半端な気持ちで読んではいけませんよ。
とか言ったら、作者さまの意図するところとはずれるでしょう。
これは、ハリウッド映画的な、恋愛コメディとして描かれています。
ポンポン、物語はテンポ良く、男、女、両方の視点から描かれ、読者は、主人公二人の気持ちが良くわかります。
ときめき、ピュアなかんじではじまった、社会人の男女の恋。
でもそれは、けして、ただ、好き、というだけの道のりではなかった。
大人の恋愛とは、結婚───ベッドイン、それらの要素から逃れて成立する事はありません。
(プラトニック・ラブなんて、今どきの社会人の恋愛でやったら、現実離れしてて……とても狭い恋愛物語になってしまうでしょう。ジレジレから進まない、という。)
この主人公二人は、
・ピュアさと、
・ベッドインに対して相手に思うところと、
・相手に「もっとこうして欲しいのに!」「そっちがそうでるなら、こっちは、こうよ!」と恋愛特有の相手への不満をぶつける気持ち。
それらを全て、内包しています。
内包したまま、物語は進みます。
だからすごく、なまなましい恋愛に感じてしまうのです。
繰り返しますが、これは、恋愛コメディです。
作者さまは、教訓めいた事なんて、一言も言いません。
しかし、読了後、「私の恋愛はどうであったろうか。男とは。女とは……。」
などと、身につまされてしまいます。
(私はね)
この短さで、ここまで、ぐっと煮詰めた恋愛を描きだす作者さまに驚嘆します!
作者さまはどんな恋愛をしてきたんだろう? とは、以前のレビューでも書かせていただいたところです。これは、この話はなかなか、かけない。
引き出しっていう言い方は間違いなく不適切ですが、作家といえども結局、じぶんの引き出しにはいっていないものは、だせない。だせるはずがない。
ないものを出せるとすればそれは天才ですが(いえ、作者はほんとうに天才なのかもしれませんが)、恋愛って、だれかを好きとか嫌いっていうだけで、もうとんでもなく気持ちの分子がうごくものだと思うんです。分子は、もちろん膨大で、ぜんぶ好き勝手に動く。そんなものを想像して自由気ままに動かせる人間が、そういるわけもない。
よって、普通に考えれば、作者さまはもうめっちゃくちゃいろんなお相手と北極から南極に跳ぶような恋愛を、重ねたの? となってしまうのです。
そういう、すき、きらいの両極端がいちにち数百回往復するような機微を表現した本作、小説のわくに収めておくのがもったいない。ドラマ化……いや、映画化、ですね。