ホメ子さんはお見通し！？

第36話 金のオマメVS.真・サハギン仮面

　サハギン仮面は警戒していた。今、対峙している男は先日倒した相手より明らかに強者であると本能が伝えていたからだ。

　2人の男が睨み合うなか、ウララはふらふらと立ち上がった。喉になにか詰まったかのように大きな咳を何度も繰り返している。

『あの仮面……この前のとは違うけど、どう見てもイサミんよね？　悔しいけど今の私じゃ金の豆男（まめお）とはまともに戦えないわ』

「ふざけた仮面をしやがって……地面に頬ずりさせてやるよ！」

　先に動いたのは、金のカメオの男。もはや瞬間移動といっても差し支えない速さでサハギン仮面の背後をとろうとする。しかし、サハギン仮面はその彼に視線を合わせるように高速で移動をする。

「悪いがこっちも速さには自信があるんだ」

　カメオの男はよほど速さに自信があったのか……そして、そのプライドが傷付けられたのか、怒りを露にし、急ブレーキをかけて、サハギン仮面に向けて両手で衝撃波を放つ。その威力は先日襲い掛かってきた女のコンキスタドールの比でなかった。

　しかし、サハギン仮面にそれは命中しなかった。その仮面のデザインがまるで相手を嘲るかのように華麗な動きで攻撃を躱してみせる。

「君たちの攻撃は単調てワンパターンだな。だが、僕の攻撃はそうはいかない！」

　サハギン仮面は突き出した右手から巨大な光の矢を放った。狙われた男は高速で左に移動するが光の矢はそれを追尾する。仕方なく、両手を前にシールドを展開し、矢を受け止めようとした……が！

　光の矢は男の目の前で、まるで大輪の花のように放射状に散り、その一つひとつが小さな矢となって男の背後にまわり込み突き刺さる。

「ぐおおぉぉっ！　なっ…なんなんだ、この攻撃は！？」

　無数の小さな矢に射抜かれた男は、その場に膝を、そして両手をついた。

「セイントアローは変幻自在の魔法だ。貴様程度が見破れるものではない」

「おのれ……仮面野郎。この俺をコケにしたことを後悔させてやるよ！」

　男は片膝立ちの姿勢から両手を前に出して、再度衝撃波を放った。だが、それはサハギン仮面のいる方向ではない。彼の突き出した手の正面には、置物と化しているホメ子とリンがいた。

「くっ……！　動けない女性に手を出すなんて貴様は魔物以下だな！」

　彼の放った衝撃波は、「潰す」よりも「飛ばす」に力が込められていた。まるで等身大の人形のように2人の女性は動かないまま飛ばされる。

「このままでは屋上から落ちてしまう！　リンさんは僕がなんとかするからホメ子さんを頼む、ウララさん！」

　サハギン仮面は咄嗟に身体の小さいホメ子の方をウララに任せる判断をした。本来、「ホーリー・メイデン」こと、ホメ子を守るためこちらの世界にやってきた勇者なら彼女を受け止めにいくべきである。だが、彼はこの一瞬で、飛ばされた同級生両方を救うための最良の選択をした。

　魔法の出力を全開にして飛ばされたリンに追いつき、空中で受け止める。

「わっ…わかったわ！　絶対に落とさせなんてしないんだから！」

　ウララはこの瞬間、先ほどまでの体の痛みをすべて忘れていた。もてる異能力のすべてを空中浮遊と前進する推進力に叩き込む。

　彼女もまた、空中のサハギン仮面とほぼ同じ高さでホメ子を受け止めた。

「ふん……バカなやつらだ」

　次の瞬間、なんと切り離されていた空間は元通りになり、時を刻み始めた。

「貴様らの住むこの空間では異能力は使えまい！　仲良く地面にキスして死ぬんだな！」