第10話:その命の重さを……
水を打ったように静まり返った会議室。
「なるほど、未来の
センター長はそう言って沈黙を破ると、
「確かに私はそう断言しました、それは認めましょう。しかし、それは1年前の私の意見であって、今の私の意見とは異なります。人と科学は、時間と経験を積み重ね、常に進歩するものです。1年前の常識は、今の常識とは限らない。我々は、いつから光速宇宙船の実現は不可能だという固定観念に侵されてしまったのですか?」
「センター長。人類は困難に直面した時、常にそれを克服することに挑戦してきました。だからこそ今の繁栄があるのです。今こそ新たな挑戦をする時なのです。アナクティシに搭載された亜光速エンジンは7年前には存在しませんでした。であるなら、4年後に光速宇宙船が存在する可能性も否定できないはずです」
「確かに亜光速エンジンは、7年前に
「不可能と言われた亜光速エンジンを可能にした朝霧
それは
「落ち着きたまえ、
「それは亜光速航行時の宇宙船間移動についてでしょうか?」
「確かにそれもある、それもあるが」
センター長はそう言って静かに
「
センター長は、一見優しい顔つきだが、その奥に潜んでいる厳しさを隠すことのない目で、
「
センター長は、宇宙飛行士といわず、あえて一樹と言うことで
「これから、私が言う事は
「
「そして、
「センター長!」
急に会議室にこだまする女性の声、
「さっきから、なにをいっているんですか! 目の前で苦しんでいる女性がいる。それ以上、なんの理由が必要なんでしょうか?」
「センター長のお考えは理解しました。しかしあえて反論させていただきます。我々
「今から約100年前、1つの国際的な人質事件が起こりました。そしてその問題に対処した時の首相はこう言ったのです。『人命は地球より重い』と」
「我々の最大のスポンサーである日本という国は、助かる可能性がある国民を決して見捨てたりしません。日本という国は、たった1人の国民の命を守るため、全精力を注ぐことができる国なのです。私は、そんな日本を誇りに思いますし、そういう判断ができる国の国民であることを誇りに思います」
「だから、私は皆様に2つの質問をします。真剣に考えてください。皆さんは一樹さんの『命の重さ』をどう考えていますか? そして我々のスポンサーである日本という国は、その質問にどう答えると思いますか? 以上です」
「皆様、本当に申し訳ない。私の妻はすぐ熱くなる性格でして……」
重苦しい沈黙の中、
「しかし、皆様は、私の妻の意見に反対意見を言う事ができなかった。それはなぜか? それは、皆様が一樹を助ける希望を捨てていないからです。今の時点で希望が残っているのなら、この会議は結論を出すことはできない。なぜなら、この会議の冒頭で、一樹を助けることを前提に、そして、その議論を尽くしてから決を取るとセンター長自ら宣言しているのですから」
そう言って
「しかし、そんな精神論では」
そうセンター長が口を開いたものの、それを
「お願いします、センター長。1週間時間をください。その時間をいただければ、私と
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