第39話 運命はこうして変わる

 リンが御神体の石におふだを張り付けると、それは強烈な光を放った。まるでリンの手を拒絶しているかのようでもあった。


『あたなは本来、人に仇なすような存在ではないでしょう! 鎮まりなさい!』


 リンは光に抵抗しながらお札を両手で押し付ける。その姿はまるで突風に抗いながら進む人のようであった。


 その光景を後ろで眺めているイサミんとウララ。


「これは……闇の力が中和されているのか!?」


「ああん、もう!! リンさんの状況もイサミんが言ってることも全然わかんないんだけど!?」


 次の瞬間、目も眩むような強い光が放たれた。その中心にはリンの両手がある。



 その場に居合わせた者たちが視界を取り戻すまで、少しの時間が必要だった。ただ、リンは……そしてイサミんは先ほどまでたしかにここにあった「闇」が消え去ったことに気付いていた。


「はっ……祓えましたわ」


 リンはその場で膝を内側にして崩れ落ちた。彼女の手にお札はなく、例の石は鈍器で打つ付けたように崩れ去っていた。


『これで災厄は防げました。私はホメ子さんを……そして世界を救ったのですね』


 呆気にとられているウララ、その横には、先ほどより表情を険しくしたイサミんの姿があった。


「リンさん、なにか悪いものが集まってくる気配がする!」


 安心しきっていたリンは、彼の言葉で意識を戻した。


『ここは元々、悪霊が集まりやすい場所でした。本来はそれを封じる役目の御神体様でしたが、いつしか逆効果になってしまっていたのが現状。今、御神体様が無くなっても、悪霊が一緒に消えてくれるわけではありませんわね』


 リンは悪霊を祓うかまえをとったが、自身に除霊の力がほとんど残されていないことに気が付いた。


 ――その時。


 彼女は自分の隣りに、神々しいまでの霊を祓う力があることに気付いた。それは恐らく、本来の御神体がもっていた力と思われる。


 彼女の横に今立っているのは、ホメ子だった。


 今のホメ子は、その場にいるだけで悪霊を退けるに十分な力を放っていた。


「どういうことです? まさかホメ子さんに元々の御神体様の力が宿ってしまったのですか?」


 その光景を見て、イサミんが言葉を発した。


「ホーリー・メイデンの覚醒だ」


 彼らの発するすべての言葉の意味がわからないウララは頭に数多あまたの「?」を積もらせて沈黙していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る