第七話 「力の奴隷」 後編












 私たちは、隠し扉の広間で女面獅子と再戦した。

 松明の炎に鷲の羽根を放り込み、ディーが呪文を唱えた。

 すると、女面獅子の翼が、燃え上がる。

 悲鳴を上げ、のたうち回る女面獅子。

 その間に、私と老聖騎士、骸骨戦士四体で、取り囲んだ。

 めいめいが持った錐槍きりやりで、滅多刺めったざしにする。

 やがて翼が燃え尽きた女面獅子が、再び四肢で立ち上がった。

 囲みを解き、広間の隅に追い詰めるように、隊列を作る。

 だが、女面獅子は、突かれながらも、骸骨戦士の一体を強引に食い破った。

 血を流しながら、一直線に女面獅子がディーに駆け寄る。

 輝く杖を、ディーが突き出した。

 杖を握る後ろ手を、脇に抱え込むようにして、前足を深く踏み込む。

 獅子の胸に突き込まれた輝く石が、一際光を放って割れた。

 肉の焦げる音と匂い。杖の折れる音。

 吹っ飛ぶディー。ひるむ女面獅子。

 輝く石の明かりが消え、松明の灯火ともしびのみになる。

 駆け寄りながら、ディーが上体を起こそうといているのを認めた。

 女の顔が、けたたましく笑い声を上げた。


「朝は四本足」


 私と老聖騎士が、ほぼ同時に錐槍を女面獅子の尻に突き込む。

 幾つもの穂先が刺し込まれ、傷だらけの獅子の身体。


「昼は二本足」


 蛇の尻尾が突然に牙をき、私の顔に伸びてくる。

 しかし、槍の間合いだ。

 蛇は、私に届かない。

 女面獅子が、素早く反転して、老聖騎士に駆け寄った。

 左のかぎ爪で、彼の右肩を引っかく。

 鉤爪が鎖かたびらに引っ掛かったのか、ユテル修道士は、麦が踏み倒されるように床に叩きつけられた。


「夜は三本足で歩く者は誰?」


 獅子が、上体を起こして伸びあがった。

 両の前肢で槍を叩くように反らし、そのまま突き飛ばすように私に圧し掛かってきた。

 逃げきれず、後ろに倒れ込む。

 倒れた私を、前肢で抑え込む女面獅子。

 やつは、私の喉に喰いつくかのようにつらを下げてきた。


「誰? 誰? 誰?」


 背中と後頭部を打って、私は、一瞬意識が飛びかけていた。

 頭上の問う声音に、我知らず答える。


「人間だ」


 女面獅子が動きを止めた。


「AAAAAAAAH!!」


 とても怖ろしい響きの声を、女の顔が上げた。

 女面獅子は、私の上から飛びのく。

 広間の石壁に駆けてゆき、頭から壁に激突した。

 一瞬よろめいた後、背を反らし、再び頭を石壁に打ち付ける。 

 壁に何度も頭を打ち付けながら、女面獅子はうめき続けた。

 放っておいても、死ぬもしれない。

 だが、私は、その狂おしい声を聴き続ける事に耐えられなかった。

 私は、盾を拾って革帯に腕を通し、鞘から剣を抜く。

 歩み寄って、後ろに立った。

 女面獅子は振り返って、かぎ爪を振るってきた。

 私は、それを盾で受けた。

 盾は割れたが、そのつもりだったので体勢は崩れない。

 同時に、剣を大きく横に振り出した。

 剣が当たる前に手首を返す。

 両刃剣の手前側の刃で、女面獅子のに斬り付けた。

 老聖騎士から学んだ剣技の一つ。"包み斬り"。

 首の骨に、刃が食い込む音がした。

 血塗ちまみれの女面は、かくっと上を向き、それきり静かになった。




 膝を痛めて歩けないユテル修道士に、ディーが肩を貸した。

 私は、女面獅子の亡きがらを引きずった。

 階段の登り口にいた歩兵傭兵の見張り番は、私たちを見て何か言おうとした。

 しかし、私が階段を引っ張り上げた怪物を見て、腰を抜かした。

 私は、女面獅子の身体を床に投げ出し、肩で息をした。


「明日、身体どうなっても知らないよ」


 ディーが含み笑いしながら、私に言った。

 女面獅子の重さは、武装した男二人分ぐらいはあったと思う。

 昇降機の鉄籠てつかごに綱でぶら下げた時には、ちゃんと上にあがるか心配したほどだった。

 それから私は、腰を抜かした男に手を貸してやって立たせた。

 銀貨を握らせ、聖騎士修道会の拠点への使いを頼む。

 ユテル修道士には、放棄された石材に腰かけてもらう。




 基部だけ建てられ、その後に放棄された大聖堂には、当然屋根もない。

 曇天の空を見上げながら、迎えを待つ。

 そうしていると、興奮した人々のざわめきが、周りから聞こえてきた。

 出入り口や窓になるはずのアーチから、街の市民たちがこちらをのぞき込んでいる。


「ユテル修道士、ちょっとだけ、立てますか?」

「剣にすがれば、何とかな」


 司教座が据え付けられるはずであったろう舞台に、老騎士が立った。

 さすがに威風堂々として、負傷を感じさせない。

 私は、その一段下に、再び女面獅子を肩に担いで立った。

