第27話

 高校に通い授業を受けるのも慣れてきた頃。


 今から行われるのは体育の授業だ。


「何度見ても凄い体してるよな……」


 更衣室へと移動し体操服へ着替えている秀蔵にそんな事を言うのはクラスメイトの谷崎たにざき浩司こうじだ。


「んー、剣士として傷が残ってるのは恥なんだけどねぇ」


 幼少期からの修行のおかげで鍛え上げられた筋肉質な体。そして数々の実戦を経て刻まれた傷跡たち。


 筋肉は誇れるものだが傷はそうでもない。くっきりと傷が残ると言うことはそれだけ深い怪我をしたと言うことで、すなわち敵の攻撃を喰らってしまったというミスの証でもあるのだ。


 晒された体の至る所に残る傷跡を摩ると、其々が付いた時のことが蘇ってくる。


「ここの傷とか初めての実践で手も足も出ずにやられて瀕死になった時にできた傷だし」

「瀕死って……、まぁこれだけでかい傷痕が残る怪我ってことは相当やばかったんだろうな」


 脇腹にできた、使徒崇拝の亜人にやられた傷は特に目立っていた。

 大きく斜めに残る傷跡は見るだけで痛々しい気分になる。


 そんな雑談をしているうちに次の授業開始時刻が迫ってきていた。二人は急いで着替えを済ませ体育館へと向かう。


 今回の体育はバスケットボールを行うようだ。


 普段から激しい運動をし、常に鍛え上げている上、剣士としての身体能力を持つ秀蔵がクラウメイトに混じって運動するのは危険だ。


 故に秀蔵は基本的な練習のみで試合形式等には参加しないようにしていた。


「赤チームに二点追加ー」


 点数係をしつつクラスメイトが頑張ってる様子を応援する。


 殺伐とした世界を生きる秀蔵だがこういうほのぼのとした日常も悪くないなと思うのだった。







 体育は四時限目にあり終われば昼休みだ。谷崎等クラス内で出来た友人と共に昼を食べ終え午後の授業が始まる。


 沢山運動して腹も満たされてクラスメイトたちは襲いかかる睡魔と死闘を繰り広げていた。


 五時限目の日本史を担当する教師の、抑揚の少ないもったりした喋り方が余計に睡魔を引き寄せるのだ。


 うつらうつらと船を漕ぐ正村が椅子から落ちそうになるたびひやっとしていた秀蔵は何かを感じ取る。


 学校からかなり距離はあるが確かに怖気を覚える気配を感じた。


 そちらの方向に意識を向けていると秀蔵の携帯がけたたましい音を鳴らす。


 協会からの緊急連絡のアラームだ。


 アラーム音にクラス中が注目する中、通話を始める。


「はい、はい……わかりました」


 段々と険しくなっていく秀蔵の表情。教室内の空気が秀蔵の発する気迫に呑まれていく。


「今直ぐ向かいます」


 通話を切った秀蔵はそばに置いていた刀を腰に吊るすと窓を開く。

 教室があるのは校舎四階だが、躊躇うことなく窓枠に足をかけ飛んだ。


 後方でクラスメイト達の悲鳴が上がるが気にしている暇はない。グラウンドに着地した秀蔵は強化の段階を跳ね上げる。


 そして地面を大きく抉りつつ駆け出した。縮地を併用し瞬間的にトップスピードまで達する。


 急げ急げと。

 事態は急を要する深刻な状態だ。

 協会によって齎された情報。


 中級剣聖に匹敵する一等中位亜人の現界を知らせるものだった。

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