が疲れてるだけだから」


 隣の会話が少しだけ聞こえてくる。今日は気温も高く、室内も温かいはずなのに鳥肌が立つ。なんでだろう…


 




「美味しかったね」


 スイーツを食べ終わり、外に出る。まだ13時にもなっていない。来た時よりも気温が高く感じる。


「ねぇ…行きたいところある?」


「行きたいところ……ないな」


「じゃあ…デートしよう」


「デート?」


 デートというのはあらかじめ日程を決めたり、行く場所も決めてからするものではないのだろうか。


「う~ん…するって言ってもどこに?」


「どうしようね~」


「ちょっと歩こう。最近全然運動してなかったから」


「ああ」


 そこからなぜか駅前の通りを歩き始めた。食後の運動とするには少し遅い足取りで進んでいく。


「真…少し話があるの…」


「何?」


「実は…」






「…そっか」


「うん…これ知ってるの君とお母さんだけだから」


 気持ちに整理がつかない。感情がぐちゃぐちゃになる。


 どれくらいだろうか。いつの間にか昼頃に居た店の前を通りすぎ、駅の方に歩いていた。


「そろそろ帰る?」


「そうだね…」



「……あの、すいません」


「ん?」


「お話良いですか?」


 後ろから声をかけられた。落ち着いたトーンだが聞いたことがある。


「ん?……誰ですか?」


 美香は振り向いて、黒髪の少女に問いかけた。俺の目には先ほどの私服姿の月が写っている。先ほどいたはずの友人はいなくなっていた。


 いつもより目つきが鋭く見えるのは私服だからだろうか…それともメイクをしているからだろうか。


「少しお話よろしいですか?」


「ごめんなさい、今デート中なんで」


「…あなたじゃなくてその隣の彼に…」


「はぁ?……なんで…」


 美香は訳が分からないという顔をしている。そりゃそうだ美香からすれば赤の他人なのだから。


「その娘誰?…真」


「この人知ってるの…真君?」


 どうしよう…

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