第12話 決闘騒ぎ
「オレはお前ら雑魚共と馴れ合うつもりも足を引っ張り合うつもりもない。もしオレの邪魔をするなら容赦はしない。それだけだ」
空気の凍り付く音を聞く貴重な体験ができた入学式は、その後は特に波乱なく終わった。
私達はクラスごとに割り当てられた教室へと戻り、それから担当教諭の自己紹介を受ける。
「一年一組を受け持つことになったティーザ・ルコーンです。今年一年間、共に頑張って行きましょう」
真面目そうな男性教師は優しそうな声音でそう言った。
それから明日の授業の説明や高等部生に相応しい振る舞いをするよう注意を受け、放課後となる。入学式は半日で終わりなのだ。
ティーザ先生が教室を去り、ポツリポツリと話し声がし始め、やがて騒めきに包まれた。
「今年も一年よろしくね、ジークス君」
「ああ、世話になる」
前の席に座るサレンに挨拶した。
入学式の席が隣だったのもクラスが同じで、出席番号が一つ違いだったからだ。
なお、同じクラスになるのはこれで通算五回目。恐ろしい偶然である。
それからしばし話していると後ろの方から声を掛けられた。
「よおジークス、サレン。まさか同じクラスになるとはな!」
「久しぶりだな、ベック。私もクラス分け表で君の名前を見つけた時は驚いたぞ」
ベックの方へと振り返り答える。
彼も一組だったのだ。
「三人とも同じとか俺らめっちゃツイてるな!」
「ふふっ、そうだね」
「全くだ」
そうして春休みにパーティーを組んだ者同士で他愛もない会話をしていると、不意に教室が静まり返った。
何事かと周囲の様子を見てみれば、クラスメイト達の注目は教室の中心に向かっていた。
正確には、真ん中辺りの席で睨み合う二人の生徒に、だ。
「ずぅいぶん実力に自信があるらしいねぇ、ゼルバーくぅん?」
「当然だ。オレは厳しい修練に身を置いてきた。学院などで
「へ、へぇー、それは凄いじゃないかぁ……ッ」
怒りで頬をひくひくと震わせつつそう言ったのはネイス。サレンの昼食代を奢ってくれた彼だ。
侯爵家次男であり人一倍誇りを重んじる彼は、入学式でのゼルバーの発言が我慢ならなかったらしい。
それで席に座るゼルバーへと押しかけたのか、と事のあらましを理解した。
ちなみに、この二人ともクラスは同じだった。
「そう言うことなら一つ、僕とお手合わせ願えないかなぁ。ははっ、あんな大言した後でまさか逃げたりしないよね?」
「いいだろう。格の違いを教えてやろう」
一触即発の気配を発し、二人は仲良く並んで教室を出て行った。
その後を何人かの生徒が追う。
「俺らも行こうぜ」
「えー、決闘なんて見てもつまんないよ? そろそろお昼だしご飯にしとこ」
「そう言うなよ。あの喧嘩吹っ掛けた奴……えーと……そう、ネイス! ネイスってたしか『ソードロード』なんだろ? 相手も編入生代表に選ばれるくれぇなんだし面白い勝負になりそうじゃねえか!」
「ううん……じゃあ、行く?」
「私はどちらでも構わないが」
「なら決まりだな! 行こうぜ!」
と、そのような流れで私達も野次馬に加わることになった。
いつもの第二鍛練場に行き、決闘が始まる。
「メークシア領領主ケイン・デン・メークシアが子息、ネイス・デン・メークシア」
「マルセル領領主ヘンダー・デン・マルセルが子息、ゼルバー・デン・マルセル」
そんな名乗りから約一分後、
「ぶげらーっ!?」
「勝者、ゼルバー・デン・マルセル」
ネイスが白線の外に弾き飛ばされ、場外負けとなった。
「そ、そんな……この僕が……」
ゼルバーが扱っていた魔技は主に地属性。闇を司る希少属性だ。
通常より制御に難があるはずのそれを、常時三つ以上も並行して構築していた。