 怪物の姿をはっきり見せられた群衆から、悲鳴や畏怖の声が立ちのぼる。


「遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!」


 私は、精一杯の大音声だいおんじょうを張り上げた。


「これなるは、不浄の怪物を討ちし強者つわもの、神の忠実なる戦士、聖騎士修道会のユテル修道士なるぞ!」


 私が叫び終わると、一瞬、人々は静まり返った。

 汗が一筋、私のこめかみを垂れる。

 その時、曇天に切れ目ができた。

 司教座の舞台に降り注ぐ、一筋の冬の陽光。

 割れるような歓声が上がり、敬けんな人々が膝をついて祈り始めた。

 私は、女面獅子を投げ出すように床に置いた。

 そのまま転がって、天を仰ぐ。


「カスパー殿、貴殿もこちらに来い!」


 ユテル修道士が、しきりに舞台から私を手招きする。

 しかし、私は、もう起き上がれなかった。




 商人ジュリアーノの邸宅。


「で? 女面獅子の亡き骸は、教皇庁に贈ってしまった、と」


 やすりで爪を整えつつ、ジュリアーノは私に確認した。


「ご理解頂きたい。必要な事でした」


 私は、椅子に深く腰掛け、足を組んで答えた。

 実は、事前に、軽くディーのしゅを受けてきている。

 おそらく私の目は底光りし、常にはない眼力を備えているはずだ。


「まあ、この場合は仕方ないでしょう」


 彼は、ため息をついた。


「あと、今回得られたのは、これくらいです」


 私は、黒机の上に、木彫りの人形を置いた。

 顔は確かに人をかたどっているものの、胴体が判然としない。

 見ようによっては、鳥の身体に人の頭が乗ってるようにも見える。


「これは?」


 ジュリアーノの眉がピクリと動いた。


「これはですね……」


 私は、手に入れた時の状況を説明した。


 撤収前に、隠し広間をよく改めた。

 一角の壁に、犬頭の人間や天秤、蜥蜴頭の獅子らしき物が描かれていた。

 そして、その前に石台があり、鳥籠とりかごが置かれていた。

 この人頭鳥身の木彫りは、その中に入っていた。

 

「どうでしょう。これを引き取りますか?」

「帝国銀貨五十枚という所ですかね」

「百枚なら売ります」


 私は、そう言った。

 ジュリアーノは、舌先で上唇うわくちびるをなめた。


「私以外に、誰がこんな物を買い取ると?」

「別に買ってもらわなくてもいいんです。いずれ悪しきしゅに使われた物であれば、燃やした方がいいように思います」


 私はなかば以上、本気でそう言った。


「七十五枚」

「……手元に長い事は置かない方がいいです。ご忠告はしましたよ」


 私は、木彫りをジュリアーノの手元に滑らせた。





 聖騎士修道会の農家を見晴らす、丘の上。

 私は、墓標代わりに立てた木の棒に、祈りを捧げた。

 棒には、穴を開けて紐を通した獅子の爪が掛けられている。

 実は、女面獅子の亡き骸は、ここに埋まっている。

 農家の庭では、若い男たちが数人、訓練用の剣を柱に打ち付けていた。

 ユテル修道士が椅子に腰かけ、彼らを指導している。

 結局、異端審問官は来なかった。

 その代わりに、修道会本部から、若い男たちが送られてきた。

 昨今は成り手がいなくて、貴重な若手の聖騎士。

 ユテル修道士の膝の具合は、かなり悪い。

 もう、満足に戦う事はできないかもしれない。

 ただ、いずれ彼の後を継ぐ若者たちが、迷宮にもぐるだろう。




 冬至の祭りの日。ソーリンの家。

 私とディーは、用意していた晴れ着に着替えた。

 彼女は、鮮やかな茜(あかね)色の羊毛の外套。縁取りに白の毛皮。

 胸下で帯で絞られ、細かいが足元まで伸びている。

 髪はひっつめて、円錐型の帽子に押し込み、更に絹の飾り布をかぶっていた。

 私は、黒色の羊毛の長衣。

 身体に沿うように縫製された物で、肩口だけ分厚く膨らんでいる。

 それに、繻子織しゅすをふんだんに使った頭巾を頭に巻いた。

 二人とも足元はつま先の尖った革靴で、さらに木の下駄を履いた。

 何しろ、この時期の街はどこもぬかるみがひどい。

 街に出かけるべく、私と彼女は腕を組んで歩き出した。

 居留地の門のところで、門衛たちに出会った。

 彼らは、着飾った私達を見て、なんとも言えない顔をした。

 以前、私たちに絡んできた若者も、その日の当番だったようだ。

 彼は、ちらりとこちらを見ると、視線をらした。


「良いうたげを」


 門を通る時に、彼は、私たちにそう言った。










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包み斬り。ラップショット。またデューク・ショーンにご登場願います。

