利峰署管内 1st File

沢ユエノ

プロローグ

 清々しく晴れた真夏の昼間にも、その音はひどく耳障りに響く。

 カン、カン、カン、カン、カン……。

「ちゃんと置いてきた?」

 そこに少々不釣り合いな、幼さが抜けきらない若者の声が混じる。

「うん。誰にも見られてないし大丈夫だよ」

「俺らがやったってバレないかな?」

「爺さんが死んで頭がおかしくなったって噂の婆さんだ。そんな知恵ないって」

「旦那の形見とかいってぬいぐるみを連れ歩いている婆さんでしょ? マジで病みまくりだよね」

「俺らの後輩が煙草吸ってたところを学校にタレ込んだのもあの婆さんだぜ。ああいう偽善者ヅラした老害がこの国を駄目にするんだよ」

「わかる。そんな奴には消えてもらったほうが社会のためだよね」

 耳障りな音と赤いランプが電車の接近を報せる。地元の高校の制服を着た若者たちはすでに背を向けて歩き出していた。

「ねぇ……。もしこれで本当に死んだら?」

 遠ざかる警報機の音を意識の端で聞きながら、そのうちのひとりが問いかける。

「わたし知らないっと」

「俺も」

「別にどうでもいいし……。それ気にする必要あんの?」

「ないない。早く帰ろ」

 雲ひとつない青空によく通るあどけない声で、彼らは笑った。

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