第11話 無くした記憶(血原 月の過去③)

 吸血鬼は元々赤い瞳を持っていますが、吸血行為を行うと赤い瞳がより一層、血の色に光ります。吸血した血の量が多ければ多いほど光が増す時間や光の強さが増します。


 家に帰って来た時、ママは私の目が光っていることに気づいた。それは私が誰かの血を吸ってしまった証拠だ。





「月…真面目に聞いてくれ」


「うん」


 家のテーブルには私がパパとママに向き合うような形で座っている。いつも食事をするときと同じ並びだ。


「月はお友達の血を吸っちゃったのか?」


「うん…」


「お友達は大丈夫なのか?」


「うん…怪我はさせてないよ」


「そうか…良かった」


 パパは一回椅子に深く座り込んで深呼吸をする。


「月が吸血鬼だってことは、周りのお友達には秘密にしないといけないんだ」


「うん」


「だから…もしかしたら、学校を転校することになるかもしれない…」


「…違う学校に行くってこと?」


「…そうだ」


 パパは苦しそうな顔をしている。転校するかもしれないと言っていたが、おそらく転校はほぼ確定なのだろうか。


「お友達と離れるってこと?」


「そうなるかもしれない」


 ある意味の衝撃だった。転校というのは小さな自分にとって受け入れがたいものだった。




 そこからの展開は早かった。次の日には両親が学校に手続きをしに行き、一日挟んでその次の日にはお別れ会というものをクラスでやった。


 いきなりの出来事なのでみんな困惑していた。みんなには両親の仕事の都合で引っ越すということになっているらしい。


 今の学校に登校する最後の日、愛美ちゃんは泣きながらみんなで書いた寄せ書きを渡してきた。


 私は泣けなかった。悲しい、寂しい、というよりも急な出来事なので現実を受け入れられないと言った方が正しい。


「バイバイ…」


 最後の日、下校の時間まで愛美ちゃんはずっと私のそばにいてくれた。別れの挨拶をして帰ろうと少し歩いたところで…


「なぁ…」


 ふと後ろから声が聞こえる。あの日…私が逃げてしまった日と同じような声が…


「なんで急に引っ越すんだよ」


 振り返ると少年の顔が見えた。あの日以来、恥ずかしさと気まずさでろくに見ることが出来なかったので少し懐かしく感じる顔だった。


「パパのお仕事が変わったから…」


「そっか……もう一つ聞いていい?」


「うん」


「お前って吸血鬼なの?」


「えっ?」


 いきなりの質問に体が固まる。


「俺…あの後いろんな本を読んだんだけど、吸血鬼って他の人の血を飲んで、太陽の光に弱い生き物って書いてあったんだけど…」


「……」


「この前もヴァンパイアの本読んでたし…」


「…だったら」


「えっ」


「私が吸血鬼だったら何?」


 もう既に手遅れだと思い、開き直ってしまう。彼の方に向き直って顔を見る。逆光のせいで顔が見ずらい。


「みんなにバラすの?…良いよ別に、私はもう転校するから…」


「しないよ…俺、月の事好きだから」


「は?」


「実はずっと好きだったんだ。月の事…それだけ最後に言いたくて…」


「な…なんで…今なの…もう…私は…」


 驚きと悲しみで涙がこみあげてくる。もちろんうれしさもある。家族以外の誰かから好きだと言われるのは初めてだから。だけど、遅すぎる。


「私も……」


 喉元まで上って来た言葉を飲み込む。今ここでこの言葉を言ってしまったら、何か変わっていただろうか。


「ううん、何でもない…じゃあね」


「じゃあね……」


 泣きそうなのを我慢した声で何とか別れを告げる。帰り道は一度も振り返らずに帰った。お別れ会でも出てこなかった涙を流しながら。




 それから私は隣の市内の小学校に転校しました。なぜかたまにあの少年の血の味を思い出してしまいます。そして思い出すたびに彼に対する思いが高まります。


 それから時間が経つほど彼の事を思う時間が増えました。それはそれはとても長い時間……どうやら私の想いは他人から見ると重いそうです。中学の友達に言われました。


 高校生になったある日、偶然、あの時の少年もとい藤原 真を見つけました。その時私は思いのあまり彼に告白してしまいました。



「あの…付き合ってください」


「えっと……どちら様ですか?」



 彼は私の事など覚えてはいませんでした。当然怒りはありました。私は何年も彼の事を考えていたのに、いざ会ったら私の事など覚えていなかったのだから。


 しかし、私の事を覚えていないということは、いじめられていた頃の弱い私を覚えていないということ、これはこれで好都合だと思いました。



「君に残されてる選択肢は二つ…私の事を好きになるか、私と一緒に死ぬかの二」



 いつの間にか…私は死ねない彼を殺したいくらい好きになってました。

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