Duke Sean Stick Mechanics - Head Wrap

https://youtu.be/JlV7749U6TM

翻訳は最後に。


一方HEMA界隈では類似する技としてシュトルツハウというのがあります。

https://youtu.be/RBSD1R5lals?t=46



Duke Sean Stick Mechanics - Head Wrap の機械翻訳

00:03

このビデオでは、ヘッドラップの基本的なスティックの仕組みを説明します。以前のビデオで述べたように、私はヘッドラップを投げる方法が多くの人とはまったく異なります。このシリーズの以前のビデオをまだ見ていない場合は、戻って最初から見てください。全員が何らかのビルドを行っているので、導入から始めて、ここでやっていることにとって非常に重要なメカニズムを理解してください。ただし、以前のビデオで述べたように、私はあまり使用していません。腕と筋肉の

00:38

私がやっている、私が教えているスティックの仕組みは、身体に優しいように特別に設計されています。そして、私が投げる方法で彼らが包み込んだこのスティックは、私が行っている他のものよりもそれをよく示していると思います。肘や手首、肩に問題があるため、ヘッドラップで投げるのが難しい人はたくさんいますか。私が使用しているメカニックは体に非常に優しく、実際には最小限の影響しかありません。私が私であること

01:08

以前のビデオで述べたように、基本的なスタンスからショットを開始し、腰を回転させながらスティックを肩から転がし、ここでブレードと平行になります。スティックが肩から転がり落ち、胸と平行になると、決定的な打撃を与えるために必要なすべての力がここに存在するため、ショットを完了するために腕にさらに力を入れる必要はありません。彼がそれを持っているとき、それは終わります

01:46

決定的な打撃を与えるために必要なパワーなので、この角度からお見せします。これがうまくいくことを願っています。もし私がここでフラットスナップを終了するとしたら、終了したときは次のようになりますこの角度からネットを爆破してみよう基本的に耳の後ろに着地します

02:24

これは同じ場所であり、これをどのように行うかについて理解する必要があるのは、このモーションがラップを巻くために使用しているメカニズムであるということです。したがって、ここでも説明することが重要なことの 1 つは、私たちが行ったときと同じです。ラップを投げる フラットスナップを投げる理論を聞いたことがある人は多いと思いますが、スープの入ったボウルを提供するような感じで、手が平らになるので、私たちが使用していた古い方法の1つです。頭を包むことは、あなたが奉仕するという考えであることを教えるためです。

02:59

ボウルにスープを入れて、最後までたどり着いたら膝の上にそれを放り込みます。よくあるのは、私が人々にそうするように指示したときですが、これが彼らがこの飛行機から降り立つ場所です。このショットのコース全体を通して同じ平面を維持できることが非常に重要であり、その最大の理由は、以前のビデオで述べたようにエネルギー伝達です。直線から外れた変化はエネルギーを流出させます。ショットの

03:41

同じ平面に沿ってチップを平面全体に回転させると、すべてのエネルギーを受け取ることができ、そのエネルギーが指数関数的に蓄積して元に戻ることができます。これをもう一度行うと、チップが回転していることに気づくでしょう。体の端に向かってスティックの端に向かって、私の手は体幹に留まっていて、ここで取り出そうとするのではなく、これをコントロールできるようにしています。ここでラップを投げてから試してみたくありませんこれを行うには、腕と

04:19

腕が体幹から離れれば離れるほど、反対側が重くなるので、これをここに投げて転がろうとすると、その方が作業が増えるので、私がやりたいことは、私が始めたいことですショットの過程全体を通して同じ平面を再び維持するときに、私はこのメカニズムを使用しています。このメカニズムを使用すると、私の手がどれだけこのように出ているかがわかりますが、そうすることで私が維持できることもわかりますそれを今ここに入れて、私は残っています、先端を転がすことができるので、私は

04:59

これを投げるとき、私はこのショットの全過程を通して同じ平面を維持しており、本質的に私がもう一度やっていることです。それを実現し、より多くのパワーを生み出すために腕や手首、肘を使っているわけではありません。すでに存在している 私は文字通り剣の周りを回転させて固定している 邪魔にならないように手をどけているだけだ 手を使っていない 力を生み出すために腕をまったく使っていないこのメカニズムを使用して、すでに動いている剣の周りを旋回させます。

05:48

これが関節を守る方法、そしてこれが旅行のようです


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