第7話 キラー・ビー

 時は流れ、5月の大型連休が終わった。俺はまだ誉川を仕留めることができないでいた。彼女に近づくのは簡単だ。すでにクラスの中では嫌っている者はいないというくらいに誰とでも仲良くなっている。それに混ざって隙を窺うのは容易だが、逆にひとりになるのも少ない。


 学校という環境は、危険がありそうなところに必ず教師の目が行き届いている。引き受けた当初はすぐに終わると思っていた今回の依頼だが、思いのほか苦戦することになってしまった。



 今日は現代文の授業で漢字のテストがあった。暗殺家として生き、今後もそうしていくであろう俺にとって学業の成績などどうでもよかった。だが、あまりに成績が悪いと変に目立ってしまう。それゆえに悪目立ちしない程度には勉強をする必要もあった。


 答案用紙に記入をしながら、俺は誉川の背中に目をやった。


『テスト中はさすがに隙だらけだな』


 その時、窓際の席の方から虫の羽音が聞こえてきた。この音は、スズメバチ……。蜂の中でも非常に殺傷力の高い毒をもっている種だ。急に気温が高くなったために活動しだしたのだろうか。

 これはいいタイミングで現れてくれた。虫に憑依するのは容易い。「確実性」という意味では少し頼りないが、あれに乗り移って誉川を刺す。


 憑依中、俺の体は寝ている状態になってしまうが、テストを早々に終えて眠っている生徒の姿もある。決してそれに違和感はない。仮に殺しきれなくても、蜂に刺される事故に人為的なものを疑うやつなどいるはずがない。幸い、蜂は俺がなにもしなくても教室内に入って来そうだった。


 憑依には、それを実行できる射程がある。だが、向こうからやってきてくれるのならその心配もいらない。そして思惑通り、スズメバチは教室内に入って来た。それに気付いた女子生徒が大きな悲鳴を上げる。俺は蜂の姿を目で追いながら、こちらに近づいてくるのを待った。そして、対象は俺の射程内に入った。


『よし、憑依っ!』

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