絶え間なく襲い来る闇の魔技にネイスは終始押され気味であった。
無論、彼もやられてばかりではない。闇の猛攻を斬り払いつつ徐々に近付いて行っていた。
しかし間合いまであと僅かとなり、一息に距離を詰めようとしたその瞬間、風の魔技によりリングアウトとなってしまった。
なんとゼルバーは木属性使いとしても一流の腕前を持っていたのだ。
「これで実力差は分かっただろう。失せろ、負け犬」
「ぐ、ぅぅぅ……っ」
「コラっ、家名を背負った決闘ですよ。相手を侮辱するような言動は慎みなさい」
「……すみませんでした」
審判に咎められ形だけの謝罪をするゼルバー。
それから二人は決闘後の礼をした。
ネイスはその間も顔を真っ赤にしていて、礼が終わると早々に鍛練場を後にする。
それに続いてゼルバーも鍛練場を去ろうとした。
傲岸な物言いと鋭い目つきで近寄りがたい雰囲気のある彼に、物怖じせず話し掛ける男が一人。
「凄かったぜ、さっきの試合! 魔技の精度も構築速度も金級冒険者レベルだった! なあっ、俺とも戦ってくれよ!」
ベックである。
先程までは私の隣に居たはずだが、いつの間にか飛び出していた。
尻尾があればブンブンと振っていそうなほどに興奮した様子だ。
「断る。有象無象に実力は示せた。オレにお前と戦うメリットはない」
だが返答は極めて冷やかなもの。
断固とした調子で言い捨てるとそのまま歩いて行ってしまった。
「クっソー、駄目だったぜ。あいつの魔技と闘ってみたかったんだけどなぁ」
「そういえば、ベックは強者と戦いたいと言っていたな」
「ああ。せっかく入学したんだからガンガン決闘して行くぜ!」
決闘は生徒や職員同士が模擬戦をするシステムである。
そして編入生が正式に生徒となるのは入学式を迎えた後だ。
ベックはずっと今日という日を待ちわびていたのだろう。
「あっ、そうだ。何ならジークスかサレンと戦ってもいいのか」
「えー、ワタシはヤだよ? めんどくさいし」
「私は構わないぞ」
「じゃあ決まりだな! ちょっくら申請してくる!」
ダッと駆けて行ったベックが審判を連れて戻って来る。
私の訓練用武器も持って来てくれた。
とんとん拍子で名乗りを上げ、決闘が始まる。
「〈水纏・水流〉──」
初手で【魔法剣】を発動。
刀身に巻き付くようにして水流が現れる。
ここまでならいつも通りだが、今回はまだ終わらない。
「──〈
水流が変形する。巻き付く形から片刃に沿う形へと。
水流が細く短くなるに伴い、水勢が激化し密度も上がる。
変化が終わった時のそれは、まるで瀑布を一筋切り取ったかのようだった。
「なんだそれ。前は使ってなかったよな?」
「纏った魔象を刃部分に凝縮し、効果を高める技だ。ベックが楔を飛ばしているのを見て着想を得た」
あのように私も魔象を操れるのではないか、と考えたのだ。
元々は遠距離攻撃を開発しようとしたのだが、それは失敗に終わった。
【魔法剣】は
が、その副産物として生まれたのがこの〈
圧縮するように力を込めることで魔象を濃縮・強化できる戦技だ。
初めは圧縮するのに一分近く要していたが、訓練を重ねた今となっては水流ならば数秒で完了する。
「面白れぇ、その〈
「望むところだ」
決闘フィールドの中央にて、私達の武器が激突した。
なお、決着は意外な形で訪れた。ベックの反則負けだ。
ついつい熱くなり闘技を使ってしまったからである。通常の決闘では闘技は使用禁止なのだ。
消化不良気味のベックを宥めつつ、私達は昼食に向かったのだった。
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