出陣前の更衣室

SS1話 まあ、こういう服描くのは好きだけど……


 これは俺が仕事に入る前の更衣室での出来事。


 休んだスタッフの代わりに表仕事にでることになった俺は、鏡の前で悶々と自分の姿と睨めっこしていた。もちろん、このお店の従業員がこれを着て仕事に勤しんでいたことは知っていたが、まさか自分か着ることになるとは思わなった。


「うっわ、これが俺かよ? うわぁ……」


 鏡を見るとそこにはエプロンドレスに見を包んだ白銀の髪の美少女がいた。これが未だに俺だと信じられない。こうして外見だけ見ると完璧に見た目も体も女の子になっているが、気分は男そのものなので現実とのギャップに気持ち悪くて吐いてしまいそうだ。


 カラフルにデザインされた超ミニスカに胸元は開いていて谷間が見えるようになっている。そして頭にはホワイトブリムと呼ばれるカチューシャをつけているのだが、これがまた恥ずかしくてたまらない。こんな格好で外に出るのかと思うと憂鬱な気分になる。


 はあ……他の女の子が着ているのを見るはまだいいとして自分が着る趣味なんて無いよ。


 鏡の少女は恥ずかしそうに頬を赤らめてスカートを押えてもじもじしている。絶対領域からのぞくニーソの食い込みがエロティックだ。ねーさんのお店の子こんな気持ちでこの服着てるのかな……? 今までラッキーと思ってチラ見してた自分を殴ってやりたい。あの子らこんな恥ずかしい気持ちだったんだな……


「……ぐす」


 あまりにも痴態にちょっとだけ涙が出てしまった。目の前には涙をすする女の子が写る。もうやだよぉ……


 界隈を騒がした炎上の当事者でその一年後に女の子になるって……俺の人生はどうしてこんな非日常と隣り合わせなんだろう? あー、二年ぐらい前はすっごく楽しかったなぁ……イベントとかにカッコいい服着てファンの人たちとたくさんオフ会とかしてたなぁ。作った作品も飛ぶように売れて……今はミニスカ履いてバイトしてますってか……はぁ……


 女になったのもそうだがあのトレパク冤罪をかけたVtuberが発端の原因だ。あの人、かなり友好的だったのに突然あんなこと呟いて……騙されてたのかな……? 今ものうのうと活動を続けてるみたいだけど冤罪かけておいて何事もなかったかのように活動できる神経は凄いと思う――負け犬の俺が何も言っても意味ないと思うけど……


 人生をどん底までに堕とされて性別も女に堕とされて――いつか理不尽に命さえ奪わてしまいそうだ。


「もし、戻れたらやり直したいな……最初から……」


 誰もいない更衣室に虚しく声だけが響いた。

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