限りなく『青』に近い『赤』




 ただでさえ退屈な学校のさらに退屈な先生の話。真面目に話を聞いている奴はいるのかと、一番後ろの席から教室を見渡せば、今日も今日とて、視界は真っ青だった。


 視界が青いのは今日に始まった話じゃない。きっと俺が生まれる何年も前から、大勢の人の手によって、この景色は作られたのだろう。


 そっと大衆のむなしさに視線を反らすと、机の上には修学旅行のしおりが転がっていた。


 無造作に置かれたしおりには、修学旅行の日程、持ち物、ルールなどが書かれ、前に立つ先生が読み上げている。


 一応、軽く目でも通しておくかと、先生の読んでいる箇所から読み始める。だが、あっという間に追い越してしまう。


 声に構わず、読み進めてみるが、急に読んでいる箇所が入ってこなくなる。先を読もうにも、片っ端から読み終わった部分を入れられては、読んでいる箇所が入ってこないのだ。


 どうやら先生は自分より先を読ませたくないらしい。


 あまりにもあんまりなマッチポンプにしおりを読む気は失せたが、音読は終わらないようで、生徒たちのページをめくる音だけが重なりあって聞こえてくる。


 思えば、あれから一年経った。


 ニコニコと笑わなくなって以来、時間の感覚は曖昧になり、感情はなみを失った。


 今が高二の秋で、修学旅行の行き先が二度目の京都ということに、実感すらともなわないのがいい証拠だ。自分のことだというのに、他人の人生を眺めているような気分になっている。


 ちなみに、一度目の京都は中学の修学旅行だったが、ニコニコするのに精一杯で、旅の思い出どころかろくに記憶がない。


 しおりから目を離すと、視線はすぐ横にあった窓ガラスに吸い寄せられた。


 そこに映っていたのは、『青』の髪に毛先だけ『赤』を入れたようなやつだけで、そいつの瞳は何かをうったえかけるように揺れていた。



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