第5話 和解・・・・・できず

 翌日。俺はエリスタの家である侯爵邸を訪れていた。


「待ってくれ、エリスタっ!!」

「ッ、お帰りくださいと言っています! 来ないでくださいっ!」

「お願いだ、ほんとに待ってくれッ! 」

「キャッ!」


 俺はついにエリスタをこの腕に抱きしめて捕まえた。


「何年も放置した身で勝手に訪問したのは悪いと分かってる! でも好きで放置したんじゃないんだ! ほんとにエリスタが、エリィが好きなんだ。愛してるんだ・・・・・・」

「シリウス様・・・・・・私もーーーーなんて、言うと思いまして!?」


 パァンッ!


「へぶッ!!」


 なんてことだ・・・・! エリィに殴られたエリィに殴られたエリィに殴られたエリィに・・・・・俺はもう立ち上がれないかもしれない。


「シリウス様はまず冷静になってくださいませ! こ、こんな使用人たちが多くいる場で抱きしめるだけにとどまらず、あ、愛してるだなんてっ・・・・・シリアス様のバカッ!」


「ぐはッ」


 エリィからの(精神的に)強烈なパンチに加えて、言葉のパンチまで・・・・・ッ! 俺のハートはボロボロだ・・・・俺は本当にもう立ち上がれないかもしれない。


「えっ? シリウス様、ど、どうしましたの?」

「なんでもない、大丈夫だ。・・・・・・たぶん」

「そ、そうですの・・・・・」


 ああ、やっぱり優しいな、エリィは。高圧的なキツい言い方だが、これは俺を心配してくれているにちがいない。(2回目)


 それからエリィは屋敷の人気のない場所まで俺を連れて行くと、衝撃的な言葉を発した。


「と、とにかくっ! 早く帰ってくださいまし! 私はあ、会いたくなどありませんの!」

「ッ!!」


 あ、会いたくない・・・・・・・そうだったのか・・・・エリィが、エリスタ自身が会いたくないなら、仕方、無いよな・・・・・。


 泣きそうになりながらエリスタを見ると、こちらを震えながらキッと睨んでいる。


「ーーわかった。帰るよ。・・・・・・いつかまた会いたくなったら、いつでも連絡してくれていいから」

「ッ!」


 そうしてエリスタに背を向けた俺は、エリスタが、泣きそうな顔で俺を呆然と見つめていたことに気付かなかった。




ーーーーーーーーーーー


(リアレンス視点)


カチャ


「あの二人、大丈夫かしら」

「あの二人とは、婚約者同士であるカトラ侯爵令息とチェッカート侯爵令嬢のことですか?」

「あら、お茶をありがとう。そうよ、彼らを少しの間観察して分かったのだけど、どうも、どちらも上手く自分の言いたいことを言えない口下手らしいのよねぇ・・・・・」

「そうなんですか。お嬢様はお二方のすれ違いを解消して差し上げたいのですよね。婚約破棄されても、お嬢様の世話焼き癖は治らなかったようでございますね」

「失礼ね、人助けと言いなさい」

「自己満足のための人助けですか」

「もう! 一言多いのよ!」

「申し訳ありません」

「・・・・・全然そんな顔じゃないじゃない」


 わたくしがむーっとすると、公爵令嬢であるわたくしをこうして揶揄う彼女、侍女であるセラは、いつもは無表情のその顔にふっと優しげな笑みを浮かべる。


「よかった。いつも通りのお嬢様でございますね」


 え?と思い、再びセラを見るが、もう無表情に戻ってしまっていた。


「・・・・・・心配してくれたの?」

「さぁ、どうでしょう」

「もうっ!」


 もうっさっきの感動を返してほしいわ。でも、セラは、いつもこうしてわたくしに寄り添ってくれる。先程のやり取りだって、婚約破棄されたわたくしを少しでも慰めようとしてくれたのだろう。


「でもわたくしがあの二人の関係に突っ込んでしまったからには、最後まで見守るつもりよ」

「そうですか。お嬢様が決めたことに口は出しませんのでご安心を」

「当たり前よ」


 当たり前よそんなこと。何を言っているのかしら。でも、今のように図々しい時もあるけど、悪い気はしない。





 この数日後、、ちょうど話題に昇っていた人物が、わたくしになるべく早く会いたいという旨の手紙を送ってきた。




ーーーーーーーーーー


面白い、続きが気になると思って頂けたら、フォロー、☆で評価、応援、コメントしていただけると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

側近侯爵令息の憂鬱と歓喜 ラムココ/高橋ココ @coco-takahashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