『赤』と『青』の世界




 この世界は二つに分けられている。


 それが、個を表す『赤』と、集団を表す『青』であり、人々の髪色はこのどちらかに染まっている。


 髪色は本人の考えによって決まり、内的変化によって変わる可能性を持つが、おおよその人間が生まれ持った色で生涯を全うすることが多い。


 故に、髪色の変化とは色の濃淡の変化を指すことが多く、どちらかへの比重が重ければ重いほど、色は濃くなり、軽ければ軽いほど、色は淡くなる。


 そんな『赤』と『青』が支配する世界の日本はまさに真っ青だった。


 島国という閉鎖された環境が、何をせずとも集団意識を育て、生まれが『赤』だろうがなんだろうが、問答無用で『青』にしてしまう。


 それは現代においても続き、日本に暮らす人々の髪はそうじて青い。赤い髪の人間など観光客ぐらいなもので、あんに『青』の人間だけが生きることを許されている。


 だから、俺の人生は終始自分が無害な存在だとアピールすることで埋め尽くされていた。


 人と会えば、まずは己の髪色にギョッとされる。


 そして、こっちからニコニコ説明して、やっとホッとされる。


 俺は会話ごとにひどく億劫おっくうな作業を要求され、形だけの笑顔を振り撒き続けなければならなかった。少なくとも、俺の人生はそんなことの繰り返しだった。


 だが、それも高一までの話。


 当時高一だった俺は、今まで行ったこともなかった東京にノコノコと赴き、そこで見たあまりの現実に息ができなくなった。


 そして、ニコニコと無害さをアピールするだけの俺は『青』に溺れて死んだ。


 それ以降は死んだように生きた。


 朝は決められた時間に起き、夜は息をひそめるように眠る。


 弁明する気力を失った俺から人は離れ、ただひたすらに時間だけがめぐった。


 何にもなれない俺に、何かを選ぶことなどできなかった。


 しかし、そんな俺にも変化のきざしが近づいていた。



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