第14話 班

「以前から予告していましたように、週明けに校外演習を行います。そのためこれから四人一組で班を作ってください。それが終わったら班長を決めて報告に来てくださいね」


 〈過舞太刀かまいたち〉を習得してから少し経ったある日。

 担任のティーザ先生にそんなことを言われた。

 クラスメイト達はすぐに仲の良い者同士で集まり始めた。


「ジークスー、俺達も組もうぜー」

「ああ、よろしく頼む」


 私のところにもベックがやって来て、早速一人仲間ができた。


「サレンは……無理っぽいな」

「いつものことだがこういった催しで組むのは至難だぞ」

「さすがは”剣姫”様だぜ」


 そんなことを話す私達の視線の先には、人集ひとだかりが一つ。

 その中心にいるのは、何を隠そうサレンだ。

 誰にでも優しく、誰よりも強いサレンは男女を問わず人気がある。こういった班分けの度に争奪戦が起こるほどに。


 なお、今回の争奪戦の種目はじゃんけん大会である。


「しゃーない、他を当たるか」

「ベックは誰か誘いたい相手はいるか?」

「んー、いや、居ないな。ハーミルもセニオももう三人以上でつるんでるし」

「そうか……では彼女を誘ってもいいか?」

「おう、構わないぜ」


 ベックから許可を得たので、席に座ったままオロオロと目を泳がせている生徒の元へと向かう。


「ミーシャ、少しいいか」

「…………」


 無言でコクリと頷いた彼女はミーシャ。読書家の優等生だ。

 【魔法剣】の効果を調べる際、アドバイスをしてくれた人物でもある。


「今班員が私とベックしかいないんだが、一緒に参加しないか?」

「ぁっ、はい……っ、お願ぃ、します……」


 目元から下を本で隠しつつ、彼女は首を縦に振った。

 これで班員は三人目。

 あと一人見つければノルマ達成である。


「最後の一人はどうしたものか」

「誰でもいんじゃね? あそこの連中でもテキトーに誘えば」


 クイ、とベックが顎で示す先には、サレン争奪戦の敗残者達の姿が。

 彼ら彼女らも心機一転、他の仲間を探そうとしているが、まだ一人の者も数名見受けられる。

 彼らを誘うのでもいいが、しかし──。


「…………」

「何だ、あいつが気になるのか?」

「……いや、やめておこう」


 指摘を誤魔化すように視線を逸らす。

 彼の傍若無人ぶりは入学式以来、嫌と言うほど見せられた。

 私だけならともかく、班員達の害になるような人材は入れるべきではないだろう。


 そんな判断に異を唱えたのは意外なことにミーシャだった。


「ぁ、のっ。ジークスさんが誘いたいと、思うなら、誘ってくださって構いません。……あっ、いやっ、でもっ、それもベックさんが良ければ……ですが……」

「俺も別にそれでいいぞ。面白そうだしな」


 語末に行くにつれ小さくなる彼女の言葉にベックも賛同した。

 私は彼らにその場で待っているように言い、それから自身の席で独りふんぞり返っている男子生徒に近づく。


「班を探さなくていいのか? ゼルバー」

「このクラスはちょうど四十人。わざわざ探しに行かずとも、放っておけば最後に一班余るだろう。今から動く必要は皆無だ」


 入学式で編入生代表を務めたゼルバーは眉一つ動かさずそう言った。

 なるほど、一理ある考えである。

 とはいえ何か拘りがある訳でもなさそうなので特に支障はない。


「ならば私達の班に入らないか? メンバーはあっちにいるベックとミーシャで、あと一つ枠が余ってるんだが」

「……拒絶する理由もないか。いいだろう、このオレが入ってやる」

「助かる。一応聞くが班長したいか?」

「いいや、そのような雑用は好かん。お前達の中から選べ」


 必要なことを聞き終え、私は他二人の元へ戻った。

 ベックもミーシャも特段やりたそうにはしなかったため私が班長に就任し、ティーザ先生への報告に行く。

 それから少しして他の班決めも終わり、晴れて放課後となったのだった。




 授業が終わり、夕食までは自由時間である。

 私はいつものように鍛練場に向かい、稽古を始めた。

 今日は【魔法剣】を中心に鍛える予定だ。


 新調された実戦用の剣を構える。

 体の成長に合わせ、春休みに使っていた物より僅かに刃渡りが伸びていた。

 それに伴い重心等も変わったが感覚の調整はとっくに済ませてある。


「〈火纏〉、さらに〈火纏〉」


 二重に〈まとい〉を発動させた。

 二つの炎がせめぎ合い、対消滅する。

 ここまでは以前試したことの再確認。


「〈火纏〉、〈やいば〉」


 今度は剣身全体を覆う炎を、片側の刃に集中させていく。

 水流よりは操作し辛いが、こちらもそれなりの速さで動かせるようになって来た。

 十数秒で〈刄〉が完了する。


「〈かくし〉」


 燃え盛っていた炎の刃が、スーッっと徐々に小さくなり、消えた。

 〈かくし〉は魔象の出力をゼロにし、何も纏っていないのと同じ状態にする技……と呼ぶほどでもない基本機能の一つだ。

 必要性を感じないからしなかっただけで、出力調整自体は初めからできた。


「〈火纏〉、〈やいば〉」


 〈かくし〉の状態のまま新たに炎を纏い、片刃の形に押し固める。

 先に纏っていた方とは反対側の刃にだ。


「……解除」


 〈かくし〉を解いて行く。その際、〈刄〉の発動を絶やさないよう注意しなくてはならない。

 多重発動には集中力が必要である。一方にばかり集中していると、もう片方の〈刄〉が解けそうになるのだ。

 そうして八割方まで出力を戻せた頃、その炎が唐突に消えてしまった。


「時間制限か」


 【魔法剣】の持続時間は約一分しかない。普段なら掛け直せばいいだけだが、今回はそれでは駄目である。

 幸いと言うべきか、先程は初挑戦であり慎重かつ丁寧に進めたため、短縮できる箇所は多数ある。

 それらに気を配りながら再チャレンジしてみよう。




 そんな決意から約五分後、再々々々チャレンジを終えた私は両刃に宿った炎を見て呟く。


「成功、だな」


 片方はすぐに消えてしまったが、成功には違いない。

 ついに私は最大出力の多重発動を達成した。


(先はまだまだ長そうだ)


 だが、感慨に耽っている暇など無い。

 同時発動には成功したが、ここはまだスタートラインでしかないのだから。


「〈火纏〉、〈やいば〉」


 実戦で使えるようさらにタイムを縮めるべく、私は再度炎を纏わせたのだった。

